千十四 刑事ドラマ批評
平成二十九丁酉年
七月二十九日(土)
最近はテレビを観ることがほとんどなくなった。そのやうな中で、刑事ドラマを比較的多く観るやうになった。これまでで一番気に入った作品は泉ピン子主演の「落としの鬼 刑事 澤千夏」と、中村梅雀主演の「ガンリキ 警部補鬼島弥一」。どちらも人情味のあるところがよい。そしてどちらも作品数が少ない。「落としの鬼 刑事 澤千夏」は2作、「ガンリキ 警部補鬼島弥一」は3作。
これらに次ぐのが片岡鶴太郎主演の「終着駅シリーズ」か。これも31作しかなく、しかも片岡鶴太郎が出演したのは第5作からだ。
刑事ドラマはテンポがよい。しかも番組の中に人情ドラマあり、職場のドラマあり、生活のドラマもある。
獣医学部卒の巡査が活躍するタイムリーな「警視庁いきもの係」の場合はコメディドラマもある。動物好き巡査と、元捜査1課の鬼刑事が繰り広げるトンチンカンな会話と、毎回コスプレと間違へられ、元歌のお兄さんの張り切った勤務、暇で顔を出す定年退職した刑事。出演者全員が面白い。
八月五日(土)
「落としの鬼 刑事 澤千夏」は第2作を地デジで観た後にインターネットを検索したものの、第1作はなかった。筋書きはあまりよいとは云へない。有名女性調理師の師匠の娘が、身分を隠してこの調理師のレストランに就職した。ここからして変だ。身分を明かして就職し、調理師が暖かく指導する筋書きにしてほしかった。筋書きが悪いのに、一番気に入ったドラマに入れたのは、主役を取り巻く人間関係の描写が優れるためだ。
「ガンリキ 警部補鬼島弥一」は第3作をテレビの地デジで見た後に(我が家はBSが映らない)、残りの2作をインターネットで観た。
一目でお父さんの中村梅之助そっくりで、中村梅之助主演の「花神」の演技ともそっくりだった。幾多の警視総監賞を乱雑にしまい込み、それでゐて監察官から期待され、妻を癌で亡くし、幾多の人間関係を盛り込んだドラマだ。
この二つが優れるのはシリーズの作品数が少ないことが挙げられる。数が多いと、不出来の作品が出て来るし、全体の平均も下がる。
八月十二日(土)
刑事ドラマでは「相棒」が有名だ。平成十二年(2000)六月から翌年の十一月まで、単発で三回放送された。高視聴率だったため平成十四年(2002)に三か月間毎週、12話に亘り放送された。12話のうち私の観たのは最近で四つくらいだが、この第1シーズン(連続放送された3ヶ月なり6ヶ月をこの番組ではシーズンと称する)が最も良かった。
第1シーズンが始まる前の3つは、多少下品な内容があったりして家族で観るにはやや不適切な感じがした。多少下品と云っても三作全体で1分か2分だから、目くじらを立てる必要はないのだが。
第1シーズンの最終回は「特命係、最後の事件」と題が付いたが、翌年10月に第2シーズンが始まった。主人公は警視庁を退職後にかつて留学したロンドンに滞在し、ここで事件を解決し警視庁に復帰することになる。第2シーズンはここからして変だ。朝日新聞船橋洋一の英語公用語騒動の余韻が残った時代のことなので、留学するものが偉いと云ふ意識を広める意図があったのではないのか。その延長線上に十四年後の自民党細田派某議員による絶叫暴行事件がある。
主人公の相棒は第7シーズンまで 寺脇康文が演じる亀山薫で、この頃は主人公のロンドン留学を例外に、それ以外はよかった。その後の相棒は、警視がスパイとして警部補になって配属されたり、警察庁次長の息子が配属されたり、そして今は法務省から出向で来てその後天下った人間と、話が変になった。
主人公も、刑事コロンボの真似みたいなセリフを言ったり、淡々と逮捕すればよい種の犯罪なのに犯人に向かって激怒の言葉を吐いたり、長編シリーズの弊害が現れた感がする。(完)
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