二百六十三、平成24年二つのメーデー(その二、全労協編)

平成二十四年
五月一日(火)「全労協メーデーは通過」
今年は全労協メーデーは論評しないことにした。インターナシヨナルなど労働歌を歌ふ訳でもなく、それでいて変な英語の歌を合唱団が歌ふからである。私は外国語の歌に反対するのではない。2ヶ月ほど前にあつた有期雇用に反対する集会では、南米から来た工場労働者がスペイン語で歌つた。かういふ合唱には心から賛同である。しかしまだ日本には英語を話すだけで偉くなつた気になる人が多数ゐる。既に日本には英語が出来る人が多数ゐる。それでも英語圧力が止まないのは、日本をいつまでもアジアからカネを吸い上げてアメリカに貢ぐ国にしておきたいのと、アメリカの真似をすると経済大国になれるとアジアアフリカ各国に思はせる広告塔にいつまでも留めておきたいからだ。
日本に暮らす外国人には、日本語を教へたり、その国の言葉を話す人を配置したり、止むを得ないときは英語で対応するなどが必要である。日本に住む外国人には満足な生活をしてほしい。しかしだからと言つて全労協のメーデーで英語の歌を歌つてよいはずがない。それでは英語帝国主義の船橋洋一と同じである。ここで合唱団に責任はないし、企画した人達にも責任はない。何年も前から全労協メーデーではやつてゐるからだ。今まで続けてきたものを変へるには時間が掛かる。

それとは別の問題として左翼崩れは拝米になる。その例を一つ挙げよう。私の所属する労組の分裂前の書記長はSさんだつた。Sさんはその前は全労協全国一般の全国委員長であり、全労協の副議長も兼任した。ところが全国一般で内紛があり、労組は全労協を脱退し紆余曲折の末に連合に行つた。Sさんは「俺は共産主義を捨てた」と宣言した。
その後Sさんは中国のことをチヤイナといふ。中国と言へばよいのにわざわざ英語でいふ。シナと呼ぶ人がゐるがこれと同じ発想である。それでゐて拝米をときどき言ふ。安保条約反対闘争について「馬鹿なことをしたもんだよ」とまで言つた。安保条約を破棄できなかつたことを悔いてゐるのではない。アメリカに反抗したことを悔いてゐる。
左翼崩れが拝米になる理由は、アメリカこそ民主主義の最先端と勘違ひするからだ。アメリカは多数決では最先端である。しかし民主主義ではない。ましてや移民状態が定常に達してゐない。民主主義とは無欲な立場で議論し結論を出すことだ。おそらく西洋の議会主義とマルクスの考へたプロレタリア政権を足したものではないのか。少なくとも全労協ならそう考へるべきだ。

五月一日(火)その二「社民党福島党首」
社民党の福島党首が来賓として登壇された。会場にそびえる多数の組合旗を見て、各団体の名を4つ言ひ、時間が掛かるといふことであとは省略された。我々を3番目に呼んでくれたので、福島党首だけは宣伝しない訳には行かない。
かつて社会党は国政では野党第一党、地方では社共共闘で知事や市長を多数輩出した。私の所属する労組の委員長は、かつて太田薫に「都知事になつたら秘書をやつてもらふ」と言はれたそうだ。都知事には当選できなかつたが。
その後社会党は勢力を激減させ党名も社民党になつた。私の所属する組合で分裂前の同僚の執行委員が東京の中野区議選に出馬したことがある。社民党唯一の候補なのに当選者42人のなかに入れなかつた。
今後社民党のすべきは、まづ馬力を見せることだ。大阪市長にしろ名古屋市長にしろ馬力がある。私だつて消費税を阻止するためには大阪市長や名古屋市長を支持する。
社民党も「真の民主主義は国民執権だ」くらいは言つたほうがよい。共産主義のプロレタリア執権と同じだと非難されたらそこで馬力を発揮し主張すればよい。憲法も「良いものに改正すべきだ」「改悪は絶対阻止」くらいいふべきだ。もちろん拝米派が誰もが賛成できるものに一旦改正したあと、次は自衛隊を米軍の下請けにするため改悪といふことは考へられる。そのときも馬力を発揮し総言論戦に突入すべきだ。国民の総力で阻止すべきだ。
そこまで党内をまとめるのに時間が掛かるなら、せめて党名を日本社会党に戻すべきだ。今なら野党第一党だつたことを前面に出せば人気が出る。

