三百七十五、隔離部屋報道に見る朝日新聞の偽善


平成25年
二月二十八日(木)「大手の隔離部屋報道」
朝日新聞に隔離部屋報道が載つたのは一カ月ほど前だらうか。この記事はよくない。隔離部屋を批判する意図はあるような姿勢を取るが背後を報道しない。だから隔離部屋を世間に促進する役割を果たし、それでゐて隔離部屋が起きた本質を報道しない。だからその何日か後に厚労省がこれら企業に聞き取り調査をして、違法はなかつたといふ結論で終はつた。

三月二日(土)「朝日新聞はどこが偽善か」
朝日新聞の記事が偽善の理由は、隔離部屋を単に報道するだけなら真似をする企業が出てくる。対抗した労働者や労働組合の報道もすべきだ。朝日新聞は後日の報道で、厚労省が聞き取り調査をしたと自慢げな記事を書いた。しかし大企業は聞き取り調査で違法が露見するようなヘマはしない。
例へば給料を払はないのは違法だ。しかし仕事を与へないのは違法ではない。そのことを理由に一時金を減額したり次年度の昇給をしないなら違法だが、これとて労働側が立証するのは難しい。企業は能力不足だのと出鱈目な理由を並び立てるからだ。

三月三日(日)「発言者、取材者、朝日新聞は本質を見よ」
ダイヤモンドオンラインにブラック企業アナリストを自称する新田龍氏の発言が載つた。新田氏は「中小企業ならば、経営者の一声で社員は簡単にクビになってしまいます。しかし、大企業は用意周到に事を進めなければならないのです」と発言した。この発言は中小企業に勤める一人として許し難い。大企業だらうと中小企業だらうと経営者の一声でクビにしてよい訳がない。
もし追出し部屋に送り込まれたらだうしたらよいか。新田氏は「もうその会社では勤務が続けられる状態ではないことを覚悟するべきです」といふ。その理由として良心的な企業の人事部は一年掛けて追出し部屋に送る社員リストを作り、更に一年掛けて上司がハツパを掛けそれでも改善されないと送り込むからだといふ。時間を掛けたからよいといふことにはならない。そもそも追出し部屋を作るといふ邪悪な前提で社員リストを作る以上、何年掛けようと駄目である。
厚労省はパナソニック、シャープ、ソニー、NEC、朝日生命保険に調査を開始した。これについて取材者は『5社に代表される大手企業は、マスコミにとって大口の広告主。昨今、広告主とのパワーバランス、報道内容の偏重に関してマスメディアへの批判が少なくないが、報道機関としての影響力を誇示する狙いがあったのではないか、と新田氏は指摘する。「朝日新聞もよくやったな、というのが本音です」(同氏)』

そこで今回朝日新聞を調べようといふことになつた。大企業が此のようなことをする理由に「この不景気で企業はコストカットを進めていましたが、派遣切りなど最後の砦的な方策もうまく立ち行かなくなってしまいました」。つまり不景気が原因である。
更に分析すれば景気が悪くなれば労働者の失業や企業や個人商店の廃業が相次ぐ。これは自由経済では当然であるが、日本は雇用が安定する大企業と、雇用が不安定な中小企業に分かれ、労働組合やマスコミは大手の立場でしか発言しない。それが野田の消費税増税ごり押しに繋がつたし、失業者や非正規雇用対策への無策にも繋がつた。
新田氏と取材者はいづれも二十代で企業を立ち上げたといふ人達だから中小企業経営者の立場だし、朝日新聞は大手企業の立場だし記事を書いた記者は大手労組の立場である。全員が本質を見ることができないのはここに原因がある。

