千八百二十三(うた) 寝台特急カシオペアに前後動はあるか
壬寅(西洋野蛮歴2022)年
九月四日(日)
寝台特急カシオペアは1999年に作られた(ことを最近知った)。車両はE26系と呼ぶ(ことも最近知った。私の鉄道の知識はここ四十年ほど更新してゐない)。
かつて寝台特急は、発車時のカックンと云ふ前後動で目が覚めた人も多いことでせう。E26系の場合は、どうだらうか。編成端のみ従来と同じ密着自動式、中間は電車と同じ密着式だ。だから前後動が無いと云ふ乗車記が多い。
貨車や従来客車の連結器は自動連結器と呼ばれ、これはヨーロッパの緩衝器ねじ式連結器に対し、自動なためだ。しかし連結器にすきまがある。新系列客車と貨物のコンテナ特急は、密着自動連結器を使用し、これは自動連結器と混結できる上に、密着自動連結器どほしではすき間が無い。
かつての寝台特急は新系列だが、それでも前後動があった。これは連結器と車体の間にあるバネやゴムが原因だ。貨車の特急コンテナ車では密着自動式でブレーキ管も接続できる。すき間があると空気が漏れる。だから連結器を密着自動式から密着式に変へて、前後動が無くなるとは思へない。
その一方で、寝台特急カシオペアで前後動があると云ふ書き込みは無いから、改善されたのだらう。考へられるのは、ブレーキ装置だ。E26系は電気指令式だから、ブレーキの利きに時間差が無い。連結器のばねやゴムが縮んだり延びたりした状態で停車しないことが、原因ではないだらうか。
私もカシオペアに一度乗れば分かる。ところが切符の入手が困難だ。しかもツアーに組み込まれるから、値段が高い。昼行で体験乗車できれば一番いいのだが。
特急のカシオペア号全席がA寝台の高級列車


九月五日(月)
客車列車は駅に停車後、客車側のブレーキを緩めて、機関車のみブレーキを掛けた状態にする。だから昨日の推理は正しくない。密着連結器で前後動が無くなったと書く人が多いので、可能性を探ってみた。
かつて従来客車は、駅に到着すると30cmくらい前か後に動くことがあった。客車側のブレーキを緩めたためだ。新系列(20系、12系、14系、24系)ではそれが無くなった。これは密着自動連結器の効果だらう。
もう一つ、従来客車では発車時に立つと、床を滑るくらい前後動があった。これも新系列では無くなった。しかし新系列は連結器にばねではなくゴムを使ひ、それが前後動の原因ではないか。そんな疑問が出て来る。従来客車よりは少ないのだが。
客車でもお召列車はブレーキを緩めず停車緩めず発車

お召列車は、機関車だけブレーキを緩めて連結器が伸びた状態で停車する。発車の時も客車側に軽くブレーキを掛けたまま発車し、そのあと緩める。この運転法は日常行ふと、そのことを気にするあまり、停車位置を過ぎたり手前で停車してしまふのかも知れない。

九月六日(火)
二十二年前に、ドイツに出張で一ヶ月ほど滞在した。休日は鉄道で各地を巡り、ベルリン、アムステルダムでは一泊した。鉄道は近郊列車を含めてすべて客車だった。あの当時、日本は電車や気動車なのに欧州が客車の理由は、緩衝器ねじ式連結器だ。終点に着いたら、客車の最前列にも運転台があり、機関車は最後尾から押す。
日本でこれが出来ないのは、自動連結器だ。機関車が最後尾から押す場合に速度制限がある。ドイツで機関車の連結を見たことがある。連結係は、二つの緩衝器の中間に立ったままだ。そんなことをすると潰される、と心配しながら見続けたが何も起こらなかった。そのために緩衝器がある。連結係は中央のフックを掛けてねじを締めた。
欧州の客車は前後動がまったく無い。気づかないうちに発車し、気づかないうちに停車する。日本では連結係の死傷事故が多く、全国一斉に自動連結器に交換した。狭軌が原因だらうか。若い人たちは、従来客車の前後動を知らないだらう。立ってゐると倒れるくらいだった。
ヨーロッパ二十年前鉄道は新幹線もすべてが客車


九月十日(土)
若い人を電気機関車の運転士に育成しないから、運転するのはいつもベテランであらう。カシオペアは豪華列車だから、お召列車と同じブレーキ操作をするのではないだらうか。密着自動連結器と密着連結器の違ひは、単に価格だと思ふ。カシオペアは安いほうを選んだ。
列車がブレーキを掛けたときに車輪が空転すると、平らな傷ができて走行の時にトントントンと連続音がする。寝台列車だと、うるさい。乗車してゐると、この音が小さくなることがある。これは傷が小さくなったのではなく、走行を続けると再び音がするやうになる。私の想像では、線路が新しいと車輪の当たる部分が少なく、これだと傷は小さくなる。線路が古いと全体が当たるので、重量が分散し傷はなかなか減らない。
走行中に突然、前後動がときどき起きることが続くことがある。これは雨が降り出し、機関車が空転するためだ。寝台の別のボックスで事情を知らない人たちが昼間に「運転が荒くなったな」と話すのを聞いたことがあった。
そんな思ひ出も、寝台列車の廃止と共に今は昔となった。私は電車寝台列車には、一度も乗ったことがない。普段乗る電車の前後動から、想像が付いたからだ。ただし三十年ほど前から、電車は電力用半導体を使ふため、発車時や直列から並列に切り替へる時の前後動が無くなった。
サイリスタまたは誘導電動機回生含め省エネ電車
(終)

追記九月二十七日(火)
従来客車はブレーキに三動弁を用ゐたが、これはシリンダの感度に差が大きく車両間で前後動の原因になった。新系列は膜動弁を使ふので前後動がほとんどない。E26系は電気指令式だから、前後動がまったく無い上にお召列車みたいなブレーキの掛け方が容易なのではないだらうか。

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