36、人類滅亡
平成十六年十一月廿一日



今年のGDPは何%成長するといった予想が毎年世界で繰り返される。毎年成長していってこの先どこまで伸びるのだろうと誰もが疑問に感じるはずである。人類が永続可能なのはプラスの年とマイナスの年があったとしても平均すると零になるときである。 人類が第二の恐竜となり滅亡することはもはや確実である。


1 未来と過去のユートピア
西部邁氏と小林よしのり氏は著書「アホ腰抜けビョーキの親米保守」のなかで次のように語っている。
小林氏がまず、保守主義は社会主義の一種なのではないか、伝統は個人のものというよりは社会のものだから、と述べると西部氏も、社会主義は前向きに理想主義を作ろうとして強制収容所のような逆ユートピアを作り出してしまったが、保守主義は失われた過去をユートピアと認識した上で再興に努力する、と語る。
小林氏が、社会主義にも発生の根源にはそれと似た理想があった、ソーシャリズムはソサエティつまり社会の安定を欲して生まれコミュニズムにもコミュニティつまり共同体の復活を願うところがあった、と述べると西部氏も、資本主義と帝国主義は自国のみならず他国のものを含めて社会や共同体を打ち壊していくという認識が保守思想にはある、と語っている。


2 人類は滅びる
資本主義は今や社会や共同体を打ち壊していくのみならず人類を滅ぼそうとしている。 東大名誉教授馬場宏二氏は著書「新資本主義論」で、資本主義の成長が平均で年2.5%、1世紀で12倍、2世紀で140倍、1000年後には600億倍に達することを明らかにしている。
馬場氏は更に次のように述べている。恐竜は1億年生きて大流星の落下による天変地異で絶滅したが、人類は長く言って500万年生きただけで200年ほどの資本主義の果てに自滅しようという仕儀なのである、自滅を防ぐには先進国の過剰富裕社会を解消しそれには1人あたりGDPが5000ドル(1982年)、日本の体験に照らせば石油ショックのころの水準だからそう暮し難くもない。

3 文化的虚無の原因
馬場氏は文化的虚無の原因についても次のように述べる。
資本の利潤追求に促された生産技術の大発展と技術発展が誘導した自然科学の急進展があり自然科学は神のような地位を得た、だが各種の文化は安定性と持続性を失い目の先の変化のみを追い続けるようになった、文化的には虚無の社会で公認された私利追求がいわば唯一の道徳的価値になる。
「新資本主義論」の最後の6ページ、即ち339ページから344ページは全人類に対する貴重な提言である。馬場氏は次のように述べる。

教育危機とは世代間の断絶に由来する文化伝承の困難のことである、経済成長や技術革新が余りに速く進めば世代間で幼児体験が全く異なるものになり社会を維持安定させる文化継承はできなくなる、しかも過剰富裕状態は子供に社会性や道徳や規律を教え込む機会を消滅させる。

刹那型思考とは人々がやや広い社会関係やわずか先の未来にさえ関心を失うことである、自分の享楽が後の世代の生存を脅かすなどとは考えなくなる。

価値相対主義はすべての使用価値が貨幣量に還元される資本主義では絶えず発生する、行き着く先は本来全く明白な是非善悪の基準にも無関心で社会はおろか自らの危機さえ正確に認識出来ない人口の増加である。

社会規律・道徳・文化の類は社会を維持安定させる装置なのだが過剰富裕化によって衰弱し摩耗しつつある。

4 Mヴェーバと資本主義
Mヴェーバは、プロテスタントの倫理が資本主義を生んだと主張したが、その一方で資本主義精神の人々は今日では宗教には反対ではないにせよ無関心な態度を取っている、宗教改革の文化的影響の多くは予期されないしかも意図されない結果である、営利の最も自由な地方であるアメリカ合衆国では宗教的倫理的意味をとり去られ単に競争的な感情に結びつき精神のない専門家と感性のない享楽人を生む、と述べている。

資本主義がキリスト教やプロテスタントの精神とは異質のものであることが判る。
馬場氏はトーニーの言葉を引用し、経済行為や社会組織は宗教の与り知らぬ領域だとキリスト教が手を引いたことが資本主義成立の重要な一条件だったと述べている。

宗教より社会規律・道徳・文化のほうが力を持つ。宗教を新規に信じた人は別にして、通常は親、社会からの影響で宗教を信じるからである。宗教改革の結果、従来の社会規律・道徳・文化が崩壊したと考えると、ヴェーバもトーニーも馬場氏も意図するところは同じである。

5 馬場宏二氏
私が馬場宏二氏の名前を知ったのは1週間前である。「資本主義はどこに行くのか」という共著を偶然見つけ、そこで馬場氏が次のように主張されていたからである。
地球人類の存続を真面目に考えるなら、先進諸国は経済成長を止め生活水準を今の三分の一程度に下げねばならない、そうなってもまだ過剰富裕水準は超えており社会政策を保てば餓死など出ない、到達目標をここまで下げた上で途上諸国に向かって人類の存続のために人口増加を抑制し開発もこの水準までに抑えてくれと要請するしかない。

馬場氏は経済学者で専門はマルクスである。第2次世界大戦が専門の歴史学者を軍国主義者と呼ぶのは正しくないし、ヒトラーが専門の政治学者をナチスと呼ぶのも間違っている。同様にマルクスが専門の経済学者を偏見の目で見ることは間違いである。
まず中国や北朝鮮との外交交渉にマルクス経済学者は活用できる。相手に対しマルクスの学説との違いを述べたり、提言することもできる。資本主義が確実に人類滅亡へ向かっている以上、資本主義を改良するためにも貴重である。馬場氏は日本が世界に誇る貴重な頭脳だと言っても過言ではない。


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