二千五百八十(朗詠のうた)若山牧水全集(増進会出版社)第四巻、第五巻
甲辰(西洋発狂人歴2024)年
十二月八日(日)
第四巻は歌集「みなかみ」と主宰誌編集後記。「みなかみ」は読み始めて、これこそ写生。子規の写生論には、心の写生だと補正が必要だが、牧水は眼に入るものをそのまま歌ふ。だから千樫に、物足らないと云はれてしまふが、多数の歌を連作と見れば、そんなことはない。
第一章故郷は、従来の作り方と牧水はまえがきに書く。しかし読点(、)を付けたり、字数の合はないものもある。
秋の夕日にうかみ煙れる山山の峰かぞへむとしてこころさびしき
七七七七七だから、新しい形態だが落ち着かない。
秋の夕日にうかみ見る煙れる山を数へつつ暗さが増してこころさびしき
と七五七五七七にしたらどうか。この形態を本歌取りして
冬の夕焼け煙見る遥か向かうの山なみは暗さが増してこころにも射す
次は
さきのこと思ふときならめ善き父の眉ぞくもれる眉ぞ曇れる
本歌取りすると
我が家は我が継ぐべきと皆思ふ 我が東京で歌作り続けることを止めるが出来ず
反歌
我が家の行く先思ひ集まれる人々と父我が顔暗く
表現の似たところが無いから、本内容取りかな。
読み進むうちに、「みなかみ」は全体が日記だ。つまり連作だ。茂吉の留学時と同じで、全体を日記の連作とするところに、散文に入れない歌の生き残る方法がある。
第一章の途中から、破調だけではなく家を継ぐかで牧水の心は乱れ、それが歌に出る。ここから先は読むのを中止した。
主宰誌編集後記は、購読しない人にはつまらないし、その時代を生きない人にも不要だった。これで第四巻を終了した。
十二月八日(日)その二
第五巻へ入り、まづは歌集「秋風の歌」。先頭の「夏の日の苦悩」は、生活日誌として読むとよい。
太陽のありかもしらずひたぐもり曇りかがやき窓あけかねつ
本歌取りすると
陽を閉ざす黒雲俄か広がりて夏の暑き日窓をも閉ざす
次章の「秋日小情」は飛ばし、歌集名と同じ「秋風の歌」。
藍色の風のかたまり樹によどみ郊外の秋ふかみたるかな
土ほこり落ち葉を散らす風を見て今年の秋も深まるを知る
病院の章を飛ばし、「秋風の海及び灯台」では
やうやくに帆に馴れ浪に馴れにつつこころゆるめば海は悲しき
煙吐く鉄(くろがね)の道行く車慣れて牧水みなかみ寂し
旅の歌でも、美しい景色や、さすらひの寂しさが無いと牧水の特長が出ないことが判った。最終章「夜の歌」は、小生に合はなかった。連続ではないためか。
十二月八日(日)その三
歌集「砂丘」に入り「山の雲」の章。
蜩(ひぐらし)なき杜鵑(二文字で、ほととぎす)なき夕山の木がくれ行けばそよぐ葉もなし
「なき」は無きだらうか、それとも鳴きだらうか。最初読んだ時に、蜩は無き、杜鵑は鳴きと解釈した。随分不自然な解釈だが、一回目はさうだった。本歌取りは
ひぐらしの次にくまぜみあぶらぜみつくつくぼうし山道を行く
その次の歌は
わがこころ青みゆくかも夕山の木の間ひぐらし声断たなくに
ここまで来て、一つ前の歌はひぐらしも「鳴き」だったと判明する。
ひぐらしが絶えぬ山道薄暗く日が傾くに登り気付かず
次の「三浦半島」の章は、美しい歌が続く。
海越えて鋸山はかすめども此処の長浜浪立ちやまず
海の先富士の嶺望むこちらには 鋸山を貫くのくろがねの道煙にて先へと進む後ろには 窓開けたまま人を載せ小学生の懐かしきかな
反歌
小学生夏の海への思ひ出は煙にむせる鋸山か
小生は鋸山からの歌。小学校五年の臨海学校は岩井海岸だった。往きは鋸山のトンネルで車内が大変なことになった。帰りは先生の指示で窓を閉めて、何事もなかった。
ひとすぢに白き辺浪(へなみ)ぞ眼には見ゆみ空も沖も霞みたるかな
打ちつける岩に砕ける白き浪空は雲にて峰は霧みて
少し飛んで
昼の浜思ひほうけしまろび寝にづんと響きて白浪あがる
岩肌に浪ぶつかりて耳響くいかづちの音か心は慌てる
「ふるさと」の章は、内容が低調な上に、破調が目立つ。其のやうな中で
瀬戸の海や浪もろともにくろぐろとい群れてくだる春の大魚
瀬戸の海流れは速し渦の中群れの魚らは如何に泳ぐや
十二月九日(月)
歌集「朝の歌」に入る。「秋より冬へ」の章は、十九頁目の「冬の海」に初めて佳い歌を見つけた。
冬近み入江の海の凪ぎ細り荒磯芝山黄葉しにけり
冬凪に海と向かへば富士の嶺が静まる時に陽の光あり
本歌取りは、今回も安房側だ。
大潮の干潮の冬日したたかに沖の黒岩あらはれにけり
真冬日も大潮があり陽の光弱くはなるも月が輝く
冬は、夜に強く引くさうだ。
たち向ふ安房の山辺の山蔭にひとむら黒き釣舟の数
海の先さねさし相模伊豆武蔵明治まえあとたくみ場の国
伊豆は反射炉。
遠つ海水際赤らみ夕がすみたなびけるかたに安房浮びたり
水な面には夕日が映り寒さ増す富士は霞みて冬鳥が飛ぶ(終)
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