35、音を聞き文字を読む
平成十六年十月廿四日



以前、英語堪能者に性格の悪い人が多いと主張したことがあった。あまりにきつい表現なので何とか柔らかくならないか考えたこともある。当時、NHKテレビ英会話の講師は鳥飼玖美子さんで、鳥飼さんのように性格の良い人もいるが、と一言付け加えようかと思ったくらいである。結局付け加えなかったが、このようなきつい表現を用いざるを得ないほど当時は英語ゴリ押し派がひどかった。英語公用語が飛び出したのはこの頃である。

鳥飼さんの名はテレビ英会話で始めて知ったが、性格の良さが言葉や表情に現れていた。その後10年経ち私の目に狂いはなかった。鳥飼さんは小学校の英語に反対する書籍を出版されていたのである。

もう一人、ラジオのビジネス英会話講師の杉田敏さんにも好感が持てる。今から10年くらい前に同番組でゲストのアメリカ人と、管理職が若い人を育てるのは日本企業の美風だ、と誉めていたことを覚えている。


1 小学生に英語はいらない
大津由紀雄さん、鳥飼玖美子さん共著『小学生でなぜ英語?』では、ユネスコの国際教育が「文化の多様性の確保、文化多元主義の促進、異文化間の対話」を目指すのに対し、日本の国際理解教育が英語を「歌、ゲーム、クイズ、ごっこ遊び」などをとおして教える、に変質していることを指摘している。

もう一冊紹介しよう。茂木弘道さんはアメリカで英語の本を出版する国際人だが『小学校から英語という愚行』の中で、今ごろ国際理解即英語という時代遅れの考えも問題ですが、と述べている。

2 目的のない教育の行く末
教育基本法という法律がある。この法律の前文と第1条はよくない。口先、建前、無責任な社会を作る根源でもある。「人格の完成をめざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成」に違反した卒業生が1割を越えた場合に文部科学大臣や教師は責任を取るのか。

その教育基本法にさえ違反しているのが、今の日本の教育である。日本の教育が目指すは前記の目的ではなく、受験勉強と落ちこぼれだけである。そのことは生徒自身が一番判っている。だから受験勉強だけを繰り返した無目的受験技術優等生と大量の落ちこぼれを生んだのである。教育関係者もそのことは判っている。だから対策としてゆとり教育が出てきたのだが、若者を暇にさせるとろくなことはない。若者は健全に遊ぶか勉強するか家業を手伝うか、常にどれかをさせておかなくてはならない。

目的のない教育もろくなことはない。ついに授業時間を埋めるために小学生の英会話まで出てきた。教育の目的とは、先祖が築いた文化を子孫に継承するに他ならない。

3 日本の教育は死んだ
今年の入社試験では、私も面接を担当した。電子工学の学生にテレビ受像機の原理を質問すれば答えられないし、電気の学生に力率を聞くと答えられない。得意科目は何かと聞くと微積分だという。事実、履歴書にもそのように書かれているし、大学の成績証明書も微積分は優である。それでは微分とは何かと質問すると、上のものが前に、と言いながら両手を上から前に動かす仕草をさかんにしている。Xの二乗が2Xになるということを言いたいらしい。それでは高校の初歩レベルである。更に問題なのは2が前に出るという簡単なことをなぜジェスチャーまでして言わなければなければならないのか。外国語で説明しろと言っているのではない。 今の学生は基礎学力、特に国語力が致命的に劣っている。

4 学校は基礎学力を
学校、特に小学校に求められるものは基礎学力である。富山市の小学校の校長杉田久信氏は『基礎学力はこうしてつける』で、読み書き計算が日本人のよき特性(勤勉、知性、忍耐)を支えていた、「できる」を「わかる」より先にする、と語っている。同著書では脳科学の川島隆太氏の、読み書き計算の基礎的な学習を十分行うことが思考を司っている大脳の前頭前野を最も活性化させ考える力も創造性も伸ばす、荒れるキレる子は前頭前野が未発達であり読み書き計算は効果的である、という言葉も紹介している。

5 日本文化に根差した学問を(1)
川島隆太氏は『子どもを賢くする脳の鍛え方』で、昔の日本の伝統的社会がもっていたものを再考する意義がある、第二次世界大戦前の日本の社会はゆったりといろいろなことを選択した上で実践していたが戦後は私たちがついていける早さを越えて社会が変動してしまい、それに適応できないでいるのが今のわれわれ日本人の状況なのではないかと思います、と語っている。


