六百三十九、オリンピック選手育成機能としての各大学の体育会(その二)

十二月一日(月) 体育会の街、訪問記(その一、八幡山)
世田谷区八幡山は日本大学総合体育館(前述)と明治大学総合グラウンド、そしてそれぞれの合宿所の在る体育会の街である。早速訪問 した。環状八号線に沿つて川を暗渠にした道を歩くと左側にコンクリート作りの大きな寮がある。しばらく歩くと右側にもある。左側が明治大学 、右側が日本大学の合宿所である。
日大の合宿所の後方に総合体育館がある。環状八号に面するが室内なので自動車の騒音は影響ないだらう。目の前に清掃工場がある。 これだけ近いとマンションとしては価値半減だが清掃工場は臭気がないし有害ガスも出ない。騒音もない。そこいらの駐車場より遙かに 快適である。分譲マンションを購入する人はそこまで考慮しないが、総合体育館や合宿所としては快適である。日大は土地の購入と有効利用 が上手だ。そのときはさう感じた。尤も日大のホームページには旧運動部学生寮とグラウンドの再開発計画の話し が持ち上がり、平成11・14年に竣工したとある。
明治大学の総合グラウンドは屋外だが日大の裏なので環状八号線の影響は受けない。昭和三十年代の地図にも載る古いものである。後から 道路と清掃工場が出来て都市化も進んだ。平成二十二年にここを売却し多摩テックの跡地に移転する計画が発表された。明大スポーツ新聞部によると
聖地が消える!?6月2日、明大ホームページで「スポーツ関連施設統合化等に係る計画推進について」と いうニュースが発表された。それは以前からうわさされていた明治大学・八幡山グラウンド移転の公式発表だった。
八幡山から多摩へ
「明大スポーツパーク(仮称)」と名付けられる新たな明大グラウンドは多摩テック跡地に建設され、2014年に利用開始予定だ。現在ラグビー部、 サッカー部などをはじめとする数部が生活し、練習を行っている明大八幡山グラウンド。加えてキャンパス近辺にある合宿所、練習場を統合する 予定だ。完成すれば700〜800人の体育会学生が過ごす大学トップクラスの規模の体育会合宿所になる見通しだ。今までは住宅街に隣接して いたため、近隣住民の迷惑になるという理由でできなかった早朝・深夜の練習。移転後はそれが気兼ねなくできるなど、各部がスポーツに打ち 込める環境になる。
さようなら八幡山
1937年にできて以来、明大体育会の「聖地」として愛されてきた明大八幡山グラウンド。全国のラグビー少年にとってもあこがれの場所でもあり、 長友佑都選手(平20政経卒・現FC東京)をはじめとする多くのトップアスリートを育ててきた。(以下略)
また、利用者も「授業の合間に練習に来られたけど、多摩ではそれができなくなる」(アーチェリー部部員)と交通の便が良い八幡山からの移転を 惜しむ。しかし新施設は「八幡山より練習環境が良い」、「ナイター設備があれば練習時間の幅が広がる」とやはり魅力的な施設になりそうだ。また 「公式試合ができるホッケー専用の競技場を造ってもらえるようお願いしている。それができたなら日本ホッケー界のためにもいい」(ホッケー部・ 宮田監督)と、この施設は明大だけでなく日本のスポーツの発展に貢献できそうだ。


とある。完成は平成26年だがまだ移転してゐない。その理由を調べると昨年11月付で
学校法人明治大学は,「多摩テック」(日野市程久保)跡地において,「明治大学スポーツパーク(仮称)」(以下「スポーツパーク」といいます)の 整備計画を進めて参りましたが,スポーツパークのあるべき姿を検討していく中で,当初予期していなかった工事費の著しい高騰,竣工引渡時期 の未定(教育計画の策定不能)及び自然環境保全の見地から,大幅な計画変更の必要に迫られ,現時点において,当初予定していた目的が達成 できないと判断いたしました。
また,「スポーツ科学部(仮称)」についても,同跡地での開設を見送ることとなりました。


