千三百三十二 観光立地を目指し、観光立国を目指すな(越中越前観光復興の方法を探る)
己亥、西暦2019、ヒジュラ歴1440/41年、紀元2679年、仏歴2562/63年
七月十一日(木)
観光立国と云ふ言葉がある。これは欺瞞だ。日本は経常黒字が続き、外貨を稼ぐ必要はない。首都圏だけが膨張し、地方が疲弊して八十年。それを立国にすり替へ、地方は立国で稼げと背中を押す。こんな出鱈目はない。まづ観光立国と云ふ言葉を廃止すべきだ。
とは云へ、地方が観光で復興することには賛成だ。だから国ではなく、地方を観光で立てる観光立地と云ふ言葉を使ふことにした。
観光立国と観光立地の違ひは、外国人を相手にするのか、それとも日本人を相手にするのかにある。勿論、来日した外国人が日本人観光客と同じやうに訪れることは賛成だ。外国人が日本人観光客と異なって訪れることは不賛成だ。
七月十二日(金)
富山市の東岩瀬から岩瀬までを歩き、その古い街並みに感心した。しかし観光地としてあと一つ足りない。それは何かを考へて判った。入場料だ。入場料を取らないから、観光客は満足しない。
しかし入場料を取ることは難しい。自由に入れる家を増やさなくてはいけない。中に住む人は、不便を覚悟しなくてはいけない。出入りのときの入場証の提示だけではない。わずかな手当(例へば月に3000円)をもらふ代はりに、観光客が自宅前で写真を撮ったり、質問をされたとき丁寧に対応しなくてはいけない。
今、古い町並みで問題になるのが、外国人(アジア、欧米を問はず)によるマナーの悪さだ。それは観光立国ではなく、観光立地にすることで対処すべきだが、ここでも第二防護壁として機能しなくてはいけない。
七月十三日(土)
岩瀬の古い街並みを歩き、もう一つ気が付いたことがある。古い街並みを残す費用と、ライトレール、岩瀬地区、富山市内の産業の収入増と、それによる市税の損益はどうなってゐるか。司令塔が無いと、損益がなおざりになる。
この種の事業は、富山市内の企業の育成、或いは観光協会のコンサルタント機能を育成するため、どちらかに委託して、損益が黒字になるやうにすべきだ。
入場料とライトレールの一日乗車券を組み合はせて割り引く方法もある。
七月十四日(日)
ライトレール自体が、貴重な観光資源だ。アメリカやドイツでは、ライトレールと云ふ新型の路面電車がたくさんの都市で走ってゐる(私が二つの国しか挙げなかったのは、出張で一ヶ月以上滞在した国でライトレールがあるのは二か国だからで、ヨーロッパにはこれ以外もたくさんの国で走る)。しかし日本では路面電車が縮小する一方だった。
富山市内では、北陸本線が交流電化なのに対して、富山港線は飛び地で直流電化だった。そして赤字だった。この富山港線を廃止し、ライトレールに転換した。日本で最初のライトレールになった。
そればかりではない。富山市の成功に刺激されて、宇都宮市にもライトレールが建設中だ。日本国内の他の路面電車も、ライトレール型の車両を導入するやうになった。
だから日本で最初のライトレールと云ふことで、これ自体が観光資源で、これだけでも日本中から乗車に来る観光客で溢れさせることは可能だ。しかし終点に、旧富山港線、ライトレールと車両、世界のライトレールについて資料を展示すれば、更に万全だ。
{先ほどWikipediaを見て驚いた。イギリスでライトレールなどの情報をまとめている第三者団体、ライトレール交通協会 (Light Rail Transit Association: LRTA) は、専用軌道比率の高い日本の江ノ島電鉄、広島電鉄宮島線、筑豊電気鉄道、京福電気鉄道(嵐電)、東急世田谷線、阪堺電気軌道の6路線をライトレールに相当する鉄道として分類している。これはイギリスが自国のライトレールについてまとめた分類であり、日本には当てはまらない。
Wikipediaに挙げられた江ノ島電鉄、宮島線などは、日本の基準では軽い郊外鉄道(イギリス英語ではlight rail)であり、ライトレールではない。路面電車について五十年間観察してきた私が云ふのだから、間違ひはない。イギリスにはヨーロッパ大陸と異なりライトレールは存在しないのだらう。}
