六百四十一、「新・資本主義宣言」を読む(その一)

平成二十六甲午
十一月二十六日(水) シロアリ民主党にもまともな人間はゐるが党を撲滅しないと宝の持ち腐れになる
図書館で水谷氏の著書は大人気である。だから最新のものは予約が十人待ちで借りることができない。やつとの思ひで「新・資本主義 宣言」といふ昨年出版された本を借りた。最初読んだときは、貴重な発言が点在するもののこの本では駄目だ。これが感想だつた。しかし 返却の前にもう一度読み返すと実に良い事が書いてある。
二回目に読んだあとに編者を見ると水野和夫/古川元久とある。古川氏は88年大蔵省(当時)に入り93年アメリカコロンビア大学 大学院に留学、今はシロアリ民主党の国会議員。私がこれまでホームページで批判してきた典型である。とはいへなかなかよいことを 書いてゐる。なぜだと経歴を再読して判つた。留学翌年の94年に大蔵省を退職。96年シロアリ化する以前の旧民主党結党に参加した。 ここが大きい。あとは古川氏がいつシロアリ民主党を内部から崩壊させてくれるかに期待したい。

十一月二十七日(木) 古川氏の名言
この書籍の「序」は古川氏が執筆し、次の文章で始まる。
資本主義は最悪の経済体制である。ただし、これまでに試みられてきたあらゆる経済体制を除けば。

この主張には賛成であるが反対でもある。「これまでに試みられてきたあらゆる経済体制」と比較すれば一番ましでも、これまでに試みられて こなかつた経済つまり自然経済と比較すれば資本主義は最悪なのではないか。日本の江戸時代やその前は自然経済ではない。自然経済 の堕落したものである。つまり自然経済は歴史の合間に短期間存在しそれは試みたものではない。古川氏はその後
冷戦が終結した際、世界中の多くの人はこれを「社会主義に対する資本主義の勝利である」と理解しました。(中略)しかし資本主義が引き 起こしているさまざまな弊害のことを考えると、冷戦の崩壊は「社会主義に対する資本主義の勝利」ではなく、実は「資本主義が内在する 問題を解決する手段として社会主義は有効ではなかった」ということに過ぎなかったということができます。

まつたく同感である。

十一月二十九日(土)、三十日(日) 第一章
中谷巌氏は第一章「西洋主導の資本主義体制に変わるもの」で
新自由主義によって生じた、「個人化」の過度な進行が社会の構造を大きく変化させています。(中略)「個人化」の進行は、一方で個人の エネルギーを解放し、生産性向上の起爆剤となりましたが、他方では、近代社会が内包するすべてのリスクを個人が「自己責任」で負担 しなければならない状況が生まれています。/かつては家族やコミュニティ、つい最近までは企業などの色々な「中間組織」が、個人に 代わって様々なリスクを引き受けてきました。

ここまで同感である。そして
たとえば女性は個人化によって確かに自由を獲得しましたが、他方ではかつての共同体や家族が引き受けていた多くのリスクを自己責任 で引き受けなければならなくなりました。

といふ現象が起きる。次いで
現代の資本主義は、うまく制御できている間は社会に大きな物質的富をもたらしてくれますが、ひとたび人知を離れて独り歩きし始めると たちまち大暴走に至ります。バブルや原発事故、格差社会、社会の荒廃、地球環境破壊など、(中略)現代資本主義は明らかに暴走し 始めている。

後半は賛成である。しかし資本主義にうまく制御できている間が果たしてあつたのか。労働者の悲惨な生活に始まり戦争の時代、冷戦 のときはインドシナで大変なことになつた。資本主義は最初から暴走してゐた。
右肩下がりで毎年パイが小さくなる世界では、民主主義的な決定システムではなかなか埒があかなくなります。なぜなら、今度は小さく なるパイに対して、誰が分け前の減少に甘んじるのか、誰が傷みを引き受け、誰が我慢するのかという話になるからです。(以下略)
マルクスの『資本論』にも、「利益の分配は資本の兄弟的結合の実践によって仲良く調和的に行なわれるが、損失(不利益)の分配に おいては、それはやがて商品価値や資産価値の下落、再生産過程の停滞と混乱、貨幣の機能麻痺、信用制度の崩壊等、経済を恐怖 状態に陥れる」と明記されています。要するに我々は、利益分配システムとしてはなんとか機能してきた民主主義や資本主義という体制 に取って代わって、「不利益分配システム」に適合できる「新・民主主義」「新・資本主義」をどうにかしてつくらなければいけない時代に 入っているのです。


