千三百二十六 1.パオ瞑想僧院のホームページを観て、2.「苦、無常、無我」を考へる
己亥、西暦2019、ヒジュラ歴1440/41年、紀元2679年、仏歴2562/63年
六月二十二日(土)
上座の仏道では、近年流行する瞑想に、タイの(1)ワットパクナム、ミャンマーの(2)マハーシと(3)パオがある。私自身は、そのときの指導僧に従ふだけで、どの瞑想法がよいとはまったく考へない。長年比丘を務められた長老方の瞑想法でどれが良いなぞと、在家の私に判るはずがない。
とは云へ、板橋のお寺に来る日本人は、パオ瞑想の人が多い。先日日本に招聘したクムダサヤドー、ニャーナダッサラ尊者ともに、パオ瞑想の専門僧だ。
パオ瞑想を調べるときに、Wikipediaを見てはいけない。比丘を還俗したくせに指導者のふりをした連中の名前が出て来る。Wikipediaを見る人はパオ瞑想について知りたいのであって、還俗した人を知りたい訳ではない。それなのに瞑想そのものの情報はまったく無く、先頭にこれらの連中の名前が書いてあるのには驚く。
しかも本人が書いたのかどうかは不明だが、NHKに出演しただとかしか書いてない。NHKの「心の時代」は駄目な連中ばかりが出演する。あんなものに出演したら、宗教失格者のレッテルを貼られる。パオ瞑想の先生とは、現在でも現役の比丘やサヤレー(女性の出家修行者)のことだ。
パオ僧院のホームページを発見し、画面の下のほうにあるパオサヤドーの動画を観た。パオ僧院は新興の瞑想センターではなく、上座部の伝統が濃いお寺であることがよく判った。今のパオサヤドーは三代目で、その前に二人のパオ森林僧院院長がゐる。パオ僧院が上座部の伝統に濃いのはこれが理由であらう。
瞑想が成功するかどうかは、上座の伝統に従ふかどうかだ。最近の日本では、瞑想法の技術だけに囚はれて、しかもマハーシだ、パオだ、ゴエンカだと掛け持ちでいろいろ試す人が多いが、上座の伝統、即ち信仰心に欠けるから、成功はしない。
パオ僧院森林僧院で、木の鳴り物を叩き食事の合図をする光景、日本の大鐘堂とそっくりの丸い木をひもで引っ張って丸太を叩く光景、日本のリンに当る回転する金属。これらには伝統が宿る。
あと成功するには神々のゐる世の中に住んでゐると思はなくてはいけない。我々と目の前の仏像と瞑想法しかないと考へると、それは唯物論だ。そして瞑想は失敗する。
ここでパオ僧院の動画で伝統を感じたのは(1)お経に音程をつける、(2)合図の木柱、(3)街中の托鉢、などだ。どれも瞑想の成功に役立つ。例へば托鉢は、食事を寄進してくださる在家の思ひを考へれば、瞑想に役立つ。

六月二十三日(日)
私は最近、無我の意味にこだはるやうになった。中村元さんが既に結論を出したが、それにも関はらず気にするのは、無我をアッタン(我)がないと解釈すると、無常と同じことになる。
現状ではアッタンはあるが、涅槃に達すると消滅する。つまりアッタンは無常だ。無常と云へば済むのに、無我と云ふ別の語があるのは、やはり中村さんの云ふことが正しい。
苦についても最近こだはってゐる。「苦集滅道」の「苦」は、人生は「楽」なのにこれを「苦」だと感じることだと前に書いた。別の捉へ方もできる。実際に人生を「苦」だと感じる人に、人生は苦だと説けば、自分は普通なのだと安心する。
つまり、人生を現状、楽だと感じる人も苦だと感じる人も、「人生は苦」だと知れば、人生が「楽」に変はる。元々「楽」だった人は一旦苦になって楽になるから、やはり変はったことになる。
現代の人たちに「人生は苦」だと云っても、あまり関心を持たれない。そのときの方法である。

六月二十五日(火)
森林僧院はミャンマーにずっと続いた伝統だ。タイにも頭陀行の伝統がある。その一方で、ミャンマーやタイの、農村や都市には膨大な数のお寺がある。私は、膨大な数のお寺で行はれてきたいろいろな修行を伝統と呼ぶが、パオ森林僧院の瞑想方法も森林僧院の伝統だ。
一つ気になることは、呼吸観が不浄観や白骨観とどこが共通なのかだ。釈尊在世のころのインドでは、呼吸することは生きとし生ける物の象徴だった。だから私は、呼吸することで動物であることを認識する瞑想だと解釈してゐる。

六月二十六日(水)
昨日或ることに気付いた。アッタン(サンスクリットだとアートマン)は涅槃に達すると六道輪廻からは消滅するから無常。無我は六道輪廻から抜けたあとの話だとするなら、これは正しい。
しかし六道輪廻を脱したあとの話なんて、人間には分らない。だから釈尊は無記と答へたのではないか。中村元さんの無我の解釈は、涅槃の後の話と考へることもできる。しかし中村さんの説明は歯切れの悪いところがある。中村さんは涅槃の前と後を考へずに、無我を涅槃前の話に限定してしまったのではないだらうか。(終)

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