千七十六 藤井聡さんの主張は、一ひねりすると多くの人に受け入れられる
平成三十戊戌
一月十五日(月)「デモクラシーの毒」
私は民主主義について二つのことを思ふ。(1)民主主義は民主主義ではなく多数決主義であり、これは少数派の切り捨てだからナチスのユダヤ人虐殺はまさに民主主義が原因だ。更に詳しく述べると民主主義は経済が順調のときしか機能しない。(2)今の世は民主主義が達成されてゐるから、それにも関はらず民主主義を叫ぶ人は欺瞞だ。
しかしだからと云って、民主主義は駄目だとする主張があるとすると、それには反対だ。そんななかで藤井さんの共著「デモクラシーの毒」を読んだ。
この本は対談集で、まづエリートが正しく大衆は扇動され間違ふといふ話が出て来る。それはそのとおりだが、だから大衆は間違ってゐると言ってしまふと、多くの人から受け入れられない。マスコミの責任、エリートの不十分な活動を指摘するとよい。エリートの不十分な活動とは、大衆に判り易く説明しない責任だ。

一月十六日(火)「維新改革の正体」
「維新改革の正体」は五年前の出版なので、今とは状況が異なる。藤井さんの主張も西部さんと出会ふ前か出会って間もないと思ふ。藤井さんはまづ
平成の日本人はとかく「維新」や「改革」が大好きだ。

で始まり、これらを批判する。藤井さんの主張は尤もで、改革で成功する確率は現状を維持して成功する確率より小さい。それなのに一時的とはいへ維新や改革に人気が集まるのは、プラザ合意とその後のバブル崩壊以降、景気の波を受ける人たちと、景気の波を受けない人たちの間に、格差を生じた。
そのことへの対策として一時的には維新や改革に人気が出るものの、結局は利側に影響を及ぼさない改革に変質し、具体的には秩序を破壊したり、藤井さんに関係する建設費の削減に向かってしまふ。そこを明らかにして主張すれば、維新や改革に反対する意見も人気が出る。

一月十七日(水)
一旦は改革の人気が出るものの失敗する。思へば戦後まもなくの社会党連立政権に始まり、美濃部革新都政、細川政権、鳩山政権。失敗は延々と続いた。
改革が失敗しそれに代替して保守が出てくる。ここで保守とは自民党ではない。自民党は利権であり守旧だ。お推大臣の場合、保守を掲げるからいったんは国民が注目してみたものの、結局はお友達利権だった。
改革が失敗する間、国民の生活は影響を受ける。だから改革が出てくる前に、反利権、反守旧の保守が出てくれれば、これが一番よい。

一月十八日(木)「大阪都構想が日本を破壊する」
大阪がすべきは東京に匹敵する関西圏の再構築であり、名称を都に変へることではない。私は予てさう思ってきた。「大阪都構想が日本を破壊する」を読むと、話はそれだけに留まらない。大阪市の予算が府に吸ひ上げられることと、大阪府の名称はそのままで都にはならないこと、大阪市を廃止しても二重構造はそのまま残り、一部は三重構造にさへなることも書かれてゐる。
なるほど大阪都構想が住民投票で否決されたのは当然だった。その前に堺市などが大阪都に反対した時点で惣堀が埋められてしまった。
新幹線については、私と藤井さんで意見が異なる。これは人類が完全に再生可能エネルギーだけで生活するやうになれば私と藤井さんで意見が一致するが、さうならない過渡期での意見の相違だ。
あと世界全体がさうならない限り、日本だけが縮小再生産をしても駄目で、さうなるまでは藤井さんの云ふやうに拡大再生産はやむを得ない。

一月二十日(土)『超インフラ論 地方が甦る「四大交流圏」構想』
高速道路と新幹線の建設で地方を興隆させる。まづ地方を興隆させることに100%賛成だ。そして高速道路と新幹線の建設でそれが可能なら、建設にも賛成だ。
本を読んだときはさう感じたが、数日後に別の考へが浮かんだ。新幹線を建設したからその沿線都市が繁栄したのではなく、繁栄した都市間に建設したからではないか。これは建設前と後の数値から判断できるから藤井さんの意見が正しいのだらう。
もう一つ、建設することにより、他の地域から人や産業が移動するのではないか。だとすれば新幹線はもっとたくさん建設する必要がある。ドイツやアメリカと比べて、日本は貧弱だ。高速道路やLRTも建設する必用がある。

一月二十日(土)その二「なぜ正直者は得をするのか」
私が資本主義より社会主義を好むのは、資本主義が「正直者が損をする世の中」だからだ。或いは昭和40年代と50年代前半は、日本社会党は社会主義(最左派はマルクス式社会主義、左派中間派は社会主義、右派は民主社会主義)、民社党は民主社会主義、公明党は新社会主義或いは人間性社会主義、と自民党以外のすべての野党が社会主義を掲げてゐたこともある。
その後、カンボジアのポルポト虐殺や、毛沢東の文化大革命失敗があり、社会主義も「正直者が損をする世の中」であることが明らかになった。
藤井さんは心理学、数学を用ゐて、なぜ正直者は得をするのかを解明した。名著と云ってもよい。一時は利己主義者が得をしても、そのやうな集団は最後に滅びる。
この理論は、私と藤井さんは最終目的は同じだが、一時的には私は自然保護、藤井さんは建設派で異なるやうに見えることと酷似する。或いは世界中が自然保護になったときは私と藤井さんは手段も一致するが、その途上では私も藤井さんの建設促進に賛成することと酷似する。
私は正直者が得をするのは、人類の本能であり、その手段として文化があり、文化を守ることが保守思想だと考へる。この本は九年前に出版され、ここでは西部さんの発言者塾のことも書かれてゐるから、藤井さんと西部さんの交流はかなり長いことが判る。
西部さんは、西洋の学術に従ってフランス革命に反対するのを保守思想としたが、フランス革命に反対するその心情こそ人類すべてが所有する保守思想ではないだらうか。(完)

前、(歴史の流れの復活を、その三百十八の一)へ (歴史の流れの復活を、その三百二十)へ

メニューへ戻る 前へ 次へ