八百八十六(その一) 国内のパソコンシェアを考へる、富士通はレノボに売却してよいのか

平成二十八年丙申
十月七日(金) レノボへ売却のニュース
昨日、富士通のパソコン事業をレノボに売却するといふニュースが流れた。私は富士通のパソコンについて、昭和六十(1985)年に半導体から電算部門に移管された以降は興味がない。今年の二月に富士通のパソコン部門が子会社に移ったことも、今回のニュースで初めて知った。
それにも関はらずこの問題を取り上げるのは、パソコンの国内シェアが、レノボNECグループが26.3%、富士通が16.7%。両方合はせれば43.0%になる。対して国内メーカは東芝が12.3%、パナソニックが2.7%、VAIOが1.8%、セイコーエプソンが1.4%。
富士通がレノボ入りすると国内メーカーは18.2%になってしまふ。そのことは一向に構はない。しかしソニーから独立したVAIOには新しい国内製造業モデルとして大きな期待が寄せられ、今回黒字になったのに、それを妨害してよいのか。

十月九日(日) VAIO
VAIOの営業が私の職場を訪問したことがある。当時は私がパソコンを発注することもあった。しかしVAIOから電話が掛かって来たときに、購入の見込みは少ないからと断ったのだが是非と云ふので、来てもらった。VAIOの製品はグラフィックに優れることが判った。しかし私の勤務する会社の場合、選択基準は価格、CPU、メモリの容量だ。VAIOの人はハードウェア営業だからソフトウェア会社の内情に詳しくないのかも知れない。ソフトウエア会社でもゲームソフトやホームページ作成を行ってゐるところは購入の可能性がある、当社のやうに業務用ソフトウェアを受託開発するところは、グラフィックが高性能なことより、価格を重視することを説明した。
VAIOがソニーから分離されてからまだ日が浅い時期だった。せっかく来ていただいたのだから、その分の価値がある情報をお伝へできたか。そのやうに考へた。そのVAIOが黒字になったと喜ぶのも束の間で、富士通がレノボに移ると云ふ。

十月十日(月) 製造部門
新聞の記事を読むと、富士通のパソコンは、デスクトップとサーバが福島県伊達市保原町の富士通アイソテック、ノートパソコンが島根県出雲市の島根富士通で製造してゐるさうだ。富士通アイソテックは以前は黒沢通信工業と云って富士通とクロサワの合弁会社だった。私が今の会社で名刺交換した人の中にクロサワの人がゐた。その人が今から十五年くらい前に富士通グループを早期退職して今の会社に転職してきて驚いたことがある。
富士通がパソコン事業をレノボに売却するのは製造部門の雇用を守る理由もあるやうだ。富士通アイソテックはプリンタが主力製品だから影響は少ないかも知れない。
島根富士通は今年二月にパソコン事業が独立した子会社が100%株を持つから、雇用を保つためにはレノボ入りするのがよいのかも知れない。島根富士通のホームページを見ると従業員602名、創業二十六年。プラザ合意後の工場建設だから自動化が進み採算性も万全で、出雲市の出雲ブランド商品にもなった。地域復興の模範企業だ。
それに比べて今年二月に富士通のパソコン事業を分社化した会社はよくない。ホームページを見ると社長挨拶に「私たちは、これらの領域における、現在から未来に至るお客様への貢献を、より一層強固なものとすべく、今回、新会社としてスタートいたしました。」とあるが白々しい。勿論レノボ入りした後の決意なら立派だ。それより従業員数と電話番号を公表してゐない。住所は富士通川崎工場のある場所だ。ペーパー会社ではないかと疑ひたくなる。

十月十一日(火) 同じ仕事が永続する地球に
農業は同じ土地で先祖代々営むことが普通だ。職人や商店も同じ場所で一生営むのが普通だ。ところが工業製品は十年で大きく変はってしまふ。よく先端商品とコモディティといふ分け方をする。コモディティをいつまでも製造できる世の中が普通だ。常に最新技術を開発して何になる。地球滅亡を早めるだけだ。日本はアジアの一員として、そのやうな主張をして、西洋野蛮人どもの始めた産業革命以降の蛮行を停止させるべきだ。これは長期計画だ。
先端商品だけが高付加価値ではない。使ひやすさ、ある性能に優れる、営業が親切だ。これらも立派な高付加価値要因だ。VAIOはグラフィックなどに特化した。富士通はシェアに特化した。これらは中期計画だ。このやうに考へると、どちらも同じ道なのかと思ふ。(完)


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