千六百四十(和語の歌) 管理人と清掃員の間で
辛丑(2021)
十一月十四日(日)
(前へ)かつて管理人は、夫婦の住み込みだった。受水槽、揚水ポンプ、給水タンク、排水ポンプ、ガス、電気、火災報知器、エレベータに対応するため、夫婦のどちらかが必ず対応できる体制だった。受付で新聞を読むのは緊急に備へるためだった。
今は、これらに異常があるとオンラインで各担当会社に伝はるため、管理人は不要になった。だから今は管理人と云ふ名の清掃係がほとんどである。
電(いなづま)の 線(いと)を用ゐて 常ならぬ 事伝へれば 人は要らずに
これまでに、私が管理人を務め、別に清掃員がゐるマンションが二つあった。一つは元公営住宅を分譲したもので、来客駐車場の管理(一時間百円だったか)や、お金の受け取り、領収証の発行、パソコンのExcelシートに記入を行なった。清掃の仕事をごく一部受け持った。
管理組合理事会、管理会社の定期巡回に管理人も立ち会ふと云ふので、館内や普段は人の出入りしない屋上を皆で見て回った。この仕事は面白いが、お金を扱ふので気を遣ふ。それでゐて最低賃金のままだ。それより通勤が三回乗り換へで時間が掛かるのと日曜勤務ばかりなので、一ヶ月で終了した。

十一月十五日(月)
住み込みの管理人室があるマンションに、二回勤務したことがある。一つ目は集会室になり、カビ臭を避けるため、朝に裏のサッシを開けて、帰る時に閉めた。ここは管理室とは少し離れた場所にあった。二つ目は、管理室に和室が二つ、便所、台所、浴室が付属する。昭和四十年代の小さな家族用アパートに浴室を追加した構造だった。一つ目は昭和五十(1975)年、二つ目は昭和五十五(1980)年の建築なので、プラザ合意やバブル経済より前の、日本が異常になる前だった。
今は通勤の管理人がゐて、八時間勤務する。私は一日間代行した。母が午後にデイセンターから戻り、ここ二ヶ月ほど戻ったあと家を空けると危なくなった。この時はその前なので引き受けたが、翌日から一週間ほど腰痛になった。この頃は、重い旅行かばんに制服を入れ、更に図書館から借りた本二冊と、途中で買った2リットルのペットボトルが加はった。少し重かったので、駅までの一部区間で肩に掛けた。
住み込みで 縦横延びる 長屋看る 部屋のみ残る 昔の臭ひ


十一月十六日(火)
勤務時間は、三時間がほとんどだ。大規模のマンションは五時間、七時間、八時間もある。管理人で七時間の仕事は、別に清掃員がゐるので運動量は少ない。ところが家に帰ったあと、疲労感がある。母がデイセンターから午後帰る理由以外に、私自身三時間が合ふ年齢になった。
或る管理人一人清掃員数人の職場では、常勤数人は五時間がいいと云ふ。往復の通勤時間を含めると、午前を使って三千百五十円だと少ないのだらう。
ここの職場は、常勤の退職が多いさうだ。その理由は、清掃の最古参が厳しい人だったが、今は別の人になった。だが別の理由で、私はそのマンションを遠慮することにした。
(1)10分ほど休憩時間があるので開始時刻より少し早めに来なくてはいけない。これは変な話だ。人間はずっと働き続けることはできない。休憩(昼休みと区別するなら休息)は当然だ。
(2)着替へる場所が一人分しかない。業務終了後に待つのは煩はしいし、ときどき女性も勤務するから配慮が必要だ。
(3)私物は、ゴミ庫の隅にある業務物置き場に置く。出勤時と退勤時は管理人室で着替へるのだから、そこに置けばいいではないか。ここは五時間勤務だから、弁当を持って来る。ここのゴミ庫は清潔だからよいが、ゴミ庫に弁当を置くのは改善の余地がある。昼食は集会室で取る。これは管理人がゐないので気楽でよい。
区役所委託のゴミ収集車の人たちと、顔なじみになるのはよいことだ。男二人とおばちゃんのことが多いが、後ろ髪が長い女性が来ることもある。飲食業が不景気で来たのか。
一人だと ゆったりするも 話に欠ける 二人では 当たり外れに 意(こころ)を注ぐ 人(ひと)多(さは)の 職(つと)めの場では 話が弾む