とある。

十二月七日(日) 体育会の街、訪問記(その二、日吉)
日吉駅の慶応日吉キャンパスとは反対側を10分ほど歩くと下田地区といふ体育会施設がある。ラグビー、ソフトテニス、ホッケー、サッカー、野球 の屋外施設と学生寮がある。学生寮は体育会と留学生で別棟になつてゐる。それとは別に柔道部と野球部の合宿所がある。
日吉キャンパスは敷地の半分以上が体育会の施設である。起伏のある林の中にグランドや建物が点在し緑が豊かである。ここにアイスホッケー、 卓球、合気道、テニス、屋内庭球、少林寺拳法・日本拳法、洋弓、日吉台野球場、水泳部合宿所、ゴルフ、競争部合宿所、アメフト、射撃、弓道、 相撲・ボクシング・フェンシング、空手・レスリング、蝮谷体育館、陸上競技場、屋内プール、馬場がある。このうち蝮谷体育館は高校の授業と時間 で区切つて共用する。これだけ施設があるとキャンパスといふよりは体育会施設に付属して校舎があるといつたほうがよいくらいである。

慶應義塾体育会についてホームページを見ると
体育会に関連する教職員のすべて(理事、副理事は当然として、各部の部長さえも。ただ、塾長だけは役職にともない体育会会長となる)の指名権が、 体育会所属の塾生が圧倒的多数を占める役員会に与えられている。おそらく他大学の体育会では考えられないことである。

とある。体育会には本部といふ組織もあり、義塾体育会のうち主に学生に運営が任されている部門を統括する組織です とある。主幹(相撲部所属)の挨拶には
體育會本部では昨年度より「陸の王者復活」に向け、新しいことに挑戦し続けています。「新しいこと」とは、各部各々が頑張るだけでなく、塾體育會 みんなで強くなるためのきっかけづくりを行うというものです。(以下略)
ではなぜこのようなことを本部はしているのでしょうか。 ご存知のように、様々な大学がスポーツ推薦制度を取り入れている中、慶應義塾はスポーツ推薦制度を取り入れておりません。その中で慶應が勝つ ためにはどうしたらいいか、と考えたときに、必要なものは「圧倒的横の繋がりの強さ」であると思います。横の繋がりが強いことでお互いの試合の応援 に行き来することができ、刺激し合うことができます。他部の応援に行くこと、それがどれだけ力になるかということを我々は知っています。そのきっかけ づくりを、體育會本部で行っているのです。


とある。体育会の事務室は三田、日吉の両キャンパスと下田地区にあり、本部は三田にある。
(日吉キャンパスの入口隣に協生館といふ七階建ての建物がある。大学専用エリアと地域開放エリアに分れ、前者には 研修宿泊施設、大学院施設、大学体育施設(50mプール,飛び込みプール)があり、後者には民営フィットネスクラブ、診療所、コンビニなどが入居して ゐる。私の勤務先が加入してゐる健保組合は四年前に直営スポーツセンターを廃止した。その代はり指定された民営 フィットネスクラブを利用すると補助金が出るのだが、それを用いても首都圏は750円は掛かる。旧直営と同額の500円で利用できるところがないか 探したところ日吉キャンパス内の民営施設が500円だつた。ところが間もなく750円に値上げした。だから一回も行つたことはない。)

十二月十四日(日) オリンピックは必要か
今回はオリンピックの選手数から考察を始めたが、これは他に適当なデータがないためやむを得ず用いた。オリンピックの種目を見ると、なぜこんなのが と思ふものもある。かつての帝国主義の時代にはオリンピックは国際親善のために有益であつた。戦後は目的を失つたがアマチュア主義の厳守といふ 擬似目的で何とか理想を守れた。しかしアマチュア主義が撤廃された今、理想は何もない。動物の競争と何ら変らない。だから私はここ二十年ほど オリンピックは見ない。
国内で人気のある競技は野球だがこれも不公平である。他にも多くの競技がある。マスコミは他の競技も報道すべきだ。野球自体は硬球といふ危ない ものを投げて打つ野蛮なスポーツである。だから人気のあるのはアメリカ大陸だけである。スポーツは心身を鍛へるものでなくてはいけない。今は、特に オリンピック選手になると身体を酷使し、一方で金メダルでも取ると慢心を起こして柔道の内柴みたいな人間が出てくる。スポーツは単純な数値で勝敗を 目指す時代は終つた。今後はどれだけ劣勢から進歩し、どれだけ心身に好影響を与へ、どれだけ社会に好影響を与へ、どれだけその国独自の文化を 応用したかを数値化して競技すべきだ。つまり西洋思想からの脱却が必要である。日本の大学体育会は学部と連携することにより、西洋にそれを主張 する能力がある。(完)


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