千百二十七 1.警察は虚言女に振り回されてはいけない、2.宇都宮のライトレール、3.競売改善
平成三十戊戌
四月十八日(水)
私は一時、不動産の競売物件を調べに、関東一円だけではなく信州、甲州まで行ったことがある。昨年栃木県でよい物件があった。家が競売で土地は親名義。落札後に家の賃料を貰ひ、親を連帯保証人に土地を担保にすれば滞納があっても家賃を貰へないことはない。私自身は債務者の親から相談を受けて、市の消費者センターに相談しろ、警察署に相談しろ、弁護士に相談しろと、再三再四アドバイスした。
その後二回訪問したついでに、宇都宮の競売物件を幾つか見た。そのうちの一つは、家の呼び鈴を押し、出て来た人とにこやかに意見交換した。結論は競売参加取りやめだったが、債務者には引っ越し後に無事立ち直ってほしいと心から思った。
ところが道路に変な女が自動車の車内から「何やってゐるんだ」とか叫ぶから、宇都宮裁判所本庁の競売物件広報に載ってゐる物件の調査ですよ、とにこやかに言って物件情報の資料まで見せた。
宇都宮駅まで徒歩40分くらいなので出発時刻に合はせて歩くと、先ほどの女が私の横に車を低速に走らせて睨む。発車時刻があるから5分くらい車道を無視して歩道を歩き続けると、車はゐなくなった。ところが15分ほど歩くと車道にパトカーが止まってゐて、警察官が私に向かって名前や住所を訊く。
私は警察の日常の活動に心から敬意を表し、時間が無駄にならないやうきちんと答へた。家に行った理由を聞かれたからこれもきちんと答へたが、15分ほど待たされた。その間に雑談で費やしたから別に不満はない。ご苦労様ですといふ気持ちで、敬意を表して雑談した。
15分後に家の人に確認が取れました、と云ふことで別れた。隊員が駅の時刻に間に合ひますかと訊くから、普通の人なら駅までパトカーで送迎しろと文句を云ふところだが、宇都宮から先は電車の本数が多いことを知ってゐるから「大丈夫ですよ」とにこやかに別れた。これが黒磯駅だったら本数が少ないから、送迎しろと文句を言っただらう。
以上は別に何でもない話だ。勿論、警察に連絡した女は本来は許し難い。しかし競売で変な連中が多数押し寄せ、この物件は判りにくい場所だから他人の私有地に入り込んだのだらう。だから何とも思はなかった。ところがこれと似た話が先日、今回は都内でまたあった。社会をよくするために私も警察に協力してきたが、警察にも努力してもらはないといけない。と云ふことで今回の特集を組んだ。

四月二十日(金)
宇都宮の件は、警察の電話に家の人が出たから15分で解決した。もし電話に出なかったら、現場に行くなど1時間は掛かっただらう。その家は道路から玄関まで1m、塀があったとしても道路からよく見える。私は呼び鈴を押して家の人と数分話をした。それで1時間も足止めをされたらたまらない。
自動車の女は、一言二言話した内容から債務者とは無関係だと思ふ。おそらく近所の人で押し掛ける人に迷惑したのだらう。警察官とは雑談する仲になったので、別れる間際に「本来なら誣告罪ですよね」と軽く云ふと「まあ、そう云はずに。宇都宮は近所付き合ひが濃厚だから見知らぬ人に警戒したのでせう」と云ふことだったので、私もまったく気にしなかった。パトカー2台と警察官4名。警察も迷惑なことだらう。
雑談の中で「宇都宮は寂れることがなくよい都市ですね」と私が云ふと、地元の感覚は必ずしもさうではないみたいだった。帰り間際に警察官が「宇都宮を嫌いにならないでくださいね」と云ふので、それ以来も嫌いにはなってゐない。最近ではライトレール(新型路面電車で欧米の都市にはたくさん走ってゐる)を宇都宮に建設するさうで、私は現計画を変更しJR宇都宮駅から東武宇都宮駅まで延長すべきだと思ふくらいだ。
意志では宇都宮を嫌ひになることはなかったが、潜在意識ではそのとき冷めた心になったのだらう。昨年一月の駅構内図の旅を見ると(ここでは「めげて」と書いたが、駅の構内図を永久に掲示してくれるのならよいがいつかはページが廃止されると思ふ。そのときのため、文章で駅の構内を記録した。しかしこれは労力が要るので、篠ノ井の手前でめげた)拡大の一途だったが宇都宮、黒磯を中止した。

