二千五百四十(うた)水上旅行記外伝
甲辰(西洋未開人歴2024)年
十一月六日(水)
往路のSLぐんまレトロ水上号は、渋川駅で停車時間があった。その前に車内放送で、先頭車が何々の部分が窓を開けてゐるため聞き取れなかったので、最後尾の荷物兼用車の外にゐた車掌に尋ねると、プラスチック板に入った紙をめくった。なかなか見つからないでゐると、鉄道好きの人が1号車について放送は無かったと云ふ。もし無かったなら訊きに来る筈が無いと説明すると、扇風機が無いことを放送したのだらう、この車両は特急用に作られた、など解説があった。
詳しいので、途中の車掌車は使へるのか訊き、その人が分からない部分があったので、デッキにある全灯、半灯のスヰッチは車掌がカギを挿して操作したことを説明すると、デッキのスヰッチは使へるが車掌室の機器は使へないだらう、との事だった。
ついでに、発車時に衝動が無い理由を訊くと、水上に向って登りとのことだった。昔の寝台車はかなり衝動があったと云ふと、運転が下手なのださうだ。お召列車は時間が前後に余裕がある、との話も出たところで、発車時刻が近づいた。
余りに詳しいのでJR関係者か訊いたら違ふし、友の会会員でもない。因みに小生も会員ではない。
往きはSL号、帰りは普通電車の予定だったが、水上駅で帰りの指定席券が空いてゐるか調べることにした。尤も帰りも衝動は無かった。花形列車なので、腕のよい人が選抜されるのだらう。
帰りのSL号では、四人掛けのうち三人が親しく話してゐるので、仲間なのだらうと思った。しかし窓側の一人を除き、残りの二人は通路を挟んだ反対側の二人と仲間だった。つまり四人掛けが取れなかったので通路を挟んだか、或いは六人なのかも知れない。
この二人が座席の広さと通路幅は12系と同じなのか訊き、窓側の人が同じだと答へた。小生が12系は下が狭くなってゐる(ホームと接触しないやうに、上は広い)と云ふと、さうかその分が広かった、と話が発展した。
この人も鉄道が詳しいのかと、機関車にジャンパー(電線の連結)を繋いでゐましたね、と話すと、客車に電気を送るのでは、と詳しくなかった。従来客車は車軸の回転で発電する。インターネットで調べると、機関車の軸受潤滑油の温度を客車で監視するためのジャンパ栓(KE100)だった。機関車が先頭のときは機関士が乗るから不要だが、転車台の無い横川や桐生折り返しのときに必要なのだらう。
この方はSL列車が好きで、毎年のやうに乗るさうだ。水上では〇〇(伏字ではなく本物の丸に回転矢印が付く)亭のおかみさんの話が面白いが、本日は臨時休業だった、との事だった。丸に矢印が付いた店ですね、と相槌を打った。温泉街迄歩くときに、看板があった。
転車台を見たとき、隣に300系までの座席の布や、お召列車の座席の布を作った会社の人がゐたさうだ。300系で、地下鉄東西線乗り入れ車両だと思ひ、お召列車との差の大きさをどう理解するか、と考へるうちに話が進み、新幹線の300系のことだった。
系とは複数の車種を総称した呼び方で、東西線乗り入れ車はクモハやモハやサハの、300と301からなる。普通は301系と呼ぶが、300系でも間違ひではないだらう。
そのときは気付かなかったが翌日になって、転車台で隣にゐたと云ふ人は、渋川駅で最後尾にゐた鉄道に詳しい、あの神出鬼没の鉄ヲタマンではないか、と気付いた。だから突然、お召列車の話が出たのか。第二案もあり、鉄ヲタ28号。鉄人28号のパロディである。

今回の旅行は大変気に入ったが、SL列車の指定席券が値上がりした報道を前に読んだことがある。東洋経済のホームページには
SL列車、引退だけでなく「値上げ」も増えた事情

が載る。前文は
大正時代生まれの蒸気機関車「8620形」が牽引するJR九州の「SL人吉」は2024年3月23日引退。2023年にはJR東日本の釜石線を走っていた「SL銀河」、2021年にはJR西日本の「SL北びわこ号」が運行を終了している。
そして、運行を続けるSL列車に広がっているのが「値上げ」である。

なるほど。
2月19日、JR西日本は山口線で運転するSL列車「SLやまぐち号」の料金値上げを発表した。普通車指定席は530円(子ども半額、一部期間は330円)から倍以上の1680円に、グリーン料金(大人・子ども同額)は50kmまで780円、100kmまで1000円だったのが距離を問わず2500円となった。
(中略)SLやまぐち号と同じ客車を使う「DLやまぐち号」なども同様の料金となる。ちなみに新山口から津和野まで全区間(約63km)を土休日に乗車した場合、大人1人分の乗車券と指定席券を合わせた額は1700円から2850円に、乗車券とグリーン券では2170円から3670円に上がる。

これは値上げし過ぎの気もする。客車を新造したが。
JR北海道が冬期に運行する「SL冬の湿原号」は指定席(子ども半額、以下JRは同様)1680円で、2022年1月の運行の際に840円から値上げして倍額となった。JR九州のSL人吉も2021年5月に料金を改定し、840円から1680円に上がった。
客車が特徴的なJR東日本の「SLばんえつ物語」は、指定席840円、グリーン料金(大人・子ども同額)は150kmまで2000円、151km以上は3000円となっている。指定席料金はSL冬の湿原号やSL人吉の値上げ前の料金と同じであるため、比較すると安いといえるが、2023年9月末までの指定席料金は530円(時期により330円)だった。
グリーン料金は一般のグリーン料金と同じで、50kmまで780円、100kmまで1000円、150kmまで1700円、151km以上1990円だったが、専用のグリーン料金設定によって上記の額となった。
もっとも、JR東日本はこの際に「当社を取り巻く経営環境の変化」を理由として、各地の「のってたのしい列車」(観光列車)の指定席料金をすべて840円に改定しており、SLばんえつ物語の指定席料金値上げもその一環である。

改定前に乗ったのは、リゾートしらかみだけだった。と云ふか、東日本パスの座席指定六回以内で乗ったから、本来は指定席特急券に乗れる一回分消費でJR東日本が得した。そもそも小生は混む時と全車指定席以外は、指定席をあまり使はないから、六回が余る。
SL列車は私鉄も運行している。秩父鉄道の「SLパレオエクスプレス」は、2023年4月1日にSL指定席券(大人・子ども同額)が740円から1100円に改定された。
同鉄道のSL指定席は、現在は自社サイトで予約するシステムとなっているが、2019年9月末まではJR東日本管内の「みどりの窓口」で扱っていた。その後いったん自由席のみとなり、2020年にSLの全般検査に伴い運休した後、2021年2月に運行を再開してからは自社サイトでの予約に切り替えた。360円の値上げとなったが、その分ネット予約システムを整備して利便性を高めている。
また、東武鉄道の「SL大樹」は座席指定料金が大人760円~1080円(子ども半額)となっており、ネット予約も可能になっている。JR各社が指定料金を値上げした中では相対的に安いといえる。

SLは新たな車両作らぬといづれ消え行く運命に 又は壊れた部品から順番に替へすべて新品

反歌  客車には七年前に新車あり山口線の三十五系(終)
(追記11.12)関連情報 旅の余韻牧水「みなかみ紀行」

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