ここまで完全に同意見である。

十一月三十日(日)その二 第二章
第二章「利益至上主義からの脱却で資本主義の崩壊を食い止める」は株式会社ドワンゴの設立者で現会長の川上量生氏である。
そもそも日本は、舶来信仰的な傾向が強い国です。たとえばベンチャビジネスについても、「アメリカでは学生がどんどん起業しているの に日本の学生は出遅れている」などのような言説がありますが、私にいわせれば、学生で起業するなど愚の骨頂です。(中略)起業の目的 は社会貢献であり持続性であり、そして成功です。(中略)学生企業の実態は何かというと、昔はイベント会社なんかがよくありましたが、 最近の多くは派遣会社の設立です。企業などに労働力を提供しているのです。労働者派遣法が改正されて以降は、起業時はそうでなくても 次第に派遣業化していった会社が増えているのが実状です。売るものもない。ましてや競争力もない。いわば、自らの労働力をディスカウン トして売るしかない。それが実態です。要するに、体のいい労働条件の切り下げに、学生企業が気づかず加担しているというわけです。

ここまで同感である。川上氏は更によいことを書いてゐる。
企業とは収入金額よりも支出金額の方が社会的にはより大事なのではないでしょうか。(中略)中でも社会的貢献度の指標に最も近なかやいのは、 損益計算書の項目では「人件費」と「研究開発費」です。売上に代わる社会的な企業規模の指標として、この双方の合計額を使うべきだと 私は考えます。/ですから利益率の高い企業というのは、むしろ社会の寄生虫です。

これも同感である。しかしこれが資本主義の本質であり、だから
資本主義とは崩壊へ向かう非可逆的な性質を孕んでいるといえますから、その崩壊速度を緩めることはできても、逆回転させることは非常に 難しい。(中略)極端にいえば「貯まった冨をどうやって没収するか」というようなことが、実質的な解決策となる話でしょう。/本当に持続可能 な資本主義を作ろうとするならば、やはり富裕層に対する財産税、資産課税は不可欠です。

十二月三日(水) 討論「社会の成熟について」、第三章
最初、この本は駄目だと判断してしまつたのは十人の討論があるためで、討論は内容の整理と文章の推敲がない。そこを割り引く必要が あつた。この討論で有益なところは次の部分である。
ヘーゲルの弁証法によれば、世界の進歩・発展は、螺旋階段を上がるようにして起こる。横から見ていると上に上がっていくため、進歩・発展 しているように見えるが、上から見ていると一周回って、元の位置に戻ってくる。古いものが復活・復古してくる。(中略)すなわち、世界の 進歩・発展に伴って、古く懐かしいものが「新たな価値」を伴って復活してくる。

第三章もこの本は駄目だと判断してしまつた理由だが、山田昌弘氏の第三章で有益なのは
(1)社会が停滞してくると、どうも金持ちは「物より心」と言い始める。
(2)菅直人下首相が「最小不幸社会」と言いましたが、苦痛や不幸、不快を前提としたタイプです。(中略)消極的 な幸福感です。

私も嘘つき菅の「最小不幸社会」といふ言葉は嫌いで、私が嫌ひな理由は少数者の不幸を見捨てる思想が根底にあるためだが、山田氏 の主張を読んでなるほどさういふ見方もあるのかと思つた。あと谷津遊園など遊園地が昔は各地にあつたのに今はどんどんなくなつたのは 1980年ごろから豊かな家族生活といふ物語が揺らいだためだといふ。それは西洋の猿真似が原因ではないか。かつては経済の差で西洋の 真似はできなかつたが、このころ日本の一人当たりのGNPが西洋に追ひつきプラザ合意で追ひ越した。谷津遊園が閉園したのは東京ディズ ニーランドが開園したからである。東京ディズニーランドに比べれば全国各地の遊園地は小規模で企画が単一である。


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