八百九十六 引っ越し日記

平成二十八年丙申
十月三十日(日)
十六年間住んだ家に別れを告げ、本日引っ越しをした。昼食後、マンションに到着し引越し業者を待つ間、光電話とインターネットの接続をした。光電話の端子の位置が分からずNTTに電話を掛けたりして、やっと見つけた。光電話の装置を接続しても電話が使へない。装置の電話のランプが点灯しない。今回はNTTに電話を掛けず説明書を読むと、電源を切って10秒以上経ってから入れ直してくださいとある。実行したところランプは点いた。ところが電話機が使へない。説明書を再度読むと10分程度掛かることがあると云ふ。暫くして電話が開通した。
パソコンからインターネットを使はうとすると繋がらない。これも説明書を見るとhttp://(NTT東のアドレス)と書いてある。インターネットに繋がらないのにURLを入れても駄目だから説明書のあちこちを読んだが良い解決法が無い。もしやとURLを入れると無事、設定ツールをダウンロードできた。ここはNTTの書き方に改善が必要だ。まったく知らない人はそのまま入れるかも知れない。或る程度知識があればインターネットに繋がらないのにURLを入れても無駄だと考へる。設定ツールを起動してインターネットも使へるやうになった。

十月三十一日(月)
駅まで10分で歩けるのはよいことだ。実家は徒歩15分で20年前の感覚ではこれが普通だった。今は10分以内ではないと不便だと感じる。世の中がそれだけ贅沢になった。
朝、駅の自動販売機で磁気式定期券を購入し会社に向かった。古い定期券はSuicaだから電子カードを複数にしない配慮だ。会社の一つ手前の中野坂上駅で降りて古いほうを解約した。新しい定期券と古い定期券といっしょに提出すると、転居転勤扱ひで10日単位になる。普通の払ひ戻しは一カ月単位だ。
電車に乗ってみて判った。磁気式定期券は不便だ。吸い込み口のない改札機が多い。終業後に会社近くの駅の自動販売機でSuicaに組み込まうとしたが、販売会社が別だからできない。家の近くの自動券売機で無事組み込んだ。といふことで磁気式の使用は一往復に終はった。

十一月一日(火)
従来の家の近所にダルメシアンの犬がゐた。十六年前ここへ引っ越したとき既に成犬だった。二ヶ月ほど前に、あの犬がよぼよぼになったと妻が云ふので、散歩のところを見ると確かに年を取った。云はれるまで気が付かなかったから、最近急に衰へたのかも知れない。その犬が昨日亡くなった。十七歳数か月だった。弱っても散歩に行きたがるさうだ。インターネットで調べると大型犬は一歳が人間の十二年、あとは一歳が七年ださうだ。丁度我が家が引っ越したとき成犬になり、我が家が退出した翌日に亡くなった。
この犬はおとなしく気に入ってゐた。将来、うちの子が獣医学科を卒業したら毎月無料で診察させようと思ってゐたのに引っ越しでできなくなったと思ふのも束の間の出来事だった。

十一月二日(水)
賃貸の契約日は引っ越し前日なので下見を兼ねて片手で持てる程度の荷物を持って一往復した。妻と子はヘビの飼育容器を移動させるため夕方一往復した。ヘビは一晩従来の家でネットの中に休むことになる。電力の開始日が明日なのでヒーターが入らないためだ。私は容器も明日移動させたらと云ったが、ネットで大丈夫ださうだ。
引っ越し日の朝、子はヘビの入ったかばん、私は荷物を持ってマンションに行った。容器の組み立てに時間が掛かったものの、中にヘビを入れると元気に動いた。
子は学園祭のためそのまま登校し、私は家に戻り午後になって再度マンションへ行った。ヘビが水浴してゐる。ヒーターがあるとは云へ気温は二十二度。室内はリフォームされたからホルマリンが出るのかと窓を開けた。電話やインターネットの設定を行ったのは前記のとおりだが、その後に見ても入ったままだった。引っ越し業者が来て作業の途中で私がヘビだと説明すると、顔を床に近づけて観た。餌の質問があったので、冷凍マウスを週に一回与えると答へると、ジャパンスネークセンターでもそのやうな説明を聴いたさうだ。群馬県出身ではないが、近くに住んだことがあるさうだ。地元の人しか知らないのが残念だ。私もヘビが来て知った。

十一月三日(木)
引っ越しの日の夜は片付けを終了させたあとバーミアンに行った。本格中華コースの中華乾杯コースを食べた。一人1499円(税抜)、三人だと4497円(税抜)。ビール中瓶が含まれるが、妻と子はドリンクバイキング、私は海老春巻きに変更した。
この日は午後、まったく水分を取らなかった。コップが箱詰めされたからだった。夕方に焼酎が少し残った1.8リットル紙パックとまだ開けてない紙パックが見つかった。まづ少し残った紙パックにコップ1杯分の水を入れてラッパ飲みをした。次に新しい紙パックを開けて焼酎を少し空のパックに入れ同じくビールと同じ濃度にして二杯ほど飲んだ。水分補給を兼ねてすでにほろ酔い加減だったので、ビールは飲まなかった。先にも後にも1.8リットル紙パックで飲み物を取るのは今回だけだらう。

十一月四日(金)
二か月前には大丸十二階のレストランに行ったので、我が家も少し贅沢になった。土地が売れてお金に余裕ができた。土地を売り出して一年。なかなか買い手がつかず、たまたま今年二月が定年だったので、四月に退職金で上の子の半年分の学費と、下の子の入学費用、下宿費用を捻出できた。
退職金がどんどん目減りし、更に売却のため測量の費用も掛かるため、いよいよ底を尽くかと云ふときに売れてよかった。買主は某大手自動車メーカーに勤務するさうだ。犬を飼ってゐた家もおじいさんは同じ自動車メーカーに勤めてゐた。昔は路上で試運転をして、警察も大目に見てくれたが今は取り締まりが厳しいと十六年前に述懐してゐた。

十一月五日(土)
郵便局への転送手続きは引っ越し前にもできる。そのことを知ったのは引っ越しの後だった。転送は四日からになる。そのため二日朝七時に郵便物を受け取るため前の家へ着いた。早朝なのに家の扉が開き階段の上から壁の崩れた物が落ちてゐる。この日から解体が始まると予て連絡があった。午前半休を取り鍵屋に行きスペアキーを申し込んだ。
三日は祝祭日なので、元住吉から横須賀線小杉駅まで往復した。乗ったことのない区間を乗り納めとした。と云ってもその後、郵便物を引き取るため昨日に続き古い家にバスで行った。しかしポストの中は空だった。台所は天井の照明がぶら下がり、水がポタポタと落ちた。携帯電話で何枚も写真を撮った。そしてバスに乗り定期解約手続きへと向かった。(完)


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