千五百九十(和語の歌) 今回は八冊借りた(東郷豊治「良寛歌集」)
辛丑(2021)
七月六日(火)
八冊借りたうち二番目に紹介するのは、東郷豊治「良寛歌集」だ。良寛の歌で吉野秀雄「良寛歌集」を採り上げたが、東郷豊治「良寛歌集」のほうがいい。吉野秀雄みたいに、この歌よりあの歌がよい、など勝手な解釈をしないからだ。
私自身にも変化があった。吉野秀雄の著書を紹介したときは、良寛を歌の名人として読んだ。今回の東郷豊治さんの著書を読んだときは、良寛を書及び漢詩の名人とし、歌は書を引き立てるものと云ふ結論(書詩歌の関係へ)を出した後だった。
しかし長歌を読むと、果たして書を引き立てるものなのだらうか、と結論が揺らぐ。或いは良寛の、文章創作意欲の噴出かも知れない。書詩歌の関係で「本奉仕」と云ふ語を用ゐたが、学術への貢献度から、やはり長歌は副奉仕だらう。
良寛は 唐(から)の詩(うた)には 目指す道 和(やまと)歌には 心を入れた

東郷豊治さんの優れたところは、良寛の漢詩も理解し、背景の解説で漢詩に書かれた内容にも触れることだ。

七月七日(水)
東郷さんが似た歌を並べたことは有益だ。例へば
159 このごろの寝(ね)ざめに聞(き)けば高砂(たかさご)の尾上(をのへ)にひゞく小牡鹿(さをしか)の声(こゑ)  (遺)
160 ながつきの寝(ね)ざめに聞(き)けば高砂の(たかさご)の尾上(をのへ)にひゞく小牡鹿(さをしか)の声(こゑ)  (遺)
161 この夕(ゆふ)べ寝(ね)ざめて聞(き)けば小牡鹿(さをしか)の声(こゑ)を限(かぎ)りにふりたてゝ啼く  (遺)
162 長(なが)き夜に寝ざめて聞けばひさかたのしぐれにさそふ小牡鹿の声  (法)
163 小夜ふけて高嶺の鹿の声きけば寝ざめ淋しく物や思はる  (玉)

良寛は歌人として名を残さうとは考へなかったから、類似する歌をあちこち書いた。
さて書籍の先頭にある「例言」に
一 良寛の和歌はおおむね仮名書きになっている。(中略)編者が漢字を充てた個所には、必ずもとのふり仮名を施した。(中略)ただし(中略)真跡によったものに限られ、諸本から採ったものは、これに従わない。

(遺)は遺墨、(法)は安政四年の編者不明「良寛法師歌集」、(玉)は玉木礼吉編「良寛全集」(大正七年)。(終)

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