千七百七十八(和語のうた) 敗者復活なるか「近代短歌とその源流 白秋牧水まで」
壬寅(西洋野蛮歴2022)年
七月十一日(月)
前回は玉城徹「子規-活動する精神」を酷評したので、今回は「近代短歌とその源流 白秋牧水まで」で敗者復活させるのが、今回の企画だった。それなのに前回同様、酷評になってしまった。架空面談記の章では、「主」に「客」が質問する。私は、(1)創作の会話、(2)講演録、の二つは読みたくない。どちらも無駄な文が多くなる。冒頭から
客 今日は、短歌の音楽性とでもいうような問題についてお話が伺いたくて参りました。
主 それはご苦労様。しかし厄介な問題ですな。わたしなんかに巧いお答えはできそうにありません。それに、うっかり答えると、大きな間違いを犯しかねないんです。(以下略)

これは冗長がひどい。このあと、調べについてどの範囲かはっきりしないと答へたあと
客 初歩的な質問で申し訳ありませんが、短歌朗詠というのは、どうお考えでしょう。
主 あれは嫌だね。そりゃ、牧水のように酔って一人自分の歌を低唱微吟するのは良いですよ。しかしね、人さまの歌を、しかも、公衆の面前で、蛮声を張り上げて朗唱するなんてのは、君、もう文化じゃないよ。あれは早く短歌の世界から駆逐しないといけない。

私は朗詠がどう云ふものか知らないので、動画で観た。詩吟のことだ。詩吟は漢詩と和歌を対象にするが、和歌のときを朗詠と云ふさうだ。現代の形は江戸時代末期に完成したが、平安時代から続くさうだ。
動画を観たが、美声だ。むろん出演者により異なるが、蛮声と呼ぶ玉城はとんでもない男だ。かつて「あ、い、う、お」を含む字余りは破調では無かったが、その理由は朗詠にあると思ふ。

七月十二日(火)
蛮声は暴言なので、この本を読むことを打ち切ってもよいのだが、我慢して読み進むと
客 斎藤茂吉の歌など、(中略)大そう音楽性の豊かなものに思えますが。
主 おっしゃる通りです。実に耳の良い人だね。彼は「写生」なんて言うけど、音楽のために写生ぐらい犠牲にしかねない作者ですよ。彼の歌人としての成功は、その点にかかっていたと思われます。
(中略)
橡(とち)の樹も今くれかかる曇日の七月八日ひぐらしは鳴く
主 うまいね。『あらたま』でしょう。異常と言ってはいいほどうまい。何の母音がどうでてくるというような分析は末梢に過ぎません。それより一つ一つの語が、流れるように出てきながら、音と意味とをそれぞれそれぞれ独立に主張しながら全体のまとまりを作ってゆく。大したものです。

しかし玉城さんは好きではないと云ふ。茂吉好きはそこにひかれるが、感傷は感傷に過ぎないと。
私は別の理由で好きではない。七月八日がどれだけ音がよくても、空想の、或は本当にその日だとしたら私的な日付を歌に入れてはいけない。

「短歌批評における白秋」の章では
伊藤左千夫は、赤彦および茂吉の意識的作歌法に対して、相当に激しい批判を展開し(中略)左千夫の死後も、二人は遂に左千夫の論に完全には承服しなかったように見受けられる。

これについて
左千夫のいわゆる「短歌、叫びの説」は、実は、赤彦、茂吉の意識的作歌法に対するアンチ・テーゼとして提出されたものであった。

そして
その説の中心は(中略)あらかじめ効果を意識して、その目的に到達するように作られた作品は良くないという点にある。(中略)もっと自由な言語の活動そのものでなければならないと、左千夫は言いたかったのである。

私は、左千夫の「自由な言語の活動」に賛成。
意識して文を作ると論文かまたは字数の合ひた散文


七月十三日(水)
牧水の歌を左千夫が批評した。
春白昼(まひる)ここの港に寄りもせず岬を過ぎて行く船のあり

これについて歌論を展開するが、私は歌論で他を批判することが嫌ひだから、その部分は読み飛ばし、左千夫が試しに修正した歌は
静かなる春の真昼を煙立て此処には寄らず行く船のあり

私が修正すると
目の前は春の白昼(まひる)に港あり寄らず行く船岬を過ぎる

私は同じ助詞の繰り返しは避ける。「の」は例外のこともあり繰り返してよいのなら
目の前の春の白昼(まひる)の港へは寄らず行く船岬を過ぎる
(終)

追記七月十四日(木)
玉城徹「昭和短歌まで-その生成過程」「芭蕉の狂」も読んだが、特に取り上げる内容はなかった。このほか歌集三冊、全集一冊も読んだが、ページめくりで終はった。玉城徹さんの著書の一冊には石原莞爾その他に言及する章が一つある。私自身は文芸性を優先してその他の作歌とは手を切った。だからこの章は読まなかった。石原莞爾自身は、アジア主義なので手を切ってはゐないが、予備役後の発言に学者の引用とは云へアジア内の民族差別があり、距離が遠くはなった。

三たび玉城徹さんの本を読む

「良寛、八一、みどり。その他和歌論」(八十)へ 「良寛、八一、みどり。その他和歌論」(八十二)へ

メニューへ戻る うた(三百十七)へ うた(三百十九)へ