九百九十九 汲み取り式の変遷(二種類の簡易水洗)
平成二十九丁酉年
六月二十六日(月)
「すいせん」の反対は何かと問はれて、「非推薦」と答へる人は一般、「スイセンの反対はアヤメ」と答へる人は植物好きだ。しかし私くらいの年代だと「水洗の反対は汲み取り」と答へてしまふ。
私が小学校低学年のとき、学習百科事典に厚生省式と云ふ汲み取り槽の絵が載ってゐた。三室に分かれるから取り出し口から堆肥にするときは時間が経過し、寄生虫の卵は死滅する。そんな原理だった。

昨日、ある会話で簡易水洗と云ふ語が出た。私は当然のこととして、汲み取り便所を改良して水洗にしたものを指すと考へた。ところがその人は水洗類似の便器を用ゐた汲み取り式の意味で話した。
インターネットで調べると、その人の意味しか出て来ない。ここは昭和三十年代に使はれた簡易水洗の意味を後世に残す必要があると考へた。

もう一つ別の意味の言葉を見つけた。「堆肥」とは汲み取りや落ち葉を腐らせたもののことだ。ところが今は有機物を完全に分解した肥料を堆肥と呼ぶさうだ。

六月二十八日(水)
昭和三十年代まで簡易水洗とは、汲み取りトイレに下水管を敷設し汲み取り槽は撤去してその上に台所の排水を貯めるコンクリート槽を設置したものだった。ペダルがトイレ内にあって、これを踏むとコンクリート槽の水が流れた。
台所の排水を再利用するからエコシステムでもあった。ところが今は、水洗トイレ室の下側が汲み取りで、洗浄水は少量。かういふトイレを簡易水洗と呼ぶやうになった。

七月一日(日)
汲み取りトイレの排気塔は、元は風力式だった。風が吹くと縦型の風車がくるくる回る。すると汲み取り槽の空気を少し排気する。その後、昭和五十年頃から電動式のものが出て来た。排気塔の最上部の風車を撤去する。その部分に20ワットくらいの小型換気器を付ける。これで無臭(当時の基準では)と言ってよいくらいに改善された。
一昨年に東部伊勢崎線の大袋を訪問したとき、懐かしく感じたのは排気塔のある家があり、昭和五十年辺りの東京郊外の風景だった。
今でも浄化槽或いは電動排気塔の体制が続いてきたと思ってゐたが、簡易水洗と云ふ新しい仕組みが現れたことを始めて知った。

七月一日(日)その二
今回、不凍栓と云ふ語も出た。と云ふか私が最初に言った。私は釘を挿して回転させると水が少量流れて夜間などに凍結を防ぐ機能を持つ水栓の意味で使ったのだが、家に帰りインターネットで調べると水抜き栓の意味しか載ってゐない。これも意味が変ったのかも知れない。或いは昔から水抜き栓のことを不凍栓と云ふのかも知れない。(完)

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