八百三十七(丁) 草津熱帯圏訪問記

平成二十八年丙申
七月十日(日)
草津熱帯圏は職員が熱心だ。開園少し前に到着したのに切符の購入と入園をすることができた。入口、売店、レストランを兼ねた建物でエリマキトカゲの解説とワニの剥製を見た。蝶の標本もあり、昆虫館と呼ぶらしい。外に出るとサル山がある。そして熱帯ドームに入った。
かつてここにゐた蛇が我が家にゐるといふことで、年配の方と若い飼育員の方にお話を伺った。コーンスネークは現在熱帯圏にはゐないさうだ。私が「コーンスネークはありふれてますからね」と相槌を打つと、たまたまゐないだけで動物園だから何でも飼ふさうだ。ドームには爬虫類だけではなく哺乳類、鳥類などかなりの種類がゐる。
予めインターネットで調べたが、昭和四十五年に開園。日本で一番標高の高い動物園。温泉で暖房。約250種1000頭の動物を飼育。ドームにはワニ池、フラミンゴ池、爬虫類ゾーン、哺乳類ゾーン、両生類ゾーン、ワニガメ池、サイチョウ舎、サル舎、キツネザル舎、オニオオハシ舎、コンゴウインコ舎、インコ舎、鳥類舎、アリクイ舎、ワウワウテナガザル舎があるさうだ。キツネザルが印象に残った。 ドームの外にはウサギのふれあいコーナー、ウサギ舎、 ニホンザル舎、サル山、ラマ舎、ハクビシン舎があるさうだ。
日本サルの赤ちゃんが人間の手で育てられると群れに戻れなくなるらしい。サル舎にはさういふサルが一頭ゐた。

七月十日(日)その二 親会社の倒産
別の書き込みを見つけた。2009年中沢ヴィレッジが倒産し、あやうく競売に掛けられるところだったが園長が買い戻し存続できた。
もう一つ別の書き込みを見つけた。それによると草津熱帯園ではなく草津熱帯圏ださうだ。最初の経営者は園長さんで、資金難で中沢グループに移転。その中沢グループが倒産した。といふことで再び園長が買ひ戻し経営することになった。

古いホームページが残ってゐて、それによるとモンキーパラダイスの裏に昆虫館、両生類館、植物館があるが、これらは老朽化で今は展示してゐないようだ。「中沢ヴィレッジグループの各施設のホームページは「グループ企業リンク」をクリックして下さい。」とある。その下は「高さ15メートルのドームの中は多種多様な動植物が生息するトロピカル・ジャングル」といふ時が右から左にゆっくり流れる。18 2005とあるから十年前のページらしい。
ドームをクリックすると「国内初のふ化・ワニ誕生「希少種」ガビアルモドキの赤ちゃんが9月8日に誕生しました。誕生時の体長は32センチ、11月13日現在で体長41センチに成長しています。10年で3〜5メートルに達すると言われています。」「まっすぐに立ち上がるのが得意なミーアキャット、世界最小クラスの猿ピグミーマーモセットから家族集団で生活するコモンマーモセットなど珍しい動物が大集合!」「草津熱帯圏のジャングルドームは、温泉熱を利用した亜熱帯のエリア、そこに生息する様々な珍しい動植物を是非ご覧下さい。」「ドームの高さは15メートル、3階層にわけられたゾーンはすべて亜熱帯です。」とある。

七月十日(日)その三 今のホームページ
今のホームページには飼育員のブログがある。その昨年三月分に次の書き込みがあった。
3月いっぱいで熱帯圏の獣医さんが退職することとなりました。
動物達の治療はもちろんのこと、鳥類や水槽の管理など飼育員の作業も手伝っていただきました。
また、時にはヘビのふれあいも行ってもらっていたので、お客さんの中にもお世話になった方がいるのではないでしょうか??
テレビ撮影でアニマル浜口さん家族にヘビを触らせている獣医さん(右)
きっと治療を受けた動物達も感謝していることと思います(^^)
約3年間の勤務お疲れ様でした。


