千四百五十六 満点追及型と加点追及型
庚子(仏歴2563/64年、西暦2020、ヒジュラ歴1441/42年)
八月十二日(水)
世の中には、二種類の人間が存在する。満点追及型と、加点追及型だ。そのことを感じたのは、下の子が今年四月に就職したときだった。
下の子は教育学部卒で、小学校と中学英語の教員免許を持つ。高校英語は専門科目が足りないため、取得できないさうだ。英文科卒は中学英語と高校英語を取得できるから、少し異なる。
修士に進学してもいいよ、と言ったのだが、本人は就職を希望した。教員になるとばかり思ったが、民間会社に就職した。教員はいつでもなれる、と云ふのが本人の弁だった。
そのとき私は、人間には満点追及型と加点追及型があると思った。私は加点追及型だ。下の子も四年間に、その傾向が出てきたのだらう。とは云へ片方だけの人はゐない。例へば、満点追及型が30%に、加点追及型が70%などと両方の性質が共存する。仕事がうまく行くには、両方が必要だ。

八月十四日(金)
かつて富士通の専務取締役半導体事業本部長であり、私の勤務した富士通マイコンシステムズの兼務社長だった人が、「減点法ではなく、加点法で人事評価をしなくては駄目だ」と発言したことがあった。今から35年前だ。
そのとほりだが、少し意見の異なる部分を感じた。35年を経過しそれが何かを考へると、まづ半導体が昔は組織型だったのに、今は独創型ではないか、と思ひついた。しかし感じたのは35年前だから、これではない。
次に、満点追及型にも加点法が必要だ。減点を避けるだけだと、満点は取れない。加点追及型も、失敗対策や改善への姿勢が必要だ。私が到達点を述べたのに対し、兼務社長は人事評価法を話した。その差だった。

八月十五日(土)
昭和50年辺りまでは、サラリーマンが自家用車を買ふことは無理だった。自家用車を持つ人は、自営業者や中小零細企業の経営者ばかりだった。これらの経営者は、仕事で使ふ車のほかに、自家用車を持ってゐた。この当時は、満点追及型と加点追及型の、両方に活躍の機会があった。
状況が一変したのはプラザ合意だ。給与所得者は、収入が国際水準で2倍近くに跳ね上がった。これ以降は、ほとんどの産業が守りの体制に入ったから、満点追及型の世の中になった。
しかしインターネットの発達と新型コロナウィルス騒ぎで、世の中が大きく変化してゐる。プラザ合意から35年掛かった。こんなに掛かった理由は、労働者派遣法だ。派遣労働者にしわ寄せを押し付けることで、35年間帳尻を合はせ続けた。
もし労働者派遣法が無ければ、各企業は守りではなく、攻めに入った。天下の大悪法が、日本に失はれた30年間を呼んだ。

八月十六日(日)
上の子も、来年四月から動物病院に勤務する。これで肩の荷が降りた、と云ひたいところだが、獣医師はインターネットで調べると、五年以内に転職する人が多いらしい。専門の動物、専門の診療科を極めて、次は専門を生かせる病院に移るのかも知れないし、開業するのかも知れない。
今は設備が多くなったため、獣医師一人の病院は少ない。獣医師が三名以上、動物看護士も三名以上、受付が二名くらいのところが多い。
獣医師は、免許を取るまでが満点追求型、それ以降は加点追求型のやうだ。

八月十八日(火)
西洋式学校教育は、典型的な満点追及型だ。明治維新後に、西洋に追ひつけと設置した。しかし1990年辺りまでは、大学進学率がそれほど高くなく、個人経営や新規開業の比率も高かった。満点追及型と加点追及型の両方に活躍の機会があったことは、三日前に述べた。
日本の西洋式学校教育は、西洋の学校教育より悪い。猿真似は、元より悪くなるからだ。そして、そもそも西洋式学校教育は非西洋に合ってゐない。
そればかりか、西洋式学校教育は人類に合ってゐないのではないか。地球滅亡を目指して突進する癌細胞みたいな現代人類は、化石燃料の大量消費で帳簿を合はせただけだ。(終)

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