五百六十、「今でしょ」は流行してはいけなかつた

平成二十六甲午
四月十九日(土)「流行語大賞の怪」
昨年の流行語大賞は四つが同時に選定された。過去になかつたことである。これ自体が異常だが過去十数年の受賞を見ると、なぜこの語がといふものも多い。今回の四つの中で一番奇妙なのが「今でしょ」である。
流行語大賞は一民間会社が勝手に発表してゐるものであり本来は新聞やテレビがニュースにしてはいけない。この民間会社が新聞社などに売り込んでゐるのではと疑ひたくなる。
それ以上に疑ふのが「今でしょ」で利益を上げる企業がこの民間会社に売り込んだのではないか。

四月二十日(日)「私の授業と林修氏の授業はどちらが面白いか、その一」
私は二十五年前にコンピュータ専門学校の教師を三年間勤めた後も今日に至るまで細々と講習や授業も受け持つた。まづNetwareといふ世界でパソコンLANの圧倒的シェアを誇る製品があり、そのディストリビュータが日本に七社あつた。特にVMSと連携した製品を扱ふスペシファイドディストリビュータの会社に就職した。Netwareの講習所を立ち上げるはずだつたが社長と営業部長の内紛があり、私は今の会社に転籍の形で移動した。Netwareは欧米では高いシェアを誇つたがマイクロソフトがWindowsにLANの機能を追加したため、あつといふ間に消滅した。
今の会社では二十年前に4GL(第四世代言語)を販売した。4GL使用企業への有償教育を二年間ほど実施したが、嘘をつかれて派遣に出される事件があり仕事を取り上げられた。私の所属する部は誰も派遣に出てゐないのに私だけ派遣だといふので断つた。次に派遣ではなくコンサルタントとして週に二回行くだけだといふから行つたところ派遣だつたので騒動になつた。普通であれば嘘をついたほうを処分すべきだ。ところが私の仕事を取り上げられた。
次に2000年問題といふのがあり、コンピュータが西暦2000年に動かなくなるといふものだが、その対策の講演をヒューレットパッカード社と協力して十回ほど東京、大阪で行つた。東京のヒューレットパッカード本社は高井戸にあり、中に中ホールがあり舞台と劇場のような観客席もあつた。そこで講演をするのだが、なぜ私はこんなに話が下手になつたのかと愕然としたことがある。数年後に気が付いたがプレゼンテーションソフトを使ふと話が下手になる。そのときは判らなかつた。やはり講演は黒板かホワイトボードを用いるのが一番よい。
その後も社内教育や学校に出張で教えに行くなど講演や授業の機会は続き今に至つた。

四月二十日(日)「私の授業と林修氏の授業はどちらが面白いか、その二」
私の勤務する会社はかつてはDEC社のVMSといふOSが得意だつた。ところがDEC社がコンパックに吸収され、更に数年後にはコンパックがヒューレットパッカードに吸収された。そのためヒューレットパッカードと取引が多くなつた。そして今回ヒューレットパッカードが「HPワールドツアー東京」といふイベントを開き「今でしょ」でおなじみの林修氏を呼ぶ。ここは聴きに行かない訳には行かない。私の講演や授業で役に立つことも多いからだ。

林修氏の講演を聴き始めた前半の感想は、面白い話の連続である。私は話すときに面白くしようとして面白い話をする訳ではない。しかし聴く人を退屈させないのは話者の義務である。だから社会人向けのときは一時間に一回しか面白い話を混ぜない。その代はりに間を取つたり声の高さを変へたり話の内容そのもので退屈させないようにする。学校だと退屈の度合いが高いから三十分に一回である。
林氏は面白い話の連続とともに聴者を牽引する話し方に特長がある。予備校講師は生徒を引つ張る必要があるからだが、私とは聴者の性格が違ふからこの形は取れないと感じた。
林氏は私よりかなり早口だが、これは年齢の差であらう。私も若いときは早口だつた。今は林氏の真似はできないと思ふ。

四月二十日(日)「話の後半」
話の後半では感想が一変した。林氏の話には中身がない。そして虚無主義といふか世の中で斜に構へる。東進の他の講師とは一人を除いてあとは仲が悪い。悪いほうが仕事の数字はでる。この話はその典型である。
前半で「今でしょ」の広告に五人登場するが五人を雇ひたいとは思はないでしょ、で会場は笑ひに包まれた。あの話はよかつた。林氏といふカリスマ教師でさへ謙虚なのだといふ笑ひである。後半はカリスマ教師が虚構、「今でしょ」はマスコミの創作。そのことに会場が気付いた。
予備校の講師は一匹狼だがテレビ局は若いディレクターと仕事をする。ホッチキスで留めてくれと渡したら紙をそろえず留め、コピーしてくれと付箋を貼つて渡したら付箋のままコピーするから読みたい部分が見えなかつた。この話はマスコミが既得権にあぐらをかき低級化したことを示すのに単に笑ひ話にしてしまつた。だからあまり面白くはなかつた。
ヘルプの逆説の話もあつた。ソフトウェアのヘルプは読んでも判らないし判る人はヘルプは必要ない。これは前半だつたので私も大笑ひした。しかし深く考へるとマイクロソフトの独占体制だからこのような不親切なヘルプがまかり通る。或いは英語の直訳だから読んでも意味が判らない。実は奥の深い話である。

四月二十一日(月)「学生が100点を取れない理由」
学生は80点なり70点を取れば合格だが、社会人は100点取らなくてはならない。タクシーの運転手が十人運んで九人到着しても駄目だ。さういふ話もあつた。ほとんどの人はうなずいたが私は同意できない。
学生も100点でなければいけない。しかしテストといふ無理に人間を分類することをするから100点は取れない。資料持ち込み可で誰もが100点取れる問題を作らなくてはいけないのに出来ないのはテストといふ制度に欠陥があるためだ。

私は専門学校教師のときにテスト問題の最後に授業の感想を書かせてそれに15点ほど分配した。平均点の40%だつたかが合格点でこうすれば全員合格するからだ。だいたい専門学校の場合は進度別にクラス分けすると下位クラスは授業内容を理解しない学生がほとんどである。全員を合格にするか全員を不合格にするしかない。それなのに1割くらいを不合格にして追試料を取る。だつたら全員合格にするほうがよい。

社会人は100点といふのも正しくない。間違ひはある。それをカバーして100点にする。これが正解である。

四月二十五日(金)「前半は謙虚、後半はマスコミに踊らされた林氏」
林氏は登場するなり、林氏のような若輩者が社会で長年活躍された皆さんの前で話すことはないといふような話で始めた。この謙虚さで前半はよかつた。ところが後半はマスコミとこんな繋がりがあるといふ話が多くなりマスコミに踊らされた姿が出てしまつた。
あと後半は表面だけの話になつてしまつた。話題がなくなつたのかも知れないし笑ひ声からこの程度でよいと考へたのかも知れない。マスコミが一民間企業の賞を大々的に取り上げて有名人にした。そして俄か仕立ての有名人を持ち上げる。マスコミこそ諸悪の根源である。(完)


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