五百四十三、日本労働弁護団徳住副会長の講演会


平成二十六甲午
二月十三日(木)「ファンドと労働組合」
昨夜は組合事務所で徳住弁護士の講演会を行つた。徳住氏は日本労働弁護団副会長、東京弁護士会労働法制特別委員会委員長、東京三弁護士会労働訴訟等協議会議長、東京大学法科大学院元客員教授といふまさに日本の労働弁護士の第一人者である。
「ファンドと労働組合」と題して講演を頂き、改めてハゲタカファンドは日本経済を破壊する極めて有害な存在だと判つた。経営者と労働者が働いて蓄積した資産を奪ひ取るか株を吊り上げて売り抜ける。働かずに暴利を得る実に悪質な行為である。

二月十六日(日)「東急観光事件」
東急観光は親会社の東急電鉄(偶然昨日元住吉駅で追突事故、こどもの国駅で屋根崩壊事故が発生)が株式85%を英国の投資会社に売却した。東急観光労働組合はユニオンショップで1700名だつたが、支店長が組合脱退を強要。組合員には賞与を払はず第二組合「社員会」に加入すれば賞与が支払われるといふ不当労働行為を行つた。社員会は過半数を確保したと発表。組合は都労委に申し立て。東京地裁にも損害賠償を提起した。
国会でも民主党(九年前なので菅、野田によるシロアリ化の前)議員が企業は株主だけのものではなく「株主は重要な一つの構成員ではあるが、従業員、取引先、場合によっては地域社会も企業を構成する極めて重要な要素である」と述べ城島厚生労働大臣もこれを肯定した。そのような中で労使和解が成立した。

二月十八日(火)「アデランス」
かつら最大手のアデランスは米系投資ファンドが株の30%を取得し取締役十人のうち八人を獲得した。マーケティング戦略の維新、お客様満足のさらなる向上などを掲げたが実態は資産の現金化と社外流出であつた。リストラ、ビル売却のうわさが流れて労働組合が結成されUAゼンセンの別組合も結成された。リストラと本社売却はしないといふ回答を引き出した。
管理職のほとんどがファンド推薦の者に入れ替へられ赤字に陥つた。ファンドが連れて来た社長は退任し創業者の一人が社長に復帰した。しかし経営不安があり希望退職400人などが続いてゐる。

二月十九日(水)「阪神電鉄」
八年前に村上ファンドが阪神電鉄株の47%を保有し取締役の過半数の選任を求めた。阪神電鉄の厖大な含み資産に目を付けて、株価を上昇させて売り抜ける目的だつたと言はれる。
阪神電鉄労組は「組合としては、会社は単に株主利益の追求だけのために存在するものではなく、株主利益が従業員およびその家族の生活や地域住民の安全・安心を犠牲にしてはならないと考え(以下略)」「新たな経営陣が経営効率改善の名のもとで、短期的な株主利益のみを追求する施策、例えば阪神グループの事業や資産の切り売り等が実行されれば、私たち労働者の雇用の維持・労働条件ひいては生活そのものにも多大な影響を与えることは明白であり(以下略)」
最終的には村上氏の逮捕、代表の辞任、阪急HDによる経営統合により村上ファンドの目論見は失敗した。労働組合は一定の役割りを果たした。ここからは私の感想だが別の見方をすればかつての総資本対総労働の時代にはファンドの買占めはあり得なかつた。労組の弱体化をハゲタカファンドに見透かされたとも言へる。或いは大企業労組が中小や未組織労働者、非正規労働者に対して特権化したため、ファンド側もこれくらならお前らに比べて不道徳ではないだらうと考へたとも言へる。

二月二十日(木)「日活」
ファンドではないが株の売却を阻止した例もある。九年前「にっかつ」は親会社の経営統合により株をUSENに売却する計画がに出た。USENはその前年に公正取引委員会から排除勧告が出されてゐた。日活労組は映画製作が切り捨てられるとして「会社は誰のものか」を討論する集会を開き、ストライキ、抗議ビラ配布、大衆団交を行ひ、会社側はインサイダー取引にならないよう組合四役と秘密保持契約を結び新たな売却先を探した。労働委員会で「にっかつ」と日活労組の和解協定が締結された。

二月二十三日(日)「親会社、ファンドとの団交」
労働組合は労組法第七条の使用者について真の決定権者(親会社、ファンド)との団交を認めさせてきた。労委命令や判例では株式の保有率、人的関係、財務関係、受注や業務の関係、基本的労働条件の異同などから使用者性を認定してきた。
東芝アンペックスが昭和58年に解散させられたことについて、日本労働組合総評議会全日本造船機械労働組合と同東芝アンペックス分解が神奈川地労委に申し立てた事件では、東芝と東芝アンペックスの双方に団交に応じなければならないとする命令を出した。
これに対し経営側は日経連レポートで、子会社の人事、労務管理に関与すると使用者だと認められる可能性がある、として使用者認定から逃れようとしてゐる。

二月二十八日(金)「資本主義の本質」
講演会を聴いてハゲタカファンドの悪質さがよく判つた。しかしそれから二週間を経過して私は最初とは少し異なる意見を持つようになつた。企業は誰のものかといふことが曖昧なまま戦後六十九年を経過したためその矛盾が現れたのではないだらうか。
日本は財閥解体により大企業は社会主義化が為された。しかし真の社会主義ではないから出世競争、過労死、あげくは自分たちの権益を守るため非正規雇用や派遣の受け入れまで行ふようになつた。
そして輸出産業は日本全体を考へないから円高を招き農林水産業、地元産業の衰退を招き、輸出産業自体が工場を海外に移転したから失業者が増大した。
江戸時代末期に経済を海外に開いた途端、金と銀の価格比が日本と海外で異なるからあつといふ間に大量の金が海外に流出した。輸出産業のやつてきたことはまさに海外との労働慣習などの違ひなどで自分たちだけ暴利を得る金流出事件と何ら変らない。
働かずに暴利を得るハゲタカファンドは許し難いが日本の企業とどれだけ差があるのか。ハゲタカファンドがハゲタカ企業を食ひ物にするだけではないか。資本主義の矛盾をハゲタカファンドが突いたと言へる。(完)


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