二千九百五十七(うた)短編物語「会津の巨城」
乙巳(西洋地球破壊人歴2025)年
十月二十一日(火)
はじめに
これまで物語(世間で云ふ小説)を書かなかった。それは一つ目に、長い文章が嫌ひなためだ。平家物語は長い。しかし清盛と平一族の史実が長いからだ。そして、個々の話は短く完結するものが多い。だから平家物語は合格だ。
二つ目に、実在した人物の話し言葉を描写してはいけない。それでは、其の人の人格を捏造する。だから昔の物語は、話す内容が文語であった。
別の表現で、人生は物語だ、と云ふこともあった。すべての人は、一つの物語を書く。それで十分ではないか。
今回短編だが物語を書いたきっかけは、向羽黒の巨城跡を知ったことだ。それほど、此の城の衝撃は大きかった。今まで知らなかった。更に、鶴ヶ城の近くにもう一つ城があった史実がある。
第一章 会津の巨城出現
最後の将軍は、駄目な男だった。鳥羽伏見の戦ひに幕府軍が破れた途端、江戸へ逃げてしまった。後世の文章書きに、幕府と朝廷の和解を願ってのことだとする者もゐるが、それは見当違ひだ。もしさうなら、鳥羽伏見の前に戦を避けた。蛤御門の戦を仕掛けた長州は、その後は賊軍の汚名を着せられた。それと同じで、戦の後に負けた側が和解などあり得ない。
小栗上野介は、このままでは西軍と会津で戦が起こる、と見た。徳川埋蔵金を会津に運び、兵糧米を会津に運び、江戸で西軍に反撃しようとする者たちを会津に連れて行った。今でも上野寛永寺は、古い堂宇がたくさん並ぶ。変な噴水や博物館はない。動物園は、旧江戸城に作られた。天皇様は、京都にゐらっしゃる。
会津へ行き、向羽黒の巨城跡に見掛けだけの城を作った。いざとなれば籠城するつもりだったが。そして、奥羽の農民町人を多く集めて普請し秀吉の一夜城の再現だ、と日本中に触れ回った。
このころ西軍は、長岡に達した。長岡藩家老河井継之助と会談したが、河井は中立を嘆願する。西軍は、兵を出すのが嫌なのだな、と勘違ひし、我々の足元を見よって、と内心は大いに不満だった。しかし仲介をするとの申し出は、聴くに値した。関ヶ原の合戦直前に、大兵力が会津へ向かった。向羽黒の巨城を攻略するには、それだけの兵力が必要だった。今回も、さうなるだらう。和睦できるなら、の希望は西軍に強かった。
会津なる向羽黒の巨城跡 見掛け倒しで復活し 西軍東軍めでたく和解
反歌
西軍が和解せぬなら巨城跡山城につき不落と化ける
西軍は、鳥羽伏見の戦ひで東軍と顔合はせをしただけで長岡まで来てしまった。東軍は、第二次長州征伐以後、西洋戦術を身に付けた、との噂も流した。実際、幕府が抱へた蘭学者を総動員して、西洋戦術を或る程度は習得したが。
織田信長が強かったのは、緒戦で負けたあと、大きく改良をした。緒戦の次に、大改良をするのか、それともずるずると敗戦を重ねるのか。小栗上野介たちはそのことに気付き、信長型を採用した。
第二章 継之助の斡旋
継之助は、西軍と東軍の双方を何回も往復した。そして、東軍は敵対行為をせず、京都に随ふことで合意した。とは云へ、京都守護職だった容保への敵意は強い。継之助は幕府の職務として命令に従ったことを粘り強く説得した。そして、旧幕府の老中数名を切腹させることで決着した。
ところが報告は江戸に上ると、最後の将軍を町人に身分変更の上で打ち首、にすり替はった。最後の将軍が大阪城から敵前逃亡したことは武士にあるまじき行為だ、と強硬に主張する外様大名が多かった。水戸の天狗党を見殺しにしたことにも、嫌悪感を持つ者が多かった。遺体は街中に置かれたが、投石する者が多数現れた。
土佐薩摩福井宇和島四賢侯 そこへ加はる一愚人 すぐ崩壊し内乱へ薩長による国賊幕府
反歌
四賢侯参与会議を一愚人壊し内乱多数の死者に
反歌
武力にて政権取るは幕府にて権力欲と欲深き人
第三章 新政府
新政府は、徳川家を含めすべての藩が大小を問はず平等になった。新政府の役人へは、領地の多い徳川家が給金を負担することになり、そのため最初は元御家人旗本が多かった。しかし少しづつ、各藩から集まるやうになった。岩倉使節団は中止になった。そもそも岩倉は、ずるい男として悪評が立ち、このころ政府から追ひ出された。前原一誠と西郷隆盛は、新政府でも要職を続けた。
西郷が渡韓し説得し、ロシアの脅威がある韓国を、清国と日本が共同防衛することになった。満洲にロシアが進出してきたため、清国と日本でロシアを追ひ出した。満洲は清国の領土とし、日本人も居住できることになった。このころ国内では、廃藩置県が実施された。
清国は改革を行ひ、皇帝は象徴として中国と改名した。インドで独立運動が高まり、中国と日本が応援したため、イギリスは撤退した。人口の多いインド、中国、日本により、欧米の化石燃料消費に歯止めをかけ、地球温暖化は起きなかった。
西洋は自力で石油燃焼を止める能はず 東洋の反対により停止に至る
反歌
西洋は地球を保守の思想無し野蛮文明補正を要す(終)
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(今回は、初めての物語なので「和歌論」に含めたが、次回からは入れてゐない)
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