壱千四 西部邁ゼミナール(1.鎌倉仏教、2.グローバリズムによって日本人が忘れたもの「物の哀れ」)
平成二十九丁酉年
七月七日(土)
今週の西部邁ゼミナールは鎌倉仏教で、出演者の一人の話された次の内容は貴重だ。
最澄、空海は、幾つものレールから選んだ。
今の時代に欠けるのは幾つものレールだ。これ以外に
空海は語学の天才、或いはすべてのことに天才。最澄は語学が駄目でしかも都に行かず、短期間で地方のみにゐた。逆に残ってゐた古い仏教に出会った。
これはその先の、だからどうなったかを云はないと知識の羅列に終ってしまふ。西部さんは
親鸞(社会)--僧X(政治)
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道元(文化)--旧仏教(歴史)
の図を書かれ、最初は日本の多元性を誇る話し方をされたが途中から、宗教はハッピーを求めるがハプニングはそれほど起きない、私(西部さん)は宗教を信じないと発言した。これについて考察したい。
鎌倉仏教の宗祖たちは比叡山で修業したが、比叡山と鎌倉仏教には根本の相違がある。前者は止観、読経、勉学を含む総合修行だ。後者は阿弥陀仏、X経、座禅のどれかを行ふ単一修行だ。さうなった原因として末法思想、世の中の変化、比叡山の堕落が考へられる。決して四角形に並べてよいものではない。
七月八日(日)
ニホンザルは、教へた訳ではないのに群れを作る。これは本能だ。近親交配を避けるため、オスザルはある程度経過すると群れを離れて別の群れに入るが、メスザルはずっと同じ群れにゐる。これも本能だ。
人間は教へた訳ではないのに宗教が現れる。これも本能と考へるべきだ。それとは別に、宗教とは長い歴史を持つものと定義することもできる。しかしそれでは宗教は一つも発生しないから、最初は宗教候補が生まれる。それが永続することにより宗教となる。
宗教については、ここまで考へないと駄目で、西部さんが信じる信じないと云ふ話は、議論しても世の中の役に立たない。ましてや親鸞、僧X、旧仏教、道元を四角形に並べてみても世の中の役に立たない。空海が語学の天才だったと言ってみても役にたたない。
何かを論じるときは、知識を並べただけでは駄目で、そこから発展させる必要がある。
七月十五日(土)
本日の放送は『グローバリズムによって日本人が忘れたもの「物の哀れ」本居宣長』だった。因みに先週の題は『「空海と最澄」そして、親鸞、道元、法然、僧X、一遍上人 ―仏教精神の諸相』だったことを本日初めて知った。
本日の内容を私のメモから順番に紹介すると
平家物語を美しく書いた日本人が、なぜ大東亜戦争を美しく書けないのか。
一つは戦後生まれの日本人は米英仏蘭の植民地支配は正しいと云ふGHQの偏向した思想に洗脳されてしまった。ただし私くらいの年代(昭和三十年代、四十年代)は、実際に戦争を体験した人たちがたくさん周りにゐたから、米英仏蘭は更に悪いことを知ってゐる。もう一つ、米ソの冷戦の影響で米英仏に反対する人は多かった。
米ソ冷戦終結後は、一旦は欧米崇拝者が学者、マスコミを席巻したが、その弊害に国民が気付き、ここ二十年程修正されてきた。
戦争は目的を明記するが平家物語は記述が無い。これは運命、無常観、もののあはれ。
あの時代は、戦とは権力闘争だから目的が無いのは普通だ。鎌倉時代は途中から悪くなったが、初期は朝廷と幕府が権力を分け合ひ、領主と地頭が年貢を分け合ひ、それなりに悪くはなかった。初期には将軍様のお蔭でいい国になったと書かれたかもしれないが、時代が進むにつれ目的が削除されたのではないのか。
小林秀雄は、戦後に主張を覆す人が多いのを見て怒り、頭のいい人はたんと反省したらいい、と言った。
ニヒリズムを歌で抜け出す本居宣長。
漢字はよくできてゐる。
日本は海で隔てられ、一つのコスモ。
「漢字はよくできてゐる」が無いと、単なる日本非アジア論になってしまふが、漢字を入れたことで釣り合ひを取った。この均衡が大切だ。西部さんは「唐心」を外国から影響を受けた意味に使って、中国大陸から影響を受けた意味では使ってゐない。これもよいことだ。
殺した人間がどれだけ悲しむかを考へるのが日本。
これは仏教の影響だが、明治維新後の神道は、末社が仏教から独立しただけではなく、伊勢神宮も仏教存在社会での神道から国家神道になってしまった。そこには伝統が無い。伊勢神宮の伝統とは社家、御師のことで、事の善悪は別にしてこれらを廃止した神宮は新興宗教だ。明治維新後の神道が数百年続けば、そこには社会永続のための知恵が備はる。日本は残念なことに国家神道が新興宗教の時代に戦争を起こして敗戦した。
グローバリズムで皆、忘れてしまった。
西部さんが最後にこの一言を言ったので、今週の題が生きた。しかし一言だと不十分だ。だったらどうすればよいかを掘り下げるべきだ。あと、グローバリズムだけで皆が忘れた訳ではない。GHQの洗脳、円高による欧米崇拝、大都市人口集中による伝統と社会の崩壊。これらの前哨戦のあとグローバリズムが現れた。(完)
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