六百五十、1.書記長に友情立候補、2.無思想が労組を潰す

平成二十六甲午
十二月二十日(土) 友情立候補
俳優の世界に友情出演といふ言葉がある。今回私が労働組合の書記長を続けたのはまさに友情立候補である。今回は絶対に書記長 を辞めたかつた。その理由はうちの組合は分裂して四年間で書記長兼会計、書記次長、別の書記次長が組合を去つた。ここで私が書記長を続ければ巻き込まれるのは必定だからだ。
専従の甲さんは昨年病気で倒れ療養中である。甲さんが元気だつたとき甲さんはよく怒鳴られることがあつた。甲さんの特長は攻撃されても反応しないことだ。よく言へば動じない。悪く言へば鈍感である。四年前の分裂騒ぎのときに向かう側の委員長になるS書記長が執行委員会に大量動員を掛けて、執行委員ではない人を含めて多数が甲さんを攻撃した。しかし甲さんは反論もせず黙つてゐるだけだつた。私は真つ先に甲さんを援護する発言をしたのに本人が反応しない。だから怒鳴られても何も起きない。普通の人だつたら怒鳴り合ひになるだらう。甲さんが倒れると緩衝地帯が無くなつたからまづ書記次長が激突した。さんざん騒動になつた挙句脱退した。残りは会計の乙さんと書記長の私である。そして定期大会を迎へた。

十二月二十一日(日) 会計の乙さん
会計の乙さんは紙芝居屋である。定年を迎へたとき再雇用を選択せずプロの紙芝居屋の弟子になつた。組合が分裂する前の大会の 懇親会で、紙芝居を上演したこともあつた。そのとき「民族独立行動隊の歌」を歌ふ場面があつた。村山富市以降の左翼は変質したが それ以前は民族独立こそ左右を問はず優先すべき課題だつた。その「民族独立行動隊の歌」を歌ふとは乙さんは見所がある。私が無思想こそ労組を腐敗させる原因と当時から考へてゐたことがよく判る。
乙さんは組合分裂後にまづ会計監査になつた。書記長兼会計が組合を去つた後は会計に就任した。乙さんは組合費を滞納した組合員の一覧表を作るなど組合への功績は大きい。今回の大会で会計報告を纏め上げ会計監査も済ませたのに直すよう言はれ会計監査には電話で報告した。これで関係が微妙になつた。
うちの組合は甲さんが倒れてから解決金カンパが減少し、組合役員の行動費の未払ひが急増した。乙さんは自分だけ未払い金を受け取つて退任した。

十二月二十四日(水) 想定内の怒鳴り合ひと、想定外の発言
乙さんはこれまでの功績が大きいから、穏便に未払ひに戻してもらはふと新委員長と話した。ところが第一回の執行委員会が始まる前に乙さんの件で或る人ががみがみいふため何で本人に言はず私にいふのだと言ひ返して怒鳴り合ひになつた。執行委員会に参加しようとした人たちは驚いたかも知れないが、これは想定内である。
想定外は忘年会である。先日の怒鳴り合ひがあるから発言してもらつたところ、「私は左翼は嫌ひです」とまた例の発言をした。五月にあの発言をして以来、私も一時関係が悪化した。私は別に左翼ではない。強いていへば左翼でもあり右翼でもある。或いは両方まとめて穏健派である。しかし組合は政治組織ではないから左翼も右翼もゐる。その一方を切り捨ててはいけない。そればかりではない。私がこの発言を嫌ふのは、これまで無思想な人たちがカネ目当てに組合に集まり騒動を起こしてきたからだ。

平成二十七乙未
一月四日(日) 目的を喪失した組織
かつて私の所属する労組は全労協全国一般傘下で管理職も加盟できる労組といふことで意義があつた。しかしその後、全労協を脱退し連合に加盟した時点で意義を喪失した。中間層を相手にしても周りはそれより上位の大企業労組ばかりだからである。だからといつて今の全労協に意義があるかは不明である。メーデーで変な英語の歌を歌ふようになつては駄目である。否、彼らの責任ではない。国が完全に独立してゐないことが原因である。消費税増税騒ぎはその典型であつた。
いずれにせよ非連合の労組団体は貴重である。 それなのに十五年ほど前まで全労協傘下だつたにも関はらず、左翼は嫌ひだと発言することは極めて不可解である。当時の社会党は左翼そのものだつたからである。

一月七日(水) メールマガジンの話
甲さんが数年前に組合員と過去に会つたことのある人たち宛にメールマガジンを始めた。中には三里塚闘争に関係する記事があつたりしたが、私は書記長として不問にした。甲さんは自由にやらせれば色々なことをする。そのうち一割が成功すればよい。その方針だつた。或るとき自宅にパソコンのない高齢の役員からどのような内容なのか印刷しろと苦情が出たが、私が「毎号読んでゐますが別に問題になる文章はないですよ」と助け舟を出したこともあつた。
その甲さんが突然倒れた。メールリストは甲さんが加入するメールシステムにあつてそのパスワードは判らない。だからどこに送つてゐたのかは永久に不明になつた。二箇月後、二十周年記念レセプションの案内を出すためにメールリストが必要になつた。そこはパソコン歴三十二年の私である。メールリストを無事入手した。そして二十周年記念レセプションは予定人数を集めて無事終了した。実はこのとき不満がなかつた訳ではない。労働組合の行事それ自体が目的になつてしまつた。これは定期大会でも同じである。行事自体が目的といふことは、世の中に不要で解散してもよい組織である。

その後、メールマガジンを再開した。甲さんの功績を残すため号数は甲さんの続きの414号から始めた。昨年五月に或る人が突然「私は左翼は嫌いです」と発言した。その後のメールマガジンは世代の引継ぎが必要と書いたことがある。ここでは浅沼稲次郎の「米帝国主義は日中両国人民の敵」佐々木更三の「米帝国主義は人類の敵である」を引き継いで私はときどき「米帝国主義は人類と全生物の敵」と主張することを紹介した。またある時は岡倉天心の思想は孫の古志郎(大阪外語大教授)に引き継がれたことを紹介した。
これらは左翼嫌い発言の後に書いたが逆らはうといふ気は毛頭なく、組合の平衡を保つためだつた。甲さんが倒れたため組合内の平衡が崩れたといふ事情もあつた。
その後、会議で、佐々木更三は社会主義協会だ、岡倉古志郎は共産党員だ、メールマガジンの担当を変へろ、と云ひ出したが担当者が 他にゐないので引き続き私が担当してゐる。政治発言は控へるようにはした。しかし佐々木更三氏は社会主義協会ではない。また社会主義協会はかつての勢ひはなく、今では敵対する理由は何もない。それは共産党も同じで敵対する必要はない。

一月九日(金) 二年振りにまともな会議
労働組合が駄目になるのは無思想が原因である。これまでも無思想な人をカネで釣つてトラブルになつた。無思想が労組を潰す。それは組織や活動自体が目的になるためである。(完)


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