二百五十二、スポーツセンター20年

平成二十四年
四月四日(水)「健保組合のスポーツセンター」
私の会社の健保組合は一昨年までスポーツセンターがあつた。利用し始めたのは二十年前である。今の会社に就職して十九年だが、前の会社も同じ健保組合だつたので利用が一年長い。新橋、飯田橋、中野と3箇所にあつたが一昨年すべて廃止された。その後は民営スポーツセンターの施設を利用することになつたので民営施設を含めてスポーツセンター二十年の変遷をここに記録してみた。

四月五日(木)「スポーツセンター利用のきつかけ」
前の会社は最初は政府管掌健康保険だつた。今は協会健保と呼ぶが一番待遇が悪い。それまでソフトウエア業界は不況知らずの成長産業だつた。しかし二十年前に突然不況が訪れかなりの企業が倒産した。東京には従業員100名以上の企業が加盟できる情報処理健保組合と、それより小さい会社が加盟する小型コンピュータ健保組合があつて、どちらも健保自身のリストラを避けるため企業に勧誘を行つた。
そのため前の会社は従業員が10名なのに100名以上の健保組合に加盟した。そこは直営のスポーツセンターがあるので試しに行つてみた。私はそれまでに政府管掌、富士通健保組合、私立学校共済、情報処理健保と四つに加盟したが、直営のスポーツセンターは情報処理健保だけだつた。
もつとも私学共済もよかつた。公務員の共済組合と同じように健保と年金が一体となつたもので、公立学校共済や文部省共済と宿泊施設を相互利用できた。更に共済間相互利用で他省庁や地方自治体の施設も料金は組合員と一般のおそらく中間くらいだと思ふが利用できた。
一方、富士通健保は川崎工場の隣の富士通病院を無料で利用できた。当時は本人の負担は一割だつたから、今は二割の自己負担かも知れない。
大手や公務員はこのように優遇されてゐる。中小の労働者と個人商店主はもつと声を上げるべきだ。政府の職員が政府管掌に入らないのは変だ。ましてや消費税増税なんか絶対に認めてはいけない。情報処理健保はそれなりに優遇されてゐるから、個人の立場では不満はないが一般の中小労働者のことを考へるべきだ。

四月六日(金)「二十年間続けるための極意」
二十年間で健保組合の施設に25回、施設を廃止した後の指定民営施設に5回、市営のスポーツセンターに10回。合計四十回である。よく二十年間続けたとも言へるし、年に二回くらい単発的に行つただけではないかとも取れる。とにかく二十年続けた(と本人だけが思つてゐる)。

四月七日(土)「改修前のスポーツセンター」
スポーツセンターでは柔軟体操を行つたのちに、部屋の中の一番外側に一周100mのトラツクがあり3周する。ここで何人追い抜くかが楽しみだつた。私は追い抜かれたことはない。3周で15人くらい抜く。一番多いときは30人くらい抜いたことがある。
トラツクの内側はトレーニングマシンと空きスペースがあり、空きスペースはインストラクタの指示と音楽に合わせて盆踊りを早くしたようなことをやつてゐた。その光景を見ながら走つた。走り終ると20種以上あるトレーニングマシンを三回づつやつて終了した。
その前に会社別にフアイルがあつて参加者は自分の用紙を取つて血圧と体重を書き入れた。だから社内で誰が参加するか判る。今だつたら個人情報だと問題になるが20年前はおおらかだつた。私の会社は当時は250人くらいなのに私以外は、横浜と池袋の女性が一名づつ参加するだけだつた。
或るとき休館して改修工事があつた。改修の結果、トラツクが廃止された。高速盆踊りのスペースはガラス張りのスタジオに変はつた。トラツクの代はりにランニングマシンになつた。はつかねずみの飼育器ではあるまいし同じ場所で走つて面白いはずがない。その後小型デイスプレイとイヤホンが設置された。テレビを見ながら走るのである。ずいぶん怠惰なトレーニングである。私はテレビを見たことは一回もないし、走るのも2分かそこらで済ますようになつた。

四月八日(日)「15人から30人を抜く理由」
毎回多くの走者を追い抜いた話を書くと、負けずぎらひな性格だと勘違ひされるので説明しておかう。トラツクをみずすましみたいに何週もするのは退屈である。空きスペースの高速盆踊りは、たまにしかやらない。退屈だから早く済まさうとだんだん走るのが速くなつた。

