八百六十三 一億総中流復活大作戦

平成二十八年丙申
七月三十日(土) 今回の特集のきっかけ
日経BPに精神科医の和田秀樹氏がときどき執筆する。私は和田氏の主張に半分賛成半分反対といったところだ。反対の部分は嫌悪感と云ってもよい。なぜ半分は嫌ひなのかと云ふと二年くらい前だらうか、日本は困った人を助けようといふ比率が世界で一番低いと書いたあとで、だから困る側にならないやうにするしかないといふ書き方だった。和田氏はこれ以外にもエリート意識を出した書き方をときどきする。
和田氏がそのやうなことを云ふなら、世界で一番低い比率の原因を探るとともに、高くする方法を考へよう。それが今回の特集となった。名付けて一億総中流復活大作戦である。
和田氏の主張に半分賛成の理由は、それ以外の部分は進歩的な発言だからだ。私は保守的な主張もするが、それは今の日本が保守性に不足してゐるからで、いはば進歩的に日本を分析した結果である。だから進歩的な主張には本来賛成する。例外はシロアリ民進党や社会破壊拝米新自由主義反日パンフレット(自称朝日新聞)の欧米猿真似で、これは進歩のふりをした駄論だから反対しなくてはいけない。

八月一日(月) 上流と中流
私は長いこと「中の下」だと思ってきた。ところが数年前に「中の中」だと思ひ直した。非正規雇用が拡大したからだ。私は今までずっと正規雇用で来たし、私が「中の下」だと「下」が大量に発生してしまふ。
ところが今度は今年になって、私は「中の上」だと思ふやうになった。昭和六十(1985)年辺りまでの感覚では、私の今の生活は当時の「中の上」だ。上の子は六年制の大学だし、下の子も大学生で下宿してゐる。これは私が贅沢をしてゐるのではなく世の中全体が贅沢になった。私が「中の上」なら、大企業などは「上の下」か「上の中」だ。こんなに「上」が多ければ、各企業は非正規雇用で収支を合はせるしかない。

八月三日(水) 「中の上」が可能な理由
「中の上」が可能なのは昭和六十年辺りの感覚で分類したからだが、それ以外にも理由はある。まづ私は車に乗らない。私も一番最初の会社では車で客先に行くので免許を取った。転職すると車は不要なので免許は更新しなかった。アメリカ長期出張中に免許が無いと不便だからアメリカで免許を取得した。帰国後に日本の免許に書き換へた。しかし日本では運転しないからこれも更新しなかった。
一回免許を更新しないだけでも高齢者を除けば極めて少数だらう。私は二回更新しないのだから希少価値がある。表彰されてもよいくらいだ。地球温暖化を防止するにはこれくらい努力が必要だ。車が無いと給料が安くても「中の中」の生活ができる。
子供が大学に入学すると、妻も働くようになった。昭和六十年辺りだと結婚した女性は専業主婦が普通だった。当時は家事に手間が掛かった。電子レンジが普及し出す頃だ。全自動洗濯機は高級品で物品税が掛かった。冷蔵庫は容積が小さかった。風呂はお湯の溜まり具合、温度を常に気にしないと湯ぶねから溢れた。コンビニは無かった。平日の昼あたりにトラックに積んだ八百屋が来るので、それを買ひに行くのも主婦の仕事だった。隣り町に安いスーパーが出来たといふと買ひに行くのも仕事だった。天気具合で洗濯物を干したり中に入れた。これらが無くなったため、共働きが可能になった。

八月七日(日) かつて日本に平衡作用が働いた理由
江戸時代と、昭和二十年以降六十四年辺りまでは、日本の社会に平衡作用が働いた。一番大きな理由は、公務員の給料は民間より低かった。江戸時代は商業の発達とともに米の比重が低下した。だから武士は貧乏だった。上級武士も家臣や使用人がゐるから本人の使用できる金額は限られてゐた。
昭和二十年以降平成の初期まではインフレだったから公務員の給料は民間よりかなり低かった。公務員とは低賃金の代名詞みたいなものだった。
どちらの時代も、武士または公務員による政策への影響は大きい。だからどちらも社会への平衡作用が働いた。数学で考へても公務員は倒産の心配がないから、給料は低くてちょうどよい。
固定金利元金保証の預金と、信用度の落ちる企業の社債を比べれば、後者の利率の高いのは当然だ。私も二十三年前に上場企業の社債を買ったことがある。ところが上場企業でも倒産が続くやうになり、私の社債も心配だった。時価は購入時よりかなり値下がりした。たまたま何かの変動で時価が購入時まで戻ったため売却した記憶がある。金利と危険度は逆の関係にあると痛感した。
優秀だったり野心のある人を民間に移行させる理由もある。給料が安くてよいから世の中のために働きたい人は公務員、会社や自分が金儲けをしたい人は民間と、性格による住み分けもできる。適材適所こそ発展の道だ。

八月十四日(日) すべてはプラザ合意から始まった
「上の下」や「上の中」がこんなに多い理由は、プラザ合意だ。二年間で国内勤務者の給料は米ドルに換算すると一気に二倍になった。これで中小企業や個人経営者に失業や廃業が続出した。大企業も事情は同じだが利益率にかなり余裕があったのでそれで吸収し、それでも余った人数は社内の配置転換や取引先の中小企業への押し付けで数字合はせを行った。
社内の配置転換とは、コンピュータ業界で云へば技能職を教育してCE(保守修理係)への転換などだった。その後、中小企業では昇給の停止、ボーナスの激減、退職金制度の改悪などで人件費は実質下げられたが、大企業は企業内労組があるため昇給制度が維持された。つまり給料が二倍になったのに大企業はそれまでの給料制度が続き、技能職の採用停止とともに非正規雇用がその帳尻合はせに使はれた。それまで個人経営者の収入は被雇用者よりはるかに多く、中小企業に勤務する人の給料は人手不足のこともあり、特に若年層では大手より多いこともあった。
つまり諸悪の根源は大企業労組なのだから、ユニオンショップの禁止、組合費天引き制度の禁止をすれば、我が国の経済問題と二極化問題の大半は解決する。即ち一億総中流復活大作戦である。(完)


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