千百九十三 不動産投資塾を退会(スルガ銀行、自慢話セミナー、一部に良心欠如の会員)
平成三十戊戌
九月九日(日)
妻が不動産投資をやろうと云ひ始めたのは四年前だった。60歳になると収入が半分以下(一時金が無くなることを含めて)になるための対策だが、私は不動産投資に反対した。その理由は
1.不動産は値上がりと値下がりを繰り返し、今は値上がりしてゐるが、いづれ値下がりする。
2.子供が大学を卒業すれば、必要経費が少なくなる。
3.年を取ると、不動産のやうな複雑な内容(購入物件精査、購入手続き、税金、入居者募集、家賃、管理)は適さない。

この件を巡り、かなり激論が続いた。しかし損をしないやうに十分に注意して不動産投資に参入することになった。私は自分の意見を云ふが、それを押し付けるタイプではない。相手の意見も充分に聞き着地点を見つける。
妻は書籍を多数購入するやうになった。インターネットで定価以下の安売り本だが、100冊近く購入したと思ふ。そのうちの半分くらいは読むやう勧めるので、私も読んだ。読んだ感想として、不動産投資家は少し成功すると、コンサルタントと称したり、本を出したり、講演をしたがることで、妻と私で意見が一致した。
書籍を読むことを一年ほど続けたのちに、会費が月一万円強のある不動産投資塾に入会することになった。

九月九日(日)その二
この塾の塾長は、従業員2名の不動産会社を経営する傍ら、不動産投資塾の合同会社を運営し、会員のためによく尽力してくれた。塾長のほか非常勤(月に10時間弱)の男女の講師が1名づつゐて、男の講師は熱心でしかも正直な人だった。
女の講師は、かつてインターネットの不動産情報の会社に勤務したことがあり、そのセミナーは有益だった。しかし不動産以外のセミナーが多くなり、これが傲慢なので、退会の原因になった。
会員は不動産投資に役立つ内容を知りたいのであって、自慢話、特に毎月海外で豪華に生活する話には興味がない。私の半分くらいの年齢なのに、人生訓を長々と話すセミナーもあり、しかもインターネットで個人的に集めた客からは参加費を徴収した。最初から内容が判れば参加しないが、この講師のセミナーは題と内容の乖離が大きかった。
セミナーが終ったあとに、全員で「イェーイ」と叫びながらVサインを出す写真を撮ることもあった。2回目からは載りたくない人は横に待機できるやうになり、私は載らないほうを選択した。
ある会員は、臨時セミナーの講師を数回担当し、会社員を退職して専業家主になったあと、「イェーイ系はよくない」と言った。それが原因ではないと思ふが退会した。

九月十日(月)
この塾に入会する前に、何回か別の無料セミナーに参加したことがある。いつも疑問に思ふのは、儲かるならその会社が購入すればよいではないか、或いはセミナーの講師が個人で購入すればよいではないか。
それをやらず無料で集めたセミナー参加者に勧めるのは儲かるのは販売した会社だけだ。かぼちゃの馬車事件でそれが証明された。
あと、或る会社が地主にアパート建築をさかんに勧める。群馬県の小さな温泉と小さな娯楽施設が二つある農村地帯に行ったときに、そこの会社がアパートを建築中で、こんなところにも、と驚いたことがあった。ああ云ふことをすれば、その地主は大損害を受けるし、付近でアパートを細々と経営する人たちまで家賃の値崩れで大変なことになる。

九月十二日(水)
この塾は、競売物件が中心だった。競売のスタートアップセミナーが(1)から(3)まであり、これは堅実な内容で役立つ。私は五回ほど参加した。多くなった理由は、我が家と実家のどちらを売却するかでまづ時間が掛かった。次に実際に売り出してから買い手がつくまでに一年以上掛かった。休止期間も会費は払ひ、売却後にスタートアップセミナーを聞き直したためだった。男性の講師が担当で、これはよかった。
男性の講師はこれ以外にも、低額物件の競売検討会や路線価などのセミナーも毎月行ひ、これらもよかった。
それに反して女性の講師は、スルガ銀行の行員を講師に呼んで融資のセミナーなど題だけ目立つものばかりになった。スルガ銀行については「スルガる」と云ふ題を付けて開催したが、今となっては塾の汚点となった。尤も塾長の指導が適切なので、会員に返済不能となった人はゐないと思ひたい。
私がスルガ銀行に不審を持ったのは、金利がノンバンクより高いことだった。あと女性の講師が企画したセミナーは、有料のことがある。会員は会費を払ふからセミナーは無料が原則だ。ある会員のアパートを見に行くツアーが有料(交通費は別途負担)なのには唖然とした。
会員の中には自主的に賃貸物件を見せるツアーを企画する人もゐる。男性の講師の他にもう一人男性の講師が加はり、この方は競売で落札したビルの見学会を開いてくれた。もちろん無料だ。だからこの女性の有料セミナーは鼻についた。
あの女性は不動産への熱意が消えて、有料セミナーで儲けることばかり考へてゐると辛辣な感想を云ふ会員もゐた。