6 日本文化に根差した学問を(2)
日本文化に根差した学者には藤原正彦氏もいる。『祖国と国語』136頁から139頁に、ナショナリズムは他国を押しのけてでも自国の国益を追求する姿勢、私はこれを国益主義と表現する、ペイトリオティズムは祖国の文化、伝統、歴史、自然などに誇りをもちそれらをこよなく愛する精神である、私はこれを祖国愛と表現する、「あなたはペイトリオティストですか」と英米人に尋ねたら怪訝な顔をされるかどなられるだろう、「あなたは正直者ですか」と尋ねるようなものだからである。

藤原正彦氏といえば思い出がある。昔、毎日新聞社の記者新卒採用を受けようと思い願書を取り寄せた。愛読書という欄があったので藤原ていさんの『流れる星は生きている』を書いた。藤原さんが内地に引き上げるときに連れていた2歳の子が藤原正彦氏である。ちなみに毎日新聞社のほうは、私の親が技術職にしろというので願書は出したが受験はしなかった。惜しいことをした。合格不合格、行く行かないはともかく、受験だけはしておくべきだった。

7 大学共通試験の英語聴き取り試験は亡国行為である
英語の聴き取り能力は知能には関係ない。専ら練習時間だけで決まる。鼻くそを丸めて直径5mmにする能力を試験するのと同じである。そもそも大学はそれぞれの持ち味を出すべきである。東北大学は東北文化の発展や福島県や仙台を含む宮城県南部でのアクセントの禁止を願う人を合格させればいいし、立教大学は信仰心の厚い人を合格させるべきである。英語の聴き取りを重視する大学が国内にあってもいいが、共通試験でやるべきものではない。行きつく先は亡国である。いったい誰が言い始めたのだろうか。 売国奴なのか英会話学校から政治献金をもらったのか英語コンプレックスの固まりなのか。こんな馬鹿げたことは即刻中止すべきである。

8 永年の経験
日本人は永い経験から、英語は読み書きに徹し、時間の無駄となる聴き取りは社会人になってから行ってきたのである。これは正しい選択である。前述の茂木弘道氏も英会話重視の姿勢について、そんなことで上手くなるくらいなら昔からやっている、英語の先生は馬鹿ばかり揃っているわけではなく皆それなりの見識を持っているわけです、と述べている。またTOEFLの成績についても、日本韓国中国を比べ日本が弱いのは聴き取りではなく文法作文、読解であることを明らかにしている。
国名聴き取り文法作文読解合計
日本505050150
韓国505254156
中国535757167


9 脳科学と教育
読み書きや計算が重要なのは、脳を活性化するという研究結果があるからであってはならない。昔から読み書き算盤と言われ、事実それが良い結果を出してきたからである。 脳科学は痴呆症の治療など重要であるが、教育の分野に持ち込むのは慎重にすべきである。人類は先祖より頭がよくなる必要はない。先祖と同じ頭を子孫に伝えるべきである。

10 音を聞き、文字を読む
日本人や中国人が文字を読むときと欧米人が文字を読むときに使う大脳の位置は異なるという記事を最近読んだ。その理由として漢字は表意文字、アルファベットは表音文字だからだそうである。 おそらく日中でも音と訓のある日本人と発音が一定の中国人では微妙に違うはずである。日本語でも旧仮名遣いと戦後の仮名遣いでは微妙に異なるはずである。

日本人と欧米人は虫の音を聞く位置が異なることは以前から言われている。 日本人は小学校でまず日本音楽を勉強すべきである。大人になって歌舞伎や能を理解できるようにすべきである。その後、西洋音楽を教えるべきである。

文字について言えば、古典といわれるものを小学生のうちから音読すべきである。本来は旧仮名遣いが望ましいが戦後仮名遣いでもよい。戦後の文章は軽薄なものが多い。ああいうものばかり読んでいると、将来朝日新聞社くらいしか就職先はないであろう。あそこは駄文記事が書けないと駄目なので、なんて毒づく必要もない。小学校高学年のころ、家では朝日新聞と毎日新聞を交互に購読していたが、朝日のほうが優れていると子供ながら感じた。毎日新聞のほうが外来語が多かったからである。残念なことに今の朝日にはこの美風は見られない。

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