五月二日(水)「支援集会」
メーデーとデモ行進の後は、近くの体育館で大田区内のリネンサプライ工場閉鎖に反対する集会が開かれた。全国一般東部労組の主催で、現状報告と今後の決意などの話があつた。パートの人たちも勤続年数の長い人が目立つた。全労協議長、全国一般、JAL争議団などが応援に駆けつけた。
メーデーの会場でもJAL争議団は登壇した。そのとき「解雇を撤回したら税金で負担しなくてはいけないのでは」といふ意見があつた。解雇者が復職しても税金の負担は必要ない。既にJALは再生したからである。本来解雇者を出さず全員の給料を下げてでもその分を負担すべきだ。これが普通の企業のやり方である。ところが今回は一部の人を犠牲にした。かういふやり方は許されない。

リネンサプライ工場は黒字である。過去には赤字のときもあり、役員報酬の減額を会社側に要求したこともあつた。役員のなかには部長より給料が下がる人も出るため会社は抵抗したが、組合の力で実現させたといふ話も紹介された。JALも同じである。業績は上層部の責任である。部長より給料の低い取締役がゐてもよい。解雇者は復職させるべきだ。
公務員問題も同じである。消費税増税は許されない。赤字分は人件費を下げるべきだ。しかし下にしわ寄せするのではなく上層部を減額すべきだ。総資本対総労働なら総労働が勝つが、個々の使用者対個々の組合なら個々の使用者が勝つ。

五月二日(水)その二「世代断絶」
かつての社会党鈴木派の基盤は、世代が交代すると社会主義協会と新左翼になつた。世代の引継ぎがうまく行かなかつた典型である。世代断絶を促進した一つに音楽がある。五年前に定期大会の後の懇親パーティーでフオークソングの歌詞を10曲くらい書いた紙を配り皆で歌つた。終はつた後に私とS書記長の会話である。
私    歌集にインターナシヨナルがないじやないですか
S書記長 お前は左派なんだよ
私    右派の電機労連の富士通労組の昭和五十五年くらいの歌集にもインターナシヨナルはまだ載つてましたよ
S書記長 富士通は中核派だからだよ


懇親パーティーの半ば冗談の会話ではあるが、全労協メーデーと連合に行つたSさんの符合は世界のアメリカ一極化の影響、別の表現で言へば冷戦終結の影響である。その翌年は組合創立15周年といふことで大会の後に参加費2000円、組合補助3000円くらいで盛大にパーティーをやつた。アメリカ人のフオークグループを呼ぶといふので私は参加しなかつた。丁度会社のボーナスが少なく節約の意味もあつた。執行委員が参加しなくてよいのか、といふ疑問もあるが黙つて欠席すれば問題ない。現にその後四年間問題にならなかつた。尤もフオークグループは原爆反対の歌のグループで来賓で来られた福島党首も一緒に歌つたので、だつたら私も参加すればよかつた。

五月四日(金)「アメリカの占領政策の先に労働運動があるのではない」
過去にSさんの理解できない発言があと三つあつた。まづ「日本は解雇の規制が世界で一番厳しい」と言つた。もしそうなら絶対に不当解雇は認めてはいけない。解雇が自由な国なら次の仕事がすぐ見つかる。解雇が一番不自由なら次も一番見つからないからだ。日本の問題点は大企業と中小企業の終身雇用へのあまりの相違である。それを正常に戻すには非正規雇用の禁止と下請けの禁止しかない。
二番目に「日本の労働組合法は団体交渉を義務付けていてこれは世界で一番厳しい」と言つた。これも違ふ。日本の労働組合は大企業中心でしかもユニオンシヨツプである。企業は労組に組合員に共産党や社会主義協会、新左翼を抑圧してもらひ、労組は組合員にユニオンシヨツプへの不満が多いが反対すると組合の背後に会社の労務部が控へてゐるといふ労使の変な癒着で成り立つてゐる。だから組織率18%でも実感では3%である。これは大企業では組合員五人に一人が本当の組合員といふ私自身の経験だが、百人以下の企業の組織率は3%だそうだから実感はほぼ正しい。日本は終身雇用だから解雇や不利益扱ひには企業の倒産も辞さない覚悟で労働運動をする必要がある。団体交渉はそうならないためのものだから、企業のためでもある。
三番目に私が「労働者の連帯で」と言つたところ「連帯は必要ない」「組合の運動方針を見てみろ。連帯といふ言葉は一切使つてゐない」と 言つた。私は総資本対総労働でやらないと中小労働者は負けると思ふ。あるいは中小の組織化はできないと思ふ。
これら三つの発言の根底にあるものは何だらうか。「だからSさんは連合に行つたんだ。中小労働者をすねたと表現した松井保彦と同じだ」と言へるが、労働運動は労働組合法があるからやるのではない。江戸時代の農民運動の流れを受け継ぐ。権兵衛の田圃は収穫が悪いと判れば村役人と交渉したし、他の藩に比べて年貢が高いと判れば皆で代官所に押し掛けた。労働組合法があるからではなく、江戸時代の農民運動を引き継ぐと感じるところに労働運動を拝米新自由主義から守ることができる。


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