二千六百二十六(朗詠のうた)萬葉集巻第五、第六
新春前甲辰(西洋発狂人歴2025)年
一月十三日(月)
牧水、左千夫、赤彦らの歌を本歌取りする特集は、萬葉集に入った。図書館の巻第一からは貸出中で、巻第五から始まる。
常盤なすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも
葉が落ちてすぐの春には緑なす心新たに喜び新た
次は
言問はぬ木にはありともうるはしき君が手馴れの琴にしあるべし
言問はぬ木にも命が神々が蟲や鳥棲み苔や茸も
次は
うちなびく春の柳と我がやどの梅の花とをいかにか別かむ
花無くも柳枝垂れしなやかに梅や桜の花に劣らず
次は
万代に年は来(き)経(ふ)とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし
万代に続くはずなる梅の花星が滅べばすべてが消える
次は
梅の花折りかざしつつ諸人の遊ぶを見れば都しぞ思ふ
都には仕事が多く見えれども人多きにてあまり変はらず
この本歌取りの歌には、二通りの解釈がある。或る程度の都市と都を比べれば、変はらないだらう。本当の田舎町と比べれば、仕事がある。
巻第五から始めた感想は、古今集と万葉集に相違は無い。他の巻へ進めば、感想も変はるだらう。
一月十三日(月)その二
巻第五は「松浦川に遊ぶ序」で、内容が一変する。
松浦なる玉島川に鮎釣ると立たせる子らが家道(ぢ)知らずも
旅人が出会ふ娘子(をとめ)ら川に沿ふ水の神かも山の神かも
同じ段落には
松浦川七瀬の淀は淀むとも我は淀まず君をし待たむ
川の瀬は澱むも水と山の神澱むことなく川面に映る
後人の追和の三首では
人皆の見らむ松浦の玉島を見ずてや我は恋ひつつ居らむ
人皆が見る玉島を遠くより川と娘子(をとめ)ら恋し幾月
「松浦の仙媛(ゑん)の歌に和(こた)ふる一首」の詞書の後、都からの返歌
君を待つ松浦の浦の娘子らは常世の国の天娘子かも
玉の川玉島にゐる娘子らは恋しき心澄む神々か
訳注に『君を待つ 「待つ」と「松」の同音反復の枕詞としての働きもある』とあるので、本歌取りも「玉の川」を「玉島」の同音反復枕詞とし、「澄む」を「住む」の掛詞とした。
一月十三日(月)その三
巻第六へ入り
沖つ島荒磯の玉藻潮干満ちい隠り行かば思ほえむかも
潮満ちて隠れる玉藻恋しきは神代より刈る潮引けるとき
本歌取りの歌は、本歌を反歌とする長歌の解説。
皆人の命もわれもみ吉野の滝の常磐の常ならぬかも
雨降らぬ時にも枯れぬ藻の池は常磐木に似て緑を放つ
次は
行き巡り見とも飽かめや名寸(き)隅の船瀬の浜にしきる白波
来る波と引く波次に併さるの白波起きて絶えることなし
次は
沖つ波辺(へ)波静けみ漁(いざ)りすと藤江の浦に舟ぞ騒ける
沖の波岸辺の波が共に凪ぐ夜中続くか明日は旅立ち
この辺りは、万葉集に美しい調べの歌が続く。
島隠りあが漕ぎ来ればともしかも大和へ上るま熊野の船
外の国更に遠くへ向かふ時大和の船を見て懐かしき
その次も
風吹けば波か立たむとさもらひに都(つ)太(だ)の細江に浦隠り居り
黒雲が近づき麓に風起こる候(さもら)ひ待つは高き山かな
一月十五日(水)
しましくも行きて見てしか神(かむ)なびの淵はあせにて瀬にかなるらむ
細き水澱みに鯉はまだ棲むや笹目へ水を汲むが途絶えて
本歌は、萬葉集らしい歌だ。美しい地(または川)名と古語。本歌取りはそれに倣ひ、「荒川の水」を「笹目へ水を」に変へた。荒川の水をポンプで笹目川上流に流してゐたが、送水管の亀裂で運転を取りやめた。その翌年くらいに、笹目川支流の文蔵川で鯉を多数見た。
さすすみの栗栖の小野の萩に花散らむ時にし行きて手向けむ
小山から友部へ至る水戸線は 結城川島玉戸駅 下館新治大和駅 岩瀬羽黒に福原と稲田笠間に友部駅 美しき名が多(さは)あるはがね路
反歌
さすすみの来栖は笠間地(つち)の名に笠間の駅のすぐ西にあり
次は
直(ただ)越(こえ)のこの道にしておしてるや難波の海と名付けけらしも
浅草へ行かず直越え梶原にまたおしてるや浪花節聴く
直越は、道の名だらうか、それとも一般名詞だらうか。本歌取りでは、一般名詞として乗り換へが少ないの意味にした。
雨(あま)隠(ごも)る御笠の山を高みかも月の出で来ぬ夜は更けにつつ
雨隠る御笠の雲を頂きに被(かぶ)る富士の嶺まだ月は出ず
すぐ次の
猟高の高円山を高みかも出で来る月の遅く照るらむ
夕間暮れ月が出でるを暫し待つ富士の御笠を超える頃まで
すぐ次の
ぬばたまの夜霧の立ちておほほしく照れる月(つく)夜の見ればかなしさ
月影は 満ちる強さに三日月の弱さ夜霧のおぼろあり 陽と異なりて優しさがあり
反歌
月影に清さかなしさ喜びと兎餅つき絵さへも見える
次は
岩走りたきち流るる初瀬川絶ゆることなくまたも来て見む
岩走り滝飛び石を巻き上げる勢ひを得にまた来る年も
次は
故郷の明日香はあれどあをによし奈良の明日香を見らくし良しも
あをによし奈良の明日香は麗しく 鳥鳴く東飛鳥山桜と滝と王子の稲荷
反歌
飛ぶ鳥の明日香麗し鳥が鳴く飛鳥山には桜と稲荷(終)
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