千百五十 60代以上は感覚が変だ(今年のサラリーマン川柳)
平成三十戊戌
六月九日(土)
今年のサラリーマン川柳はよくない。「スポーツジム 車で行って チャリをこぐ」。こんな作品がなぜ1位なのか。理由はすぐ判った。サラリーマン川柳は一般投票で決まる。年代別にみると、60代以上だけがこの作品を推す。そしておそらく60代以上が投票数の多数を占めるのだらう。
私は62歳だ。しかし今回人生で初めて、60代以上は感覚が変だと感じた。この作品のどこが悪いかを解説したい。まづ「スポーツジム」は字余りだ。字余りはそれに見合ふ効果があるなら許される。スポーツジムにそのやうな効果は無い。
次に「チャリをこぐ」は無理に字数を合はせた。まづエアロバイクは「チャリ」なんて云はない。道路を走る自転車でさへ、「チャリ」だと状況が明らかな場合を除き意味が通じない。例へば突然「チャリは何色?」と云はれても何のことかさっぱり判らない。ましてやエアロバイクだ。
最初に拙劣な字余りをしておきながら、最後は無理に字数を合はせる。作るのはよいが、1位に選んではいけない。今回は、作者無罪投票者有罪といったところだらう。主催者はさしづめ死刑だ。投票に組織票があったかどうかを調べたのか。
六月九日(土)その二
私以外にも同じことを感じた人がゐる。松本人志さんが「ワイドナショー」(フジテレビ系)で
字余りだし(スポーツジムは)、ジム通いのほうがよくない?
と発言された。ニコニコニュースによると
松本が「サラリーマン川柳」に苦言を呈するのは、これが初めてではない。2大会前の2016年にも同番組で取り上げられ、厳しい指摘を入れていた。
「そのときの1位は『退職金 もらった瞬間 妻ドローン』というものでした。当時、新技術として流行っていた無人機を盛り込んだものですが、『面白くはないですよ。この前にドローン何も関係ないから、全然1位じゃないから、これを決めたやつのセンスを疑うよ』(以下略)
これは同感だ。私と松本さんはほとんど意見が合ふ。唯一意見が分かれるのは今年の
松本が“俺の中では1位”としたのが、5位の『電子化に ついて行けずに 紙対応』というもの。しかし、紙が『ゴッドの神にかかってないので、そこは問題』とやはりダメ出し。
紙が神に同音異義で掛かるから、私は問題ないと見た。或いは紙対応が慣れた手つきで手際よく、若い人たちからは神対応に見えるかも知れない。今どきそろばんを使ったら100%神対応だ。
その逆もある。今どき紙を使ふと、若い人たちから「神対応」と皮肉られるかも知れない。作者は皮肉の意味で使ったのかな。
六月十一日(月)
昭和五十年代から平成初期のころまでに感じたことは、戦前に成人を迎へた人は立派な人が多いのに、戦後に成人を迎へた人は道徳心に欠ける人が多かった。ここで注意すべきは、多かったと云ふだけで、全員ではない。戦前に成人を迎へても駄目な人はゐたし、戦後に成人を迎へて立派な人もゐた。
このことは労働運動にも表れた。戦前に成人を迎へた人が社会の中堅だったころは、産別会議(共産党系)と、そこから分裂した民同右派(社会党右派)、民同左派(社会党左派)だったが、戦後に成人を迎へた人はセクト主義者が多かった。我々の年代(私は昭和三十年度の生まれ)は「もはや戦後ではない」と云はれた時代だから、昭和ひと桁、十年代、二十年代の人たちとは感覚が異なる。
私は『労働情報』と云ふ雑誌を購読してゐた。左派社会党綱領に国の独立を優先することを主張したことで有名な信州大学教授清水慎三さんが発行人、元総評議長市川誠さんが編集人だった。民同左派の雑誌だが、だんだん新左翼系の記者が多くなり、私自身は新左翼や社会主義協会をそれほど好きではなかった。それは当然のことで内ゲバや多数派工作ばかりをやってゐた。それ以外に年代の差が大きい。私の年代ではもはや学生運動は過去のものだった。
今回、私は六十二歳で六十代の仲間入りだが、六十五歳以上人たちとは感覚が異なる。それがサラリーマン川柳に表れた。(完)
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