五百四十七、下町探索記「昭和を走ったチンチン電車~都電百景!~」


平成二十六甲午
三月三日(月)「森下文化センター」
昨日は江東区立森下文化センターで、うゑださと士色紙画原画展「昭和を走ったチンチン電車~都電百景!~」を観た。二月十九日から明日までである。しかも本日は休館日である。雨だつたが出かけた。
絵は写真とは別の趣きがある。周囲の景色や人々と調和してゐる。写真だと肖像権の侵害だとか言はれかねないが絵なら大丈夫である。絵だから多少は事実と異なる点がある。新宿の都電終点に15番が停車してゐた。正しくは13番である。渋谷の線路の分岐が変だつた。或いは停留所がハチ公側にあつた時代かとも思つたがやはり東側に移つた後だと思ふ。
逆に教へられることもあつた。池袋は正規の路線は17番、臨時で20番上野広小路行きと思つてゐたが、解説に三路線とある。確かに臨時で16番御徒町駅行きもあつた。これなぞ路線図だけ見たのでは判らない。絵を描くため長時間停留所に居なければ判らない。

三月四日(火)「箱崎エアターミナル、その一」
雨だつたがせつかく森下町まで行つたのだから付近を散策した。まづ清澄庭園の説明板を見ただけで隣接する清澄公園に行つた。晴天なら入場料を払つて入るところだがあいにくの雨なので素通りした。それより清澄公園といふ公園を始めて知つた。あんなものを造るよりは都会でも野生生物のための森林公園にすべきだ。狐や狸や昆虫や野鳥の棲家にすべきだ。
次に清澄橋と永代橋の間の高速道路に併設された歩行者用の橋を渡つた。期せずして箱崎エアターミナルの前に出た。ここは五年ほど前にIBM本社に行くときに来たことがある。そのとき調べて判つたことはかつてここで搭乗手続きと出国手続きができた。ところがアメリカの貿易センタービルへのテロでアメリカへの便は空港以外で搭乗手続きを受け付けなくなつた。本来はアメリカ以外への旅行者のために存続させるべきだ。ところがそんなことをするとアメリカといふ国は世界でも異端なことがばれてしまふ。そこで箱崎の搭乗手続きと出国手続きを廃止し単なるバス乗り場にしてしまつた。前回来たときはそこまで調べた。

三月五日(水)「箱崎エアターミナル、その二」
一階と二階はレストラン街でこれは登場手続き時代からのなごりであらう。さう思つた。しかし家具店など旅行者向けではないものもある。調べるとかつては一階が各航空会社の搭乗手続き、二階がバス乗車券売り場と外貨両替所、三階が出国審査とバス乗り場だつた。今は一階の一部に羽田行きバス乗車券売り場と乗り場、三階が成田行きバス乗車券売り場と乗り場と外貨両替所になつてゐる。かつて搭乗手続きをするとバス乗車を把握して万一バスが遅れた場合に航空会社が対応してくれたさうだこれは便利である。搭乗手続きだけでもバス会社が代行したらだうか。
前回来たときは東京駅とのリムジンバスが廃止になる前後だつた。今回は羽田行きバスが東京ビッグサイトで降車できなくなつた直後だつた。成田行きのバスも一割程度減便になつた。

ついでに横浜エアターミナルについて調べると三年前の三月で日本航空と全日空の航空カウンター、そしてトラベルセンターが廃止になつたさうだ。しかし三年前の夏に行つたとき日本航空と全日空の発券カウンターと外貨両替所はあつたような気がする。

三月六日(木)「水天宮、人形町」
水天宮は一階に商店が入り二階が境内とお宮だつた。近代的建築方式ではあるが荘厳な造りだつた。今回は工事中で神社は別の場所に一時的に遷宮してゐた。そのまま進むと人形町に至つた。玄冶店(げんやだな)の説明板があつた。玄冶店は春日八郎の「お富さん」で有名になつたがこれまで店の名前だとばかり思つてゐた。実際はこの辺りを指す地名で幕府の医師岡本玄冶の屋敷があつたことに因む。
西郷隆盛屋敷跡といふものがあるがこの日は雨なので寄らなかつた。こんなところになぜ薩摩藩の屋敷があるのかと思つたが調べると明治維新後の話であつた。明治政府の高官となつた薩長の連中は西郷を除いて贅沢三昧になつてしまつた。

三月七日(金)「消えた下町住宅」
今回の散策で下町らしい住宅があつたのは森下文化センターの周辺のみだつた。あとはビルやマンションの連続である。昭和四十年後半から少しづつビルやマンションが増えたが今日のようになつたのはプラザ合意以降である。
まづバブル経済があつた。あれで土地の値段が高騰し下町の地元産業がマンションに変つて行つた。バブルがはじけるとますます地元産業は衰退した。輸出産業は幕末の金と銀の変換比率の差に目を付けた悪徳西洋商人に似てゐる。国内外の人件費の差額や労働慣習の相違やその他の違ひに目を付ける。国内の経常収支が赤字のときは輸出を奨励すべきだが大幅黒字のときは抑制すべきだ。それをやらなかつたのが今までの自民党だしそれを批判しなかつたのがかつての社会党である。(完)


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