二千八百九十六(うた)NHKスペシャルのドラマは最悪だった
乙巳(西洋発狂人歴2025)年
八月二十日(水)
NHKスペシャルは、ドキュメンタリーである。ところが或るドラマを放送した。当ホームページが題名を書かないのは、ひど過ぎるからだ。さすがにドラマだけでは気が引けたのか、ドラマの前に終戦の日への感想を街頭で訊いた。ドラマの後には、モデルとなった研究所について概略を説明した。
ドラマ自体は、猪瀬直樹の小説をNHKが変へたものだ。時代が今と異なるから物珍しいし、戦争の結果が研究所の予想どほりなので、誰もが一回目は興味を持つことでせう。しかし、次の問題点を気にしながら見ると、二回目はとんでもない駄作であることが分かる。
  1. 東條英機を美化し過ぎる
    東條が外交交渉に望みを掛けるのは、首相になったあと昭和天皇から云はれたからだ。首相になる前は、陸相として開戦するやう、強硬に主張した。
    東條が首相になったあと、陸軍若手からの反発やテロを心配して毎日別の道を走るが、天皇から指示されたと説明すれば済む話だ。俺は首相兼陸相なのだから、何をやってもいいのだ、とはならない。現代用語で云へば、説明責任を果たしてゐない。
  2. 武藤章も美化し過ぎる
    軍務局長の武藤章を、立派に描き過ぎる。俳優を誰にするか、どう演出するかで、好意的に描くかその逆かが分かる。
    武藤章は、熱河作戦から華北分離工作までの責任がある。それらがあるから日華事変が起きて、武藤は事変を拡大させ、先の敗戦へと繋がった。武藤章こそ、開戦責任第一位かも知れない。
  3. 東京初空襲
    研究所は、東京空襲を予想し、実際との差は一ヶ月だったとする。しかしこの空襲とは真珠湾攻撃四ヶ月後のドーリットル空襲ではないのか。アメリカは空母二隻を本州近くまで航行させた。そしてB-25爆撃機16機で東京、横須賀、横浜、名古屋、神戸を空襲し、そのまま中国大陸に飛び、パラシュートで脱出した。つまり、繰り返し実行できる作戦ではなかった。
    東京への本格的な空襲は、アメリカ軍が1944年6月にサイパン島へ上陸してからだ。テレビの説明では、多くの視聴者が本格的な空襲を一ヶ月差で予想したと思ってしまふ。もし本格的な空襲を一ヶ月差なら、真珠湾攻撃、ミッドウェイ海戦、珊瑚海海戦などの前なので、多くの条件が相殺の結果だ。
  4. 余計な筋書きと、知りたい情報の欠如
    憲兵が、主人公(研究所の模擬内閣で首相役)を尾行するものの、主人公が隠れると、そのまま行ってしまひ、二度と現れない。ずいぶん間抜けな憲兵である。尾行に失敗したら、再度試みるのが普通だ。
    主人公が隠れたときに、逆方向から別の軍人が現れる。尾行する憲兵の更に後方から主人公の逆方向へ廻るなんて困難だ。この憲兵と軍人は、本筋とは無縁な蛇足だ。
    本来は、研究過程でどのやうな議論が為されたのか、首相役、書記官長役、陸相役、海相役、企画院長役以外の人たちの議論と発表を出すべきだ。ドラマではなく、ドキュメンタリなのだから。
  5. 両親の死
    両親が死亡したことについて、主人公は疑問を持ち、憲兵の後ろにゐた軍人が、真相を教へる代はりに、研究所の進捗を教へてほしいと云ふ。結局、真相は分からず、研究所の進捗も全大臣の前で発表する事に影響を与へない。つまり、これは完全に放送時間稼ぎだ。
  6. ドラマとドキュメンタリー
  7. ドラマとしては、以上の欠陥がある為に、街頭での感想や、実在の研究所についてを入れて、NHKスペシャルを装った。
東條を美化し過ぎ故物語り失格なれど 街頭の声と実在研究所説明を入れスペシャルと為す
反歌  東條と武藤責任開戦の国を滅ぼす大悪人に(終)

(8.22追記)憲兵の後ろにゐた軍人から主人公は後日、日本の暗号はアメリカに解読され、わざと難題を突き付けてアメリカの手の中で踊らされてゐる、と発言する。これは正しく、そもそも日清戦争はロシアとドイツに踊らされ、日露戦争はイギリスに踊らされた。せっかくの発言が、一軍人(陸軍中佐)の根拠があやふやなものに描かれたのは、残念だった。