七月十五日(月)
高岡市と射水市を走る万葉線は、終点に一般には知られてゐない観光資源がある。富山県営渡船である。富山新港の造成工事で陸地が分断された。それの代償として無料運行してゐる。無料の渡船は貴重だ。もっと大々的に広めるとよい。
七年前に新湊大橋が開通し、陸地が再び繋がった。毎年1億円の費用が掛かる富山県は廃止の意向だが、歩道(自転車は手押し)が夜間は閉鎖されるため、現在は運航してゐる。早く乗船したほうがいいと宣伝し、大々的に広めることができる。
万葉線自体も、富山新港で分断された鉄道として、観光資源の資格がある。元は富山地方鉄道射水線が新富山から射水まで走り、ここで高岡市内線の高山駅前まで乗り入れた。
しかし富山新港の造成工事で二つに分断され、射水側は加越能鉄道に譲渡され射水線になった。富山側は後に廃止された。更にその後、加越能鉄道がは廃止を打ち出したため、第三セクターの万葉線株式会社に高岡市内線を含めて移管された。
万葉線は、富山新港で分断された鉄道として、観光資源になる。
七月十七日(水)
福井の魅力は、柴田勝家、松平春嶽にある。その後に現れる独裁政権を制御できたかも知れない人たちは、現在でも魅力だ。柴田勝家が滅びなかったら、豊臣秀吉の独裁はなかったし、松平春嶽が維新後も活躍したら薩長の暴走は無かった。
「穏健政治の故郷福井」として売り出すとよい。カネを掛けず既存の建物を流用し、二人の展示館を造ったらどうか。松平春嶽を主人公とした小説を公募する方法もある。
越前武生から北府までの切符を購入するとき、私より後にゐた若い女性が1日乗車券を購入しようとして、土日しか販売しないと説明を受けてゐた。この女性が(1)市内在住で300円以上の区間の往復に利用しようとしたのか、或いは(2)沿線の観光で利用しようとしたのか不明だが、(2)の乗客を増やすことは必要だ。平日も通勤時間帯以外有効で販売したらどうか。1回の往復有効は今の値段、何回も乗車できるものは値段を上げてもよい。
七月十九日(金)
新高岡で新幹線を降りると、高岡駅までの城端線は本数が少ない。万葉線を新高岡まで乗り入れればよいのだが、と考へた。帰宅し二週間後にインターネットで調べたところ、二つの大学を含む多数の提案が見つかった。
一つは日本大学理工学部の平成23年度学術講演会論文集で
現在のJR高岡駅 から新高岡駅やショッピングモール等とつないだ延伸計画を考えるとともに,万葉線の高速化をはかり,駅南エリアに現在の車両本数で運行することを提案する.
とあり、具体的には新高岡までについて
2.8kmの区間に新高岡駅を含めて6電停,10 分で運行する計画である.通常の工事であると1kmあたり10億円を必要とするが,本計画においては,路面電車に必要な架線(列車に給電する電気線)をなくすことで,工事費の削減と景観に配慮することが可能である.しかし,架線がなくても走行できる架線レス車両が必要である.
高岡駅は、在来線と交差する必要があり
本提案では,既存の線路(JR)を利用し, JR線を越えることにした.長所としては,JR線の線路を利用することでコスト削減が見込めるが,電圧の問題から架線レス車両が必要となる.
射水市エリアからの高速化について
新幹線に乗り入れるためには,射水市エリアから高岡駅までの所要時間の短縮が必要である.現在ルートは所要時間 42 分.途中から氷見線を経由することで,停車駅数を減らせ,専用軌道により高速化し,30分程度まで短縮可能である.よって,射水市 エリアからのアクセス時間が,12 分の短縮でき,新高岡駅までの時間に使用することで,現在と同じ運転間隔で運行できる.万葉線の利便性が向上と隠れ需要の発掘が期待される.しかし,氷見線は電化されていないため,現行の車両では通れないが,架線レスの車両を導入することで回避できる.