三月四日(月)「河合薫さんの『追い出し部屋は当然!』を100%賞賛しようと思つたところ・・・」
私は河合薫さんがどんな人か知らない。男か女かさへも知らなかつた。たまたま日経ビジネスオンラインに100%賛成の主張があつたので取り上げようと思つた。ところが一週間ほどして別の主張を見ると、前回とは打つて変つてひどい内容だつた。まづは最初の主張である。河合さんは大企業から関連会社に転籍し取締役になつた人の発言を紹介してゐる。
「ウチのような関連会社には、本社の身分のまま来る中高年の社員たちがいます。その中には本当に頭を抱えたくなるほど仕事のできない人がいるんです。ですから必然的に、ヒラの派遣の若い社員が彼らに仕事を教えたり、仕事の尻拭いをしたりなんてことも実際に起きているわけです」
 「ただそういった状況になっても、謙虚に若い社員に教えを請うて、コツコツとやる人は、こちら側が使い方を工夫すれば何とかなる。本人にとっては多少屈辱的なこともあるかと思うのですが、時間をかけながらも適応していきます。問題はいつまでも『自分は偉い』と勘違いしている、“オレ様”社員です」
 「彼らは平気で若い人たちのモチベーションを下げるようなことを言うわけです。例えば、ウチでプロパー採用している若い社員の給料は、本社に比べると低い。そんな彼らに、『2万円や3万円のスーツを着ていたんじゃ、営業先に相手にされないだろ。オレなんか若い時は 見栄を張ってでも、高いスーツを着てたけどなぁ』と言ったりする。あ~、それを言ったらおしまいでしょ、ていうオレ様話を平気でするんです」
 「こんな言い方をするのも何ですけど、彼らの経費は親会社が払っているんで、彼らを抱えることによるうちの会社の物理的な損失はないとも言えます。でもね、厳しい状況の中で必死に頑張っている若い社員のモチベーションを下げるような言動は困るんです。50人程度の小さな会社ですから、全員野球で取り組まないとやっていけない」
 「こちらも若い社員の力を最大限に引き出す努力をしています。ただでさえ、今の若い社員は中高年に厳しい目を向けている状況なのに、“オレ様”の思慮に欠けた発言で、若い社員たちのモチベーションを奪わないでくれよと。実際、若い社員たちと面談をすると “オレ様”社員の存在にストレスを感じ、やる気をなくしている人が結構いる。申し訳ないけど、仕事もやらなくていいから、おとなしくしていてくれと正直思ってしまうんです」


私の場合も富士通の半導体本部子会社のときはよかつたのに電算部門の子会社になつてから富士通労組といふあこぎな労組にはユニオンシヨツプで強制加盟させられ、しかも富士通から無能で傲慢な連中が出向で課長として来てからひどいことになつた。彼らは技師補だから富士通にいれば調査役(課長の下の課長代理の更に1つ下)にもなれない連中である。だからこの記事には100%賛成であつた。

三月九日(土)「ブラツク企業」
河合さんが次に書いた主張は
「若者を食いつぶす?!」 学生がおびえるブラック企業の“正体”
問題を解決するカギの1つは、斜めの人間関係の構築

である。

そもそもブラック企業って何なんだ?
・残業の多い会社?
・サービス残業をやらせる会社?
・新人教育をしない会社?
・希望した部署に配属してくれない会社?
 一体何なのだろう?

と自身で問題提起した。しかしこれを見るとサービス残業は違法だから明らかにブラツク企業だが、それ以外は読者に「何だ、ブラツク企業なんて嘘ぢやないか」と思はせる項目を並べてゐる。次に昨年夏に「ブラック企業大賞」を実施した企画委員会のメンバーで弁護士の佐々木亮さんの発言を紹介し
「簡単に言えば法があっても法を守らない。法をわざと知らないふりをする。労働者の命、健康、生活を配慮しない。こういう企業をブラック企業と言います」