追記八月二十三日(土)
このドキュメンタリーは、前編と後編に分かれ、先週の土曜と日曜に放送された。前編は本日が公開期限、後編は明日なので、本日まとめて再度両方を観た(無駄な部分は、省いたが)。その結果は
  1. 一軍人(陸軍中佐)の正体
    主人公に、日本はアメリカの手中で踊らされてゐると発言した軍人は、東條英機の副官だった。とは云へ執務席が、武藤章の隣なので混乱したが、NHKの番組紹介では「軍務局高級課員」とある。武藤章はこの軍人と、少し会話があり、善良に描き過ぎた。
    開戦責任は、(1)熱河作戦から華北分離工作までと日華事変を拡大させた武藤章、(2)連署した各大臣、(3)仏印進駐を強硬に主張した富永恭次、(4)米内内閣を崩壊させるため陸相を辞任した畑俊六、辺りだらう。
  2. 東條英機の満洲での悪行
    東條英機は満洲時代に、反日中国人の弾圧や、日本人でも反軍思想の人(主人公の両親も)の弾圧を行なった話が、軍務局高級課員との会話で出て来る。しかし両親の死因については分からなかった、で済ませた。陸相東條の副官なら、分かりさうだが。NHKの作り話は、放送時間が無駄だ。
    東條と岸信介の悪行は満洲全土遍く及ぶ
  3. エリートが敗戦を起こしたことを隠蔽
    先の戦争は、東條英機、武藤章ら陸軍エリートが起こした。それなのに今回のドキュメントは、エリートは勝れてゐると視聴者に思ひ込ませる裏目的がある。
    東條と武藤権力ごり押しとエリート意識国を滅ぼす 岸信介も
  4. 東京空襲
    東京空襲とは、東京初空襲のことだった。多くの視聴者が、本格的な空襲のことだと思ってしまふ。これはNHKが悪質だ。
  5. 戦争回避できなかった理由
    研究所員になった陸海軍人の最高位は、少佐だった。統監部は少将だが、研究所員にも陸海軍上層部を入れるべきだった。各省の幹部クラスも入れるべきだった。発表は「必敗です」ではなく、回避する方法をたくさん出して、どれも極めて不十分だと説明すべきだった。
追記八月二十七日(水)
  1. 所長が反論するのが常識だ
    所長は、研究所の途中経過で必敗が出た時点で、陸軍から参加した三人に「何か反論しろ」と叫ぶが、三人はうなだれるだけだ。なぜ所長が反論しないのか。知識も経験も、若手たちより豊富なはずだ。
  2. NHKのアメリカかぶれを暴露
    NHKの番組紹介のホームページに、とんでもない一文を発見した。
    新約聖書に登場する、ヨハネという人は予知夢を見た人物として知られていますが、洋一たちもある意味このヨハネのように、国の行く末を知ってしまった人たちだととらえています。

    ヨハネは、研究所にまったく関係ない。そもそも予知夢と科学的な分析では、方向が逆だ。
  3. 所長の遺族が放送倫理・番組向上機構に申し立てへ
    共同通信のホームページによると
    所長の孫(中略)飯村豊さんが26日、東京都内で記者会見し「歴史がゆがめられ、祖父の人格を毀損するような描き方をされた」と抗議した。放送倫理・番組向上機構(BPO)へ申し立てる意向という。
    (中略)研究所の所長は、飯村さんの祖父で陸軍中将の飯村穣が務めた。自由な議論を後押ししたとされるが、ドラマの所長は結論を覆すよう圧力をかける人物として描かれていた。

  4. そればかりか、主人公(首相役)への憲兵隊による弾圧を、よく知る人物として描かれた。
追記八月二十八日(木)
  1. 借金と増税
    戦争で経済が発展した話が出て来る。しかし、その原資が借金と増税であることに触れなかった。日露戦争では、アメリカが戦争債を買った。今回は、日華事変で増税余地はもはや無くなったし、戦争債を引き受ける国は存在しなかった。
  2. ロシアの共産運動を助けた
    日露戦争に勝てたのは、日本軍がロシア国内の共産勢力へ資金供与するなど工作をしたからだった。戦争債と合せて、日露戦争とは違ふ点を強調すればよかった。
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