私が最初考へたのは、線路はJR西日本に使用料を払ひ、万葉線に乗ったときは万葉線の料金体系、城端線に乗ったときはJR西日本の料金体系にする、と云ふ案だった。これは高岡市内の繁華街は拡大せず、新高岡駅は新幹線の乗換駅に限定するもので、これは将来の人口減少を見越してのものだ。
一方で、新高岡駅では「国宝・瑞龍寺」を大々的に展示してゐる。新高岡駅から高岡駅まで道路を一直線に行くと瑞龍寺にも寄れると、城端線に乗りながら考えた。しかし帰宅の後に、考へが変はった。県指定重要文化財を複数集めても国指定重要文化財にはならない。国指定重要文化財を幾つ集めても国宝にはならない。同じやうに、瑞龍寺を幾つ集めても、特別名勝・兼六園に集客力では劣る。万葉線は城端線を使用すべきだ。
七月二十日(土)
人口は、富山県107万人、石川県115万人、福井県79万人。このうち富山市42万、金沢市45万、福井市27万。県、市ともに福井がやや少ないものの、三県、三市はほぼ横並びだ。
それなのに金沢市だけ外国人観光客が多いのは、兼六園の威力だ。富山と福井は、国内観光客の集客を目指し、しかし外国人が来るなら拒まない。日本人が相手なら兼六園に勝つことはできる。
まづ「富山、高岡、金沢、福井に行こう」と云ふキャンペーンで、金沢を相対化する。富山、高岡、福井を金沢と同格に扱った。次の段階で、金沢を抜いて「富山、高岡、福井、敦賀、小浜に行こう、富山県福井県合同観光促進運動」などにする。
今は金沢を境に、新幹線と在来線特急が別の暫定状態だから、富山に来た観光客は富山県内、福井に来た観光客は福井県内だけを廻ってよい。合同で宣伝するところに相乗効果がある。
七月二十一日(日)
万葉線について、中日新聞富山版が平成二十六(2014)年2月20日に掲載した記事によると
高岡市総合交通戦略策定協議会は十九日、二〇一四年度から十カ年の交通戦略を取りまとめた。路面電車の万葉線延伸を「実現に向け検討」と位置付け、検討材料にする延伸九路線案の概算事業費の試算も打ち出した。(飯田克志)
(中略)
万葉線の試算は、高岡商業高校方面で三路線案、北陸新幹線の新高岡駅方面で六路線案を、道路拡幅やJR線乗り入れ設備改修費などの費用は含まずに示した。
高商高方面では、片原町交差点から最長の延伸二・二キロの同校付近の場合は事業費が七十六億円で、年間利用者は三十一万八千人。収支では八百万円の黒字を見込んでいる。
新高岡駅方面では、JR高岡駅前から城端線乗り入れなどを設定。国道156号経由の三・五キロ延伸の場合は、事業費が百七億円。年間利用者は三十七万九千人で、一千万円の黒字を見込む。
このほかの七路線案の収支は赤字だった。
協議会副委員長の神田佑亮・京都大准教授は、新高岡駅から高岡商方面までの全線延伸した場合に県西部四市の経済効果が最大になり、次いで新高岡駅方面のみ、高岡商方面のみの順になるとの推計を示した。
富山新聞は9ルートについて、これと同様の内容を紹介したあとで
試算では、軌道部は単線が基本で、入れ替え線を約700メートルごと、停留所は約500メートルごとに各1カ所設置。車両は架線LRV(軽量軌道車両)、非架線区間は蓄電池搭載LRVを見込み、市が整備主体となる。道路拡幅費や用地買収費、JR線乗り入れの設備改修費などを除き、1メートルの延伸で約300万円かかる先行例を参考に積算しており、実際には事業費が膨らむ可能性がある。
「万葉線を延伸する会」が要望する片原町交差点から高岡商高付近まで約2・2キロは、76億円の事業費で年間31万8千人の利用で800万円の黒字が見込めると試算。軌道の整備や鳳鳴橋の架け替え、道路管理者などと協議・調整が必要とした。市は延伸の実現に向けたスキームの概要も示した。
京大工学部藤井研究室が算出した高岡圏の新幹線開業10年後の整備効果も示された。試算では、新幹線整備だけでは地域内総生産(GRP)や居住人口、労働人口はほぼ変わらないが、万葉線の昭和町方面の延伸効果は新高岡駅方面延伸を前提にGRPは30~40億円増、居住・労働人口は1200~1300人増、市税は1億円増となった。
七月二十二日(月)
富山市は、日本最初のライトレールで売り出す。高岡市は(1)富山新港で切り離された区間の再生と日本初の新幹線駅ライトレール計画、(2)万葉集、で売り出す。
現状では高岡市と万葉集の結びつきが弱い。万葉線の名称と、停留所に和歌が書いてあるぐらいだ。万葉集の研究者と愛好者が全員高山市を訪れるやうにするには、(第一案)高岡市万葉歴史館を万葉線の沿線に移転する、(第二案)日本大学理工学部の提案にある氷見線を高速用に使ふ方法を活用し、乗り入れを2.5Km延長し伏木駅までとする。
伏木駅は、近くに越中国守館跡、海ゆかばの碑、万葉寺井の跡がある。しかし高岡市万葉歴史館が離れてゐることは難点だ。
計画は単純がよい。実行段階で複雑化する。あと目的と手段の混同が起こる。高岡市総合交通戦略策定協議会が発表した二つの黒字ルートは将来の計画とし、ライトレールの延伸は城端線新高岡乗り入れのみとする。高岡市万葉歴史館は吉久停留所の近くに移転させる。河口を越えれば史跡がある。つひ海ゆかばの長歌をもじってしまふ。
海行かば、遺跡と石碑
道行かば、新たな軌道
万葉の、海辺歩まば、家持を見ゆ
(終)
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