二千七百五十七(うた)ドナルドキーン「日本文学史七 近代現代篇」
乙巳(西洋発狂人歴2025)年
五月十四日(水)
ドナルドキーン「日本文学史七 近代現代篇」は、読み始めてキーンドナルド「正岡子規」を初日に読んだときと同様の現象を起こした。明日以降に、前回同様に改善するか。
今の時点では、改善しないと思ふ。その理由は、外国人(主に欧米人)向けに入門書として書かれたことと、訳者が新井潤(めぐ)美(み)さんと云ふイギリス文学の専門家である。日本文学に対しキーンさんより遥かに劣る人が、浅く広く書かれた本を訳すとどうなるか。
引用した歌や俳諧発句に、いちいち英文を付けるのはくどい印象を受ける。訳だから、英文の解説がある訳ではない。英文に興味がある人は、原書を読む。
この原書は、キーンさんが日本国籍を取得する二十七年前なので、ドナルドキーンとした。

五月十五日(木)
この訳書で一番悪いのは「序」「短歌」「俳句」のうちの「序」だ。
近代の日本文学は伝統的な作品、特に幕末に書かれた作品の価値を否定するところから始まった。(中略)明治十年代に現われ(中略)た西洋文学の翻訳は、新しい文学の誕生をもたらす原動力となった。

幕末の作品を否定する理由を述べるべきだ。江戸時代の後期は、文学が低調だったからではないのか。また明治十年以降に翻訳が入り、西洋の真似が流行ったものの、その後は国文学が復活したのではないのか。悪く云へば反動、良く云へば一時的興奮の消滅、中間で云へば止揚だ。
明治二十年代に正岡子規が短歌と俳句に加えた攻撃はあまりにも破壊的だったので、プライドを持った詩人なら、それ以降短歌や俳句を作り続けることに疑問を抱かずにはいられなかったはずである。

これは子規を褒め過ぎどころか、嘘の領域である。俳諧発句について述べると、今でも松永貞徳、西山宗因、松尾芭蕉、小林一茶の影響は大きい。子規がいくら芭蕉を否定しても。
明治以降は、世の中が変はったため俳諧発句は変はった。これは子規の影響ではない。
斎藤茂吉の短歌は、近代日本の詩歌のすべての分野の中で、もっとも優れたものの一つである。

これは褒め過ぎだ。茂吉自身は、自分と左千夫先生は同じ程度なのに、先生は有名にならない、と言ったことがある。茂吉と赤彦は同じ程度だし、左千夫と(長塚)節は同じ程度である。以上は子規門下で、信綱、鴎外は別の流派で同じ程度だった。
キーンさん日本文学入門の国外向けは合格の書に


五月十七日(土)
「短歌」の章へ入り、明治元年「諷歌新聞」に
歌人は「花鳥風月」を描写するにとどまらず、正邪を明らかにし、知恵を広め、下劣な考えを非難して、社会に対して訓戒を与えなければならない

大賛成である。とは云へ小生は、美しさを詠むのもよいし、社会の役に立つ主張を詠んでもよい、とする。この新聞が両方を詠むことに賛成かどうかは、『「花鳥風月」を描写するにとどまらず』とあるから、賛成なのだらうと想像した。
明治十一年に「開化新題歌集」の序文に
日本が外国との交流を始めて以来、歌人の見るもの聞くもの(説明略)は昔に比べて大きく変わったので、(中略)汽車や気球などの新しい発明を歌に詠まなければならない(以下略)

これも大賛成である。と同時に、景観を詠ったものや、和語のみの歌も作らなくてはいけない。子規みたいに矮小な歌論を掲げる者は下手な歌詠みである。尤も貫之よりは良いが。
ドナルドのキンさんはこのあと、直文に始まり明星派、白秋、自然主義などを紹介し、子規について
優れた短歌や俳句の多くは主観的ではなく客観的であり、それ故にこそ自分は客観性を奨励する(以下略)

この主張は、子規の矮小さを表わす。
遠山の金さんもじりドナルドのキンさん敬意前と変はらず

現代の読者にとって『古今集』が陳腐なあるいは取るに足らない歌集のように思えても、その時代にはまったく違った意味を持っていたのだと主張する歴史的相対主義者たちに対して子規は、その意見には同意するが、自分の意図は詩歌の歴史的位置を解明することではなく、絶対的な文学的価値の評価にあるのだ、と答えている。

小生は、古今集以降が選者による秀歌なので偏る上に、選ばれようとする名誉心、金銭欲、出世欲が絡むことを指摘した。しかし、古今集に含まれる技巧は歴史価値を持つ、とも主張してきた。
子規の区分では、小生は歴史的相対主義者だし、子規がいくら口先で同意すると云っても、絶対的な文学的価値は低いとする。子規の歌や歌論も、後世の平成以降には、下手な歌、矮小な歌論と呼ばれることを知らないらしい。
きんさんとぎんさんと云ふ長生きの姉妹がありて双子にて 百歳過ぎも話好き百八歳と九歳で平成十二と十三に皆に惜しまれ次へ旅立つ

反歌  キンさんの著書は尊し子規の云ふ歌論矮小世界発信(終)

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