七月十日(日)その四 死にさうなサル
熱帯ドームを出た後で、サル山を左側から見てゐると、五人ほどの年配の観客が来て、餌を購入(100円)しサルにやりながら、死んぢゃふかも知れないねと話してゐた。私はサル山を覗き込んだがそのやうなサルはゐない。暫くして団体は、人間が入ったら二度と出られない熱帯ドーム(といふのは冗談で私は出てきた)へ移動したので正面に移って下を見た。朝降った雨の水溜りが5cmくらいある。そこにサルが横たわる。私は目を剥いて驚いた。5分くらい見ても変はらないので、サルが死んだと判断した。飼育員に連絡しなくてはと思ったとき、子ザルが横たわったサルを掛け登った。その瞬間、横たわったサルが起き上がった。大人のサルが来て頭の毛を掴み上げながら具合を見た。そのサルはそのまま元気になった。頭の毛を掴んだサルは群れの医者なのだらう。横たはったときは無視したのに起きたらやって来た。
ここで重大なことに二つ気付いた。上野動物園のサルは皆元気がよい。これは病気のサルを隔離するからだ。草津熱帯圏は獣医がゐないから自然のままだ。しかしこれが普通だ。野生の群れには病気のサルがゐる。元気なサルばかりを展示する動物園こそが不自然だ。次に思ったのは経営が大変なのと獣医がゐないから元気のないサルが放置されるのだらうと。しかしブログで昨年まで獣医がゐた。やはり元気のないサルは必ずゐる。しかもそれを診るサルもゐる。自然の営みが大事だ。それに気付く草津熱帯圏は貴重な展示施設だ。

七月十二日(火) シナジー効果
インターネットを検索したら、匿名サイトでおもしろい書き込みを見つけた。
(1)企画、運営を旭川動物園に委託し再開発に挑戦せよ。必ず明るい将来があると思う。
温泉を見方にすることだ。例えば園内に露天風呂を造り温泉に入りながら動物の生態を観覧させる施設を造る。

これに対してコメントもある。
(2)旭山動物園のあのブームは、
メディアの扇動や、観光資源が欲しい旅行業界の思惑などが絡まって、実現したもの

同時期、エンリッチメントの流れで、展示を工夫した園館は少なくなかったが、
その中で旭山だけが脚光を浴び、勝ち組となった
その旭山ですから、そんなに大儲けというほどの利益は出ていない
赤字前提の運営構造を持つ公立動物園の宿命

だから、努力や工夫だけでの成功は難しい
温泉を利用した展示施設は、九州の某動物園でも建設が進められていたりするし

全国どこも苦しいらしい。書き込みを三つまとめて紹介すると
(3)温泉を利用した熱帯動植物園は昭和40年代に多数作られたが
今世紀まで生き残った施設は幾つも無い

(4)熱川バナナワニ園はどうなんだろう

(5)伊豆シャボテン公園は残っているがそのパチモンの温泉+ガラス温室はほぼ消えたな
三重県の海の近くの何とか長島って施設はいつ頃消えたのかな

私の考へたことと同じ書き込みも見つけた。
(6)草津温泉、熱帯、高い標高、そんで動物園。ここまでシナジー無視のコンセプトも珍しいな。
この四つでどうシナジー効果を生むか。湯川の中和施設の解説と甦った魚類を展示する。全国の温泉に現存する熱帯園と過去にあったものの一覧を展示する。全国の動物園一覧を展示し、草津熱帯圏が一番標高の高いことを示す。飛騨山脈など標高の高い所に生息するサルの資料を展示し、草津温泉がどこに位置するかを示す。サル山に温泉を引いてサルに入浴させる。サルは寒くないと温泉に入らないだらうから、サル山をガラスで囲い冷却し、冬の草津を再現し冷房は温泉の熱によるヒートポンプのエコシステムとする。一年中冬だとサルに影響するから半分は外、半分はガラス内の夏冬逆転にする。ヘビは草津熱帯圏の特長だからジャパンスネークセンターとの連携を展示に加へる。
このようなものが考へられる。草津熱帯圏のよいところは昭和四十年代の香りがする。昭和五十(1975)年頃から日本の経常黒字が国際問題になり始め、昭和六十(1985)年のプラザ合意で日本の基礎産業は崩壊した。その二つの前の香りがする。プラザ合意以降の日本が異常で、いづれもとに戻る。それまで営業を続けてほしい。と同時に基礎産業は首都圏以外では健在なので、草津の熱帯圏は続けられる要素が大きい。(完)

追記七月三十一日(日) 酸性対策
猿が酸性の温泉に浸かって大丈夫か。突然そのことに気が付いた。草津で湧き出る温泉はすべて湯川に集まり、ここで国土交通省の品木ダム水質管理所が中和する。つまり熱帯圏の中で中和しても湯川で中和しても、消費する石灰石の総量は変はらない。といふことで、無料で石灰石を分けて貰ひ、温泉は一日一回交換し手動で石灰石を入れて、開園時間内は新規のお湯で熱交換加熱システムにする。国土交通省が無料でくれないときは、草津町役場が交渉する。これで一件落着する。


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