九月十四日(金)
首都圏では年利12%、それ以外では15%を目標に、競売不動産の落札価格を決める。築年数が新しい物件だと、転売目的の業者も参入するから、転売目的に負けるやうなら応札しない。
金利が1%の時代に12%や15%だから、ずいぶん高いが、これは経費や税金を控除してゐない。しかしそれより大きな問題点は、売る時も購入した価格と云ふ前提だ。買ふ時と売る時には経費や税金が掛かるから、値下がりがなくても買ふ時より安くなる。建物の経年劣化があるから、更に安くなる。一番大きいのは価格変動だ。それらを考慮してゐない。
だからといってここの塾が特殊なのではない。不動産投資者の間では、賃料を購入価格で割ったものを表面利率、経費を控除したものを実質利率と称し、表面利率を話題にする。
私が嫌だと思ふのは、オーナーチェンジ物件だ。安定した賃料が入るなら、わざわざ売る必要は無い。何か理由があるからオーナーチェンジに出す。中には、高い賃料で借りてもらって、売れたら賃借人は引っ越す筋書きを立てる人までゐる。
町の不動産屋やリフォーム業者とは親しくしても、不動産投資仲間には悪い人も多い。これが会員だったときの教訓だ。そのことは塾長も気付いた。だから、不動産を買ったときは地元の神社にお参りするやうにと、よく指導した。或いは、臨時セミナーの講師を務める会員は、塾長に云はれて毎朝出勤前に、自宅近くの吸い殻を集める。これはよいことだ。このやうな話を聞くので、私も三年間会員を続けることができた。

九月十五日(土)
塾のセミナーは最初、不動産会社の店内で行はれた。平日の夜と、土曜日曜の昼間はお客さんが来ないから、セミナーには最適だ。参加するため早めに店に行くと、会員が不動産について塾長と相談する内容が聞けるし、塾長が不動産会社の従業員に出す指示も聞けるし、塾長が今日はどこに行きこんな物件があったと話す雑談も聞ける。これらはためになった。あとReinsと云ふ不動産業者だけが使へる不動産売買情報を見ることができた。
余談だが、我が家を売ったあとの引っ越し先は、一軒家を購入して上の子が大学卒業まで住み、その後は実家に引っ越すとともに、購入した家は賃貸しようと考へた。そしてReinsで或る一軒家を見つけた。
塾長の不動産会社経由で購入してもよいが、当時の会員は競売以外を地元業者に頼む傾向があった。だから私も売主側の不動産屋に頼めば手数料が両方から入って喜ぶだらうと、その不動産屋に電話をした。
その物件は家が傾くのであきらめたが、せっかく縁ができたのだからと別の物件を云ふと、見つからないと云ふ。私はReinsの選択画面で一軒家だけではなく土地も選択する、と指示を出し、その人も「見つかりました」と云ふ。どちらが不動産屋か判らなかった。その担当者は信用ができるので、不動産塾の会員でReinsも使ふことを話してあるので問題はなかった。
この物件も難点があり、その後は方針を変更して自宅と賃貸対象は分けることになった。つまり自宅は賃貸のマンションを借りて、一方で賃貸物件を別に探すことにした。この業者は何件か案内してもらったので、マンションを借りるときはこの業者にお願ひした。業者にもきちんと儲けさせてあげることが大切だ。

九月十五日(土)その二
塾長の不動産会社は大きな金額の競売に参加するから、会員が数百万円の競売に参加しても競合しない。落札した場合は、落札した金額に対し通常の不動産取り引き手数料と同額(3%+6万円)を払ふ。
宇都宮地裁大田原支部の物件は、債務者の自宅で電機機器のからくりを見破り電源を切って上げた。塾長もこの物件はいいと太鼓判を押す。しかしどうもおばあちゃんの話に嘘が多い。低額を入れて落札したら儲け物と野村克也モード(野村が現役のときにラヂオ解説者が、野村は打てないと判断するとわざと空振りして、普通の打者より一つ上をやってゐると話した)でやって、空振りにした。
これは正解だった。その後もおばあちゃんから電話が何回もあり、毎回相談に乗ってあげた。しかし或る時、電話が二重に聴こえる。よく聞くと後ろで誰かが言った内容をおばあちゃんがしゃべる。私は違法なことは云はないから危なくはなかったが、嘘をつくおばあちゃんに不信感を持ち「警察に行くか、弁護士に相談してください」と言って電話を切った。

九月十六日(日)
Reinsはその後、使へなくなった。元会員の国家公務員が職場からアクセスし、公共機関からアクセスしたことがReins運営団体から問題になった。暫く使へなかった後にパスワードを変更したが、やはり元会員が使ふ。だれかが漏らすのだらう。
Reinsを使へなくなったことも退会の原因になった。せっかくセミナールームを作り、ここにはパソコンが5台あるのだから、Reins使用時間を平日夜2回、土曜昼間1回設ければよいのに、不動産への熱意が冷めた女性が部屋を管理するとそこまで思ひつかない。それより部屋の備品が無くなることが問題になった。或るセミナーに参加した人が帰りに感想を述べた、「みんなの目が死んでゐる」。
私のやうに3年間も在籍する会員は古参だ。店内でセミナーを開いた時代と比べて、会員層が大きく変はった。(終)

続く

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