四月二十一日(土)
ここで宇都宮のライトレールについて説明すると、現在認可を受けたのはJR宇都宮駅の東口から工業団地までで、市の繁華街とは逆の方角だ。つまりライトレールは工業団地の通勤対策だ。
ライトレールの重要な役割に、道路沿線を自動車の占有物から市民の共有物に変へることがある。日本では大きな道路の両側が例へ繁華街だったとしても、道路自体は自動車の占有物だ。一方でヨーロッパのライトレールを観察すると、沿線は人通りが多く市民の共有物になってゐる。
宇都宮の場合、ライトレールの本来の意味から駅の西口に延伸させることは必須だが、現在は駅に直通するバスの乗客とバス会社の反対で、今回の認可は東口だけに留まった。だから西口側の全部を作るのではなく、東武宇都宮駅までを一期工事に含める。これならバス沿線住民もバス会社も反対はしない。

余談だが、今回は警察に関係する特集だから信号機に言及すると、路面電車が関はる昔の信号機は交通局の管轄だったと思ふ。その後、公安委員会に移管されたとしても、東京では昭和40年台まで電車の架線に検知器があり、電車の走行に合はせて信号が換はるのはその名残りではないだらうか。世田谷線は電車も信号に従ふ。少なくとも電車優先にしたほうがよい。一番よいのは踏切だが環状七号は青のときに進入した電車は発車まで青を続けるべきだ。

四月二十一日(土)その二
今回の特集は、虚言癖の女が警察を振り回す話なので予め説明しておくと、虚言癖の人間は女にも男にもゐる。しかし女は警察を振り回し、男は会社組織を混乱させる。
私は後者も二人遭遇した。一人目は海外勤務が長く国内でも外資系を渡り歩いた人で、私が24年前に1年弱勤務した会社で、その間に取引先3社、社内の人間6人とトラブルを起こした。この会社は10人の零細企業だが海外との取引が多いので私も入社し、ニュージーランド大使館の職員が製品の売り込みに来るくらい海外業務が得意だった。
それにしても10人中6人とトラブルを起こすなんて異常だ。そして6人目が私だった。それまで社長とも再三トラブルを起こし6人のうちに入ってゐたが、突然手の平を介して社長に接近し虚言を大量に並べ立てた。そのとき私はあることに気付いた。
時代劇で御家騒動を扱ったものは多い。この場合、両方が悪いのではなく、片方は本当のことを云ふのにもう一方が大量の嘘を並び立てるため、後世の人はどちらが正しいか判らなくなったのではないだらうか。虚言癖の人は皆から嫌はれるから、普通は歴史の表舞台には立てない。しかし斎藤道三のやうな独裁者ならあり得る。織田信長も佐久間信盛、信栄親子を追放したときのやり方からみて虚言癖なのだらう。短気が前面に出て虚言は目立たないが、一つの敵に対処するため別の敵には贈物でご機嫌を取るなど、やってきたことは虚言の連続だった。