十一月十七日(水)
清掃員が別にゐる管理人を二回担当したが、つひ清掃の仕事をたくさんやってしまふ。来客用駐車場が三台あり、しかし記入簿は二台分しかなく、無断駐車が一台あったため、止められない人が出た。清掃巡回に出ていて少し対応が遅れたが、その後すぐ対応して事なきを得た。
管理人は、管理人室にゐることが仕事なのだと、このとき判った。とは云へ、朝の通勤通学時は送迎バスの幼稚園児から小中高校生、通勤者で、玄関の扉はほぼ開きっぱなしになる。不審者が逆向きに入っても気付かれない。送迎バスを見送って戻る親も多いからだ。
本当に管理するなら、玄関に立って逆向きに入る人を見張らなくてはいけない。管理人は清掃兼務にして、専任は不要ではないか。そんなことをふと考へてしまふ。かつての住み込みに比べて、昼間のみ勤務で、経費は安くなった。しかしそこで満足してはいけない。今はオンラインで対処できるから、更に削減を進めるべきではないだらうか。管理人室に、超小型の私物テレビがあることがある。普通のテレビが備品としてあることもある。しかし管理人にテレビは不要だ。
最近は、管理人室が外から見えるところが多い。しかしなかには、貼り紙や時計で外から見えないところもある。
周りから 見られては困る 人は要らない 住む人の 為に働け 掌(つかさ)どる人


十一月十八日(木)
中間層が現場の声を握りつぶしてはいけない。そんな思ひを二回経験した。
一つの会社は、夏の期間に管理人室にエアコンかトイレが無いときは五百円の手当が出る。それなのに、管理人の指示で働く清掃員として勤務した或るマンションは、勤怠時の着替へだけ管理人室を使って、あとは三時間非常階段など外の勤務だ。
トイレは向かひの公園を使ふと書類にある。トイレはともかくエアコンが使へないのは問題だ。このマンションは二回勤務するので、一回終了後に事情を会社に連絡し、五百円出すかエアコンを使へるかどちらかにしてほしいと改善案を出した。ところが、今からお客さんに五百円出してほしいとは云へない、かう云ふことはよくある、の一点張りだったので、二回目は辞退した。
この場合、直接元請けと交渉してよいのなら、エアコンを一時間に五分づつ使ふやうにしませう、辺りで妥協できた。
もう一つ別の会社で、管理人室は住み込み時のものなので使用禁止。代はりに清掃用具室で着替へる。トイレもここに増設した。しかしエアコンが無いし、扉の上は壁が無く外気が入る。夏は我慢したが、冬は無理だ。会社の担当者に、電気温風機の設置と扉の上をベニヤまたは段ボールで塞ぐやう、元請けに提案してほしいと連絡した。ところが、電気温風機は火災の危険がある、塞ぐのは建物の構造を変へるので無理だと、回答があった。
対策を考へるのは元請け会社だ。こちら側で、火災の危険だ建物の構造変更だと、現場の意見を握りつぶしてはいけない。これも直接に交渉してよいなら、私の提案で落着しただらう。
取り次ぎの 人は前から 来た声を 遮らずして 後ろに送れ

この歌は「下」「上」の代はりに「前」「後」を使った。現場が下、中間層が上ではない。強いていへば、居住者が上、管理会社と中間層と現場はすべて同じ高さの下だ。

十一月十九日(金)
管理人が休みなどのときの代行が本業のため、一つの会社では前日までに現場で引継ぎを行なひ交通費と五百円が支給される。直前に来た仕事だと、引継ぎの日時が管理人と合はないことがある。その場合は、電話引継ぎでよいと指示が出る。
ほとんどは管理室の固定電話に掛ければよいが、管理人の携帯電話しか通信手段がないことが二回あった。引継ぎで時間が掛かり500円掛かったとする。会社から支給されないし税金の控除も困難だから、所得税、住民税、国民健康保険、介護保険の負担分を加へて実質550円になる。時給1050円の人が550円負担はすべきではない。一つの仕事は辞退した。もう一つの仕事は、管理人が既に退職し、我々代行員どほしの引継ぎだったので、自宅にゐる人を探してくれて、その人に電話を掛けた。担当者の努力に深く感謝したい。
もう一つの会社は、引継ぎが不要だ。ところが、或る仕事は事前に携帯へ掛けるやう書いてある。書類は会社の担当者宛てなので、担当者が掛けて、我々代行員(日替はりで複数のことが多い)に知らせてくれるのだらうと思ってゐたら、代行員が掛けるさうだ。携帯への電話料金のことを会社に伝へ、管理会社に交渉してもらった。しかし本人ではないと駄目だった。だからこの仕事も辞退した。
本人が掛けないと駄目だと云ふのは、管理会社の傲慢だ。昨日も書いたが、居住者がお客で、管理会社、中間層、現場は等しく仕へる立場。管理会社が上で代行会社は下だと勘違ひすると、かう云ふことになる。
住む人を 住み易くする 務(つとめ)こそ すべての人の 喜びとなる

続き(終)

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