八百三十七 月遅れ卒業我が家にヘビ余生
平成二十八年丙申
五月四日(水)
ヘビの卒業式
一日の夜、我が家にヘビがやつてきた。老いたヘビが四月末で展示施設を卒業し、獣医師の紹介により我が家で余生を送ることになつた。展示施設では「卒業おめでとう」といふ表示が掲げられた。
コーンスネークといふヘビで平均寿命は十歳から十五歳。既に十四歳だからかなりの高齢だ。後輩のヘビたちは日替りでお客様が触ることもできるのだが、高齢のため展示に専念してきた。
幼少よりジャパンスネークセンター、草津熱帯園、その他を遍歴し多くの入園者に可愛がられた。
五月五日(木)
ジャパンスネークセンター
ジャパンスネークセンターは初めて耳にする施設なのでホームページを見ると、群馬県の東武桐生線薮塚駅の近くにある。車だと北関東自動車道の太田藪塚インターチェンジから近い。一般財団法人日本蛇族学術研究所が経営し、良心的な動物園のようだ。展示、蛇の研究、血清の製造のほか、警察が押収した違法飼育のヘビの引き取りも行ふ。記事を一つ引用すると
大阪府警より2013年末に発表された特定動物の無許可飼育事件で押収されたボアコンストリクターを6月9日夕方に引き取りました。今回引き取りを行ったのは14匹ですが、草津熱帯圏へ5匹引き取りをお願いしました。
現在、一部を大蛇温室に展示中です。
とある。東京から近いし藪塚温泉がある。新田義貞の隠し湯と呼ばれるさうだ。隣には旧新田郡薮塚本町(現、太田市)が誘致した三日月村といふ木枯し紋次郎の展示施設もある。この作品は上州新田郡を舞台とするからだ。多くの人に訪れてほしい。私も今度、訪問しようと思ふ。
五月七日(土)
ヘビが家の中で逃げた
ヘビはほとんど動かない。たまに舌をペロペロ出して動く。だから安心して昨夜上の子が部屋に放したところ、高速で台所のほうに逃げてしまつた。上の子が居間、台所、洗面所をくまなく探したところに私が帰宅した。私も再度三部屋を探した。友人にメールで質問し、1週間くらいで出て来たこともある、探すと隠れるから静かにしたほうがいいとアドバイスを受けた。さすがは獣医学科の学生で、ほかにもヘビを飼ふ人がゐた。
その日は見つからず、台所と居間と洗面所の間に引き出し、荷物、ガスヒーターなどで敷居を作り越えられないようにした。我が家は中古で購入したのだが、前の持ち主が台所と居間と洗面所の扉を撤去して一体に改造したためだ。餌と水とヒーターを台所に置き、音がすれば判るといふことで、上の子は居間で寝た。
翌朝、水の中に糞があり、台所にゐることが判つた。これで半分は安心した。
五月八日(日)
ジャパンスネークセンターを中止
今年の黄金週間は、二十九日に昭和の日の式典に参加し、三十日午後不動産セミナーに参加した以外は家にゐた。だから本日太田市のジャパンスネークセンターに行かう。さう計画した。藪塚駅まで往復で2500円、ジャパンスネークセンターの入場料1000円が割引券で900円、そのあと三日月村に寄つて700円で合計4100円。藪塚温泉で日帰り入浴1200円は予算の都合で省略。
七日ではなく八日にしたのは、日曜のほうがスネークセンターの催し物が多いからだ。ところがヘビがまだ見つからない。といふことで日帰り旅行は中止した。今年はずいぶん質素な連休になつた。へびの無事帰還を祈りたい。
五月九日(月)
へびの形跡
会社から家に戻ると、水の容器の周りの新聞紙が濡れてゐた。七日、八日とへびが現れず心配したが、これで一安心だ。本日は連休明けで電車が混み、銀座線は線路の切断で午前中運休になり、更にへびの心配を一日中したから疲労が溜まつた。胃もたれもする。だから明日は休暇を取ることにした。
五月十一日(水)
写真
水の容器は漏るのが原因と判つた。別の部屋にゐるといけないから、その部屋にも水容器を置いたほうがいいと私が電話した。そのため本物の容器を別の部屋に移して、台所は缶を置いたのだつた。
しかし冷蔵庫の横に手を伸ばして撮つた写真にヘビが写ってゐるといふ。次に撮ったときはゐない。といふことで移動することが判った。昨日は休暇を取ったため、十回くらい見に行ったがゐなかった。
五月十二日(木)
へび見つかる
昨夜へびが見つかつた。居間の本棚の後ろにゐた。といふことは台所と居間の間の壁を乗り越えたことになる。高さ50cmくらいで、人間の身長に換算すればベルリンの壁と同等と思つたが、違ふやうだ。
五月十四日(土)
餌を食べる
昨夜は餌を食べるところを観察した。上の子が冷凍マウスを2匹買ってきた。それを自然解凍させ、お湯で温め1匹づつ食べさせた。我が家に来て1回目は少し太り過ぎだからと1匹与へたが、今回は展示施設のときと同じで2匹与えた。
1匹目は食ひついたもののすぐ離した。温め方が足りなかったのかと話すうちに再度食ひつき、そのまま飲み込んだ。2匹目は食ひついてすぐ飲み込んだ。
ヘビの体を見ると、確かに表面の艶がなくなつた。冷蔵庫の後などほこりまみれになつたためだらうと思ってゐたが、ほこりは付いてゐない。脱皮をするのかも知れないといふ。
五月十五日(日)
新聞紙に潜るやうになつた
見つかってから新聞の中に潜るやうになつた。ケージの底に何枚か新聞を敷いてる。その一番上の紙の下に入つてしまふ。今までは新聞紙の上にゐた。尤も子供が云ふには、展示施設にゐたときは潜ったさうだ。我が家に来てなぜ潜らないのかと思ったら、脱走騒ぎをきつかけに元に戻ったやうだ。(完)
追記五月二十三日(月)
脱皮
昨日の朝、蛇を見ると脱皮した後だった。白く薄い皮が水容器に掛かるように脱ぎ捨てられてゐた。
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