四月二十一日(土)その三
二人目の虚言癖の男は、今の会社に入ってからだった。二十年前にある人が部長として突然入社し私の上司になった。この部長も外資系を渡り歩き、JETROの駐在員も勤めた英語堪能な人だった。一ヶ月ほどしてアメリカのソフト会社の社長が来日し大阪、東京を回る。来日寸前にこの部長は、国内の新幹線代はアメリカの会社に請求しろと云ふ。私はそれに反対したが、部長の言ひ分は日本でソフトが売れればアメリカの会社も儲かると云ふことだった。
今までアメリカとの交渉はこの人がやってきたのだから、この件も自分で云へばよいではないか。なぜ私に押し付けるのか判らなかったが、再三再四の問答の上で、部長が当社の社長に訊くことで決着した。この年は私の勤務する会社ではオーナー社長が会長になり、サラリーマン社長の時代だった。
アメリカ人社長が来日し私と新幹線で大阪に行った。ずっと英語で話し続けて、私が英語に自信を持ったのはこのときだった。大阪を無事に終へ、東京ビックサイトで日立グループと共同で展示するのだがソフトに不都合が見つかった。
ファイル名に日本語を使ふと正しく動かない。アメリカの社長とも相談し、展示会中はファイル名はアルファベットしか使はないことにした。ところが部長が、今まで使へたのだから解決しろと云ふ。私は展示会終了後の解決を主張したが、自説を曲げずあげくは私に向かって、部長命令だ、帰宅しろと云ふ。私はこの命令を無視して展示会が終るまで会場にゐたが、翌週の月曜朝に社長へメールで事情を説明した。
社長が云ふには、私の云ふことと部長の云ふことが正反対で、どちらが正しいか判らないと云ふ。私は本当のことしか云はないから、あの部長が嘘を並べたに違ひない。新幹線費用を日米どちらが負担するのかを、社長には相談してゐなかったことも判明した。あれほどどちらで持つか議論になったのに、結局は私の主張どほりだった。

四月二十六日(木)
競売には改善点がある。不動産が競売に掛けられたときに、敷地内、建物内の放置物は動産だから対象ではない。放置物で多いのはゴミだ。ゴミだからと云って勝手に処分はできない。水道管が隣地を経由する場合は、入札に参加する前に隣地の所有者との交渉が必要だ。これらが競売参加者を少なくする原因だ。参加者が多ければ落札金額が高くなり、債権者への配当が多いし、お金が余れば債務者に渡る。改善の余地が幾つもある。
或る地方裁判所執行官の話を聞く機会があった。執行官になってすぐに先輩執行官から防弾チョッキが必要だと云はれ用意したところ、そんな薄いものだと大きな短銃は弾が貫通してしまふと云はれた話や、警察署に警察官同行を依頼し、必要人数を訊かれて十一人と答へたところ、そんなには無理だと云はれた話など、興味深く聞くことができた。
なるほど執行官はあとは競売に掛けるしかない物件も扱ふのだと再認識した。その対策として、貸さぬも親切と云ふ言葉がある。任意売却できなくなるくらい多額の担保はつけてはいけない。負債で多いのは市民税の滞納だ。国税の滞納はほとんどない。それは低額所得者には国税が掛からないからだ。市民税も同じ配慮が必要だ。
執行官は任意売却をあまり快く思ってゐないとも感じた。裁判所の権限無く民間不動産会社がやっては、虚偽広告などあるかも知れない。しかし学ぶ点もある。
私は今までに入札は何回も参加したが、落札したことは一回もない。任意売却では二戸購入した。任意売却と同じ感覚の競売。これが理想だ。さうすれば入札参加者が勝手に市有地へ入ることも無くなる。

四月二十八日(土)
女と男の言ひ分が正反対の時に、警察官はともすれば女の言ひ分を信用しがちだ。これは財務省事務次官のセクハラと同じ原理かも知れないし、或いは我々だって美人とさうではない女が正反対のことを云ったら、最初は美人を信用しがちだ。
それとは別に、会社勤めの男には、面倒なことには関はりたくない心理もある。パトカーに止められ事情を訊かれたとする。何でもないことが判っても、会社の同僚にその光景を見られ、しかも次の課長を巡って別の人と争ってゐたとすると、課長昇進が不利になるだらう。
これは会社が悪い。もしそんな噂があるなら本人の言ひ分をきちんと聴くべきだ。ところがほとんどの会社はさうはしない。警察に改善の余地があるとすれば、この辺りの事情を知ることだ。(完)

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