八百三十一 三段階の唯物論

平成二十八年丙申
四月二十四日(日)
唯物論には三段階がある。そのことを思ひついたのはニュートン誌の四月号に「人間原理」と「無数の宇宙」による新しい宇宙観といふ副題の付いた記事を読んだときだつた。
物質がすべての根源であることを否定する人は、今となつてはゐない。これは物理に基づく唯物論だ。
二番目に物質が根源なのだから、どのように物質、更には生きとし生けるものを扱つてもよいと考へるもので、自由主義唯物論、或いはリベラル唯物論と云ふべきものだ。悪魔の思想と呼んでもよい。
三番目に生物の進化と人間社会に於ける文化の発達は、極めて僅かな確率でたまたま生成された現象の発達したものだから、尊重しなくてはいけないといふものだ。

五月一日(日)
ここでニュートン四月号の記事を紹介しよう。まづ
かつて太陽系以外の惑星(系外惑星)が見つかっていなかった時代には、地球の奇跡は途方もないことに思えた。しかし今や、太陽系から比較的近い範囲の中だけでも数千個の系外惑星が見つかっている。
私たちの天の川銀河には数千億の恒星があり、そして同様の銀河は観測可能な範囲だけでも数千個は存在する。


そして更にすごいことに
宇宙そのものについても、これと似たような考え方がある。宇宙は一つだけではなく、たくさんの宇宙(マルチバース、多宇宙)が存在するというのだ。
マルチバースについて、簡単にまとめておこう。一口にマルチバースといっても、いくつかのタイプがある。

として、まづ観測不可能な領域の宇宙を挙げる。地球から観測できるのは138億光年までだから、それより遠方は観測できない。しかし
そこには地球とそっくりの惑星があり、人間のような知的生命も誕生しているだろう。ただしこの場合、物理法則や物理定数は私たちの宇宙と同じである可能性が高い。

ここまで同感だ。次にインフレーション理論は、宇宙が誕生した直後に猛烈な勢ひで空間が膨張したとする理論だと説明した上で
インフレーション理論のうちのある一つのモデルによると、宇宙全体のインフレーションは永遠につづいており、その中の、インフレーションがおさまった一部の空間が私たちの宇宙(ポケット宇宙などとよぶ)なのだという。ポケット宇宙は私たちのもの以外にもあってよい。注目すべきは、私たちのポケット宇宙と別のポケット宇宙では、物理法則や物理定数がことなっている可能性があるということだ。

おそらくこの理論は正しい。宇宙をこのやうに考へないと、その無限空間を説明できない。更に
インフレーション理論のうちのさらに別のモデルによると、もともとの宇宙(親宇宙)から子宇宙、さらに孫宇宙といったように、宇宙が多重発生するシナリオも考えられるという。
ポケット宇宙を考へた以上、これもあり得る話だ。

五月四日(水)
共産主義の弁証法的唯物論は第二段階に反対するものだから第二段階とは異なる。第三段階には到達できなかつたが、帝国主義の時代にあつては民族解放で対抗したため、抗争中は第三段階に到達したのと同じ効果をもたらした。ところが政権を取ると第二段階そのものに逆戻りした。金日成の民族政策や、毛沢東の少数民族優遇政策は第三段階に近づくに見えたが、理論の裏付けがなく第二段階に戻つた。

五月八日(日)
私が単純唯物論と呼ぶのは第二段階のことだ。なぜ第三段階はよいのだらうか。それは文化の発達を尊重するからだ。単純唯物論は文化を軽視する。文化には言語、道徳、宗教、習慣、伝統が含まれる。いろいろな物理法則の宇宙があるのと同じで、いろいろな社会があつてよい。西洋の社会が正しくてアジアの社会が遅れてゐるのではない。すべて社会として尊重しなくてはいけない。(完)


(國の獨立と社會主義と民主主義、その百五十七)へ (國の獨立と社會主義と民主主義、その百五十九)へ

メニューへ戻る 前へ 次へ