八百九十三 1.現役と引退、2.課員と管理職

平成二十八年丙申
十月二十日(木)
最近当ホームページでは、講演者の話し方について論評することがほとんど無くなった。その理由は今年の三月で授業が終了して、それ以降大勢の前で話す機会が無くなった。毎週大勢の前で話をしてゐると、他人の講演についてもいろいろ気が付く。しかし引退すると他人を批評しようとしなくなる。話し方も下手になる。しかしこれまでの経験では下手になっても話を始めれば一か月で回復する。

十月二十一日(金)
現役引退で思ひ出すのは、昔の管理職は現役を引退した。専ら課員への仕事の割り振りと監督と他部門との調整だけを行った。これは一つの課に社員が十人以上属した時代の話だ。
プレイングマネージャといふ和製英語を始めて見たのは昭和四十五年にプロ野球南海ホークスの野村が選手現役で監督になったときだった。競技に使ふ単語で、会社で使ふとはまったく思はなかった。今プレイングマネージャで検索すると、会社のプレイングマネージャについてたくさん出てくる。

十月二十二日(土)
中小企業は昔から別で、課長が実務をこなすのも普通だった。しかしこれは課が仕事を課員に割り振る、つまり課長が課員の仕事を把握してゐる場合にのみ有効だ。本来はこれが正しい。

十月二十四日(月)
営業課の場合課長が、顧客のxx会社は契約前だからxxさん行ってくれ、と指示するなら他の部門と変はらない。しかし営業個人に売上高を割り振る会社が多い。このやうな形態のとき課長は実務をこなしてはいけない。なぜなら課員と売上高を競争してしまふからだ。課長の任務は課員の売り上げを上げることだが、課員より自分の売り上げを多くすることに専念してしまふ。

十月二十五日(火)
新しい制度が導入されると必ず問題点が出てくる。経営側に都合の良い部分だけを導入するからだ。シロアリ民進党とニセ労組シロアリ連合の消費税増税騒動はその典型だ。成果主義が声高に叫ばれたのは今から二十五年くらい前だ。この場合、課長が課員とその仕事内容を把握し、その上で評価するならよいことだ。と云ふか従来もその仕組みの筈だったからことさら成果主義なんて云ふ必要はなかった。
ところが数字を無理やり割り当てて、その数字で評価するから大変なことになった。営業はそれぞれ顧客を割り当てられその数字で評価されるから、売上高の少ない営業はどんどん転職するやうになった。課長は下手に指導するとその課員の数字について責任を持たされるから何も指導しなくなった。そもそもこのころからプレイングマネージャーとして自分も数字を持つやうになったから課員より数字を上げることに必死になった。課長としての役割は売り上げを毎月集計し、今月は多いだの少ないだのを云ふだけになった。表計算ソフトを用いれば瞬時にできる内容だ。

十月二十八日(金)
その課の業務に精通しない人は、課長になってはいけない。課長は課員のなかから昇進させるべきだ。優秀な人が複数いる場合は一人を残して残りは別の課で精通させて昇進させるべきだ。
他の産業から引き抜いて社長にすることが、アメリカではときどきある。それでうまく行くこともある。日本ではダイエーが経営危機に陥ったとき、味の素の前社長鳥羽董さんを社長に迎へた。私は鳥羽さんがどう云ふ人なのか知らないしどんな顔かも知らなかった。しかしその翌年創業者と不仲になり辞任したニュースを見たとき、鳥羽さんが正しくこれでタイエーは駄目になると思った。債務額が大きすぎて鳥羽さんの思ひ切った売却路線に創業者が反発しただと報道されからだ。今回インターネットで調べると飛ばしの子会社のインサイダー取引が問題になったとある。そんなことを後になって大きく書くこと自体、鳥羽氏が正しかったことを物語る。
名経営者が僅かだが存在する。しかしその数は少ないから、他の産業の人間がやってきてうまく行くことは稀だ。業種も同じで、他の課の人間がやってきてうまく行くことはほとんどない。最近読んだ記事で、課のことが判らない人が課長になると課員の残業が増えるといふものがあった。

十月三十日(日)
バブル経済の前まで、担当部長などラインから外れた役職は存在しなかった。会社により異なるが富士通の場合、担当部長や技師長と云った役職はなかった。代はりに本部長付、事業部長付、部長付、調査役がゐて、本部長付は事業部長と同格、事業部長付は部長と同格だったが、ゐたとしても1名でラインから外れたと云ふほどではなかった。
このころは技能職の比重がまだ高く、技能職は最高位が職長で、その上に工師ができてこれは事務技術職の主事補や技師補と同格で、これは課長や調査役の一つ下の職位だった。つまり多くの社員は管理職になることなく定年を迎へた。事務技術職もむやみにラインから外れた役職を作ることはしなかった。

プラザ合意の円高により、技能職が激減した。その後のバブル経済で事務技術職の役職が増大した。会社により異なるが担当部長、専門部長、部付部長などが現れた。かうなると管理職は実務を担当せざるを得なくなる。管理職にならず定年を迎へるのが一般だったのに、すべての社員が出世競争に巻き込まれ、長時間残業や過労死、うつ病、自殺者まで出るやうになった。長時間残業を止めろと言ってみたところで、出世競争がある限りなくならない。(完)


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