私も100%賛成である。さらに具体的に補足すれば、法律を守らない企業と入社しても七年以内に多くが辞めてしまふ企業と言ひ替へてもよい。ところが河合さんは佐々木さんの主張に賛同するでもなく、NPO法人POSSE代表の今野晴貴さんの発言を紹介し、内容を発言者の意図とは逆の意味に引用したとしか思へないことをしてゐる。今野さんは次のように発言した。
「日本では以前から、サービス残業に代表される違法行為は後を絶たない。違法な企業とした途端、『昔から日本企業はブラック企業だ』という結論にしかならない。ただ単にどこそこの会社はブラック企業だとやり玉に挙げるのではなく、どうして若い社員を使い捨てにするような社会構造が存在するのか? を個人の問題としてではなく、社会の問題だとして取り組んでいくことが必要」


私は今野さんの発言にも100%賛成である。つまり佐々木さんと今野さんの発言には何ら矛盾するところはない。違法な企業が駄目だといふか、その背後にある社会構造が駄目だといふかの違ひである。ところが河合さんは
ここで取り上げさせていただいた2人(2つの団体)の見解からも、ブラック企業の定義は明確には存在しない、いや、多義にわたっていると言っていいだろう。(中略)要するに、裏を返せば受け手である若い社員の主観によって、いかなる企業もブラック企業になり得る。自分の納得のいかない理不尽な環境で働かされた時、当事者は「ブラック企業だ!」と批判し、その会社は「ブラック企業」という汚名を着せられる可能性があるのだ。

と見当外れな結論を出した。河合さんの略歴を見ると、全日本空輸に入社、気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演、長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師とある。それで思ひ出したが、全日空が始めて国際線に進出したとき河合さんが客室乗務員として乗務した航空機が離陸の時、全日空の役員などが手を振るのを見て「ダサー」と書いたのが河合さんであつた。
全日空の役員が手を振ることは十分理解できるではないか。日本航空の独占だつた海外路線に進出した。皆が万感の思ひで手を振る。その気持ちが判らないのか。ここで年功序列で支店長なり役員になつただけだなどを批判するのなら判る。なぜ日本航空の独占だつたのかを書くのも判る。航空機が多量の排気ガスを放出してよいのかと書いても勿論賛成である。ところが表面しか見ない。
前回の『追い出し部屋は当然!』のどこが間違つてゐるかを最後に指摘しよう。河合さんが書いたのは親会社と子会社の問題である。それなのに追い出し部屋問題に摩り替へた。なぜこんな人を非常勤とはいへ講師にするのか。河合さんは肩書きを利用して更に上昇しようとするだらう。だから著者プロフィールには「博士(Ph.D.、保健学)・東京大学非常勤講師・気象予報士」とある。長岡技術科学大学非常勤講師のことは書いてゐない。

三月十日(日)「雇用とは何か」
朝日新聞、ブラツク企業アナリスト、河合さんが共通して間違へたことは、雇用とは会社の指示で働くことだ。だから営業だつた人が事務に回されることもあるし、技術だつた人が製造に回されることもある。指示に従はない或いは業務の品質や速度が悪いなら労働者の責任だが、それ以外は使用者側の責任である。
そんなことはプラザ合意(或いはそれに続くバブル経済とその崩壊)以前なら誰でも知つてゐた。その後の現業職の減少と派遣や非正規雇用の増大したおかしな社会でしか仕事をしたことがないと、そのことを知らない人がゐるのかも知れない。朝日新聞は進歩派を自称し、やつてゐることは拝米猿真似の社会破壊である。だからすべては日本古来のものが悪いと丸山真男ばりの結論で誤魔化す。本質が間違つてゐるから表層しか報道できず、結局は悪い経営方法を世間に広める役割しか果たさない。

今から二十年くらい前だらうか。毎日新聞だつたと思ふが、終身雇用は終はつたといふ見出しをつけた記事を書いた。この記事の場合も、解雇を批判するふりをして批判しない。理不尽だ、大変だ。単にさういふだけだから、終身雇用は新聞にあるように終はつたのだと真似をする企業が続出した。日本の大手マスコミは極めて有害である。すべてを一旦解体すべきだ。(完)


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