四月九日(月)「市営のスポーツセンター」
健保組合は一回500円、市営のスポーツセンターは300円である。市営のスポーツセンターも10回ほど行つた。
健保組合はソフトウエア業だからそういふタイプの人が多い。市営のスポーツセンターは筋肉オタクみたいな連中が多い。年配の筋肉オタクまでゐる。とはいへ、いつしよにスポーツをするから仲間といふ意識はある。初心者は参加し難い雰囲気かも知れない。

四月十日(火)「スタジオ」
市営が安い理由はスタジオがない。といふことで健保ではスタジオも参加するようにした。テンポの速い音楽に合わせて体を動かす。楽しく有酸素運動をできる。しかし小型テレビ付きのランニングマシンも同じだが、有酸素運動なら道路を歩くなり走るなりすればいいではないか。円高による金持ち国のアメリカ猿真似の贅沢といふ気がする。
スタジオではヨガと太極拳が私のお気に入りである。ヨガは5年前は最後にインド音楽が2分ほど流れたが2年前に参加したら流れなかつた。アメリカ経由のヨガになつたからだと思ふ。パワーヨガだとかナチユラルヨガだとか種目が増へた。

四月十二日(木)「日本に合つた泳法を」
飯田橋にはプールもあつた。クロールは競技のための競技である。いかにも西洋野蛮人の考へさうなことだ。私は西洋人が野蛮だとは思つてゐないが、日本には西洋猿真似人間が多いので、ときどきシヨツク療法で云ふことがある。
まづ息を吸ふときに横を向くのは不自然である。右か左か一方だけを向くのは更に不自然である。もつとも呼吸の度に右と左を交互に向いたら首が疲れるし難しくて泳いでゐられなくなる。
それに対して平泳ぎはゆつくり泳ぐこともできるし顔を出したまま泳ぐこともできる。日本に合つてゐる。日本古来の泳法で「のし」は更に合つてゐる。父が昔「のし」で軽々と泳いだのを見たことがある。形だけ真似してみるのだが私の場合は沈んでしまふ。父は別に水泳が得意といふタイプではないから戦前の人は皆「のし」で泳げたに相違ない。

四月十三日(金)「健保の直営スポーツセンター全廃」
三つあつたスポーツセンターが次々に廃止され、一昨年3月つひに全廃された。高齢者医療負担金が原因だと健保組合はさかんに云ふが、負担金はよいことだ。高齢者は国民全体で負担すべきだ。情報処理健保は若い人が多いのでこれまで優遇されただけだ。しかし負担金だけだらうか。技術者の偽装請負や多重請負は儲からなくなつた。

四月十四日(土)「スポーツセンター廃止」
スポーツセンターの全廃が決まつた。そのとき私の手元に回数券が6枚残つた。スポーツセンターの受付に相談すると、残つた分は現金書留で返金するといふ。しかしそれは手間だから「それより全部使つてしまへばいいんだ」と受付の人と大笑ひして最終日までに使ひ切つた。スタジオやプールでお別れ特別企画もあつて別れを惜しんだ。
その後は健保組合指定のセントラルスポーツとテイツプネスに行くことになつた。廃止前にセントラルの偉い人が直営センターの職員に指示するのを見て、直営センターはセントラルの委託だつたと初めて知つた。だからセントラルの施設は直営施設とほとんど変はらない。テイツプネスは1回1000円だから2回しか行つてゐないがセントラルよりよかつた。特にスタジオプログラムに気功があるので参加した。足のももを手で叩いたりなどそれほどではなかつた。セントラルもティップネスも一般会員は月会費が10000円前後だから客層もよい。
直営センターもセントラルも着替室入口にアメリカのポツプスが流れてゐる。音楽に限らず施設もプログラムもアメリカのスポーツセンターを真似したものである。アメリカは資源浪費大国だから肥満の人が多い。だからランニングマシンやスタジオの有酸素運動などカロリー消費が必要になる。今後は日本に合つたスポーツ施設とプログラムが必要となろう。スポーツは精神の向上に寄与しないといけない。(完)


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