三百六十五、テレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」


平成25年
二月十日(日)「メイドインジヤパン」
NHKがテレビ60年記念ドラマ「メイドインジャパン」を三週連続で放送した。一回目と二回目はよかつたが最終回は期待外れだつた。
日本最大手の電機メーカータクミ電機があと三箇月で倒産の危機に陥つた。譲原会長に呼ばれた七人は会長の息子の桂一郎社長に気付かれないよう再建策を立て次々に実行する。七人はいづれも組織から浮いた人達だつた。まづリチウム電池でタクミの技術に類似した製品を売り出した中国企業ライシェに技術対価として5000億円を要求するが、そこに現れたのはタクミがリチウム電池から手を引いたときに退職したかつての同期迫田で、取引きは失敗した。ここまでが第一回目で面白かつた。

第二回は次の提携先にドイツのメーカーのマンハイムで、先方の要求は譲原会長と桂一郎社長の辞任だつた。譲原会長は受け入れ取締役会を開く。NHKの予告では譲原会長が仕掛けた罠で再建チームはかつての同僚迫田と訴訟合戦になる筈だが、ドラマを見た限り罠ではなく取締役会が会長の辞任申し出に誰一人賛成しないため、次の方法として訴訟することになつた。

最終回は、ライシェが来日しタクミ電機に反論する記者会見を開く。タクミ電機も対抗して記者会見を予定する。ところが迫田はライシェの記者会見でタクミの技術を用ゐたことと電池の発火事故に言及し大混乱になる。一方のタクミ電機も記者会見を中止する。その後、タクミ電機は訴訟を取り下げライシェと提携することになる。

二月十日(日)その二「期待はずれだつた理由」
最終回が期待はずれだつた一番目の理由は、組織から浮いた存在のはずの七人のうちの一人はこれまでもリストラをやつてきたが、これから再建のためリストラを始めると決意することだ。確かに日本の電機連合と称する単産は、かつての沖電気争議といひ、数年前の非正規雇用を使はないと日本の電機産業は世界と勝負できないと発言し世間の批判を浴びた。だからといつて電機労働者を切り捨ててよいはずはない。他人をリストラせず自分をリストラすればよいのにその身勝手は不快だつた。
二番目の理由は、戦後の日本はアメリカの技術を真似して成長した。例へば終戦直後の電車。当時は電車といへば路面電車のことだが東京都交通局はアメリカに特許料を払つてPCCカーといふ最新鋭の電車を1両製造した(5501号車)。それと類似した国産車を1両製造し(5502号車)MSNカー(三菱・住友・ナニワ製)と呼ばれた。これらの技術を用いて5503号車から5507号車までの量産車も製造し、更にその技術で7001から7093号車までを製造した。このうち5501以外は国産と称した。中国が日本の東北新幹線の技術に特許料を払ひ車両を製造したが、後にはこの技術を応用して独自の車両を国産と称して製造した。これについて日本の新聞は、日本の技術の盗用だといふ記事が氾濫した。しかしPCCカーの事例を知ってゐれば日本の昭和三十年前後と同じだと気が付く。
NHKの今回のドラマは日本の企業、中国に渡つた技術者からも取材して政策したといふが、日本企業側の意向に沿つたものだと感じた。
三番目に、タクミ電機、ライシェといふ私有企業間の争ひなのに、日本と中国政府が干渉してくるかも知れない(実際にはしなかつたが)といふ展開になつた。
四番目に、登場人物の家庭問題がやたらと登場した。

これらが最終回に噴出し期待はずれに終つた。テレビドラマは原作、製作、演出と三人が係はるため、ドラマがつまらなくなりがちである。これは大河ドラマで特に当てはまる。今回も当てはまつた。

二月十一日(月)「終身雇用」
私は富士通の関係会社に四年半在籍し、そのうち三年は富士通本体で勤務した。しかも最初の一年は半導体事業本部(当時は電子デバイス事業本部)の関係会社で労組は無かつた。残りの三年半は電算本部の子会社で富士通労組所属。しかも中央大会で一人だけ反対票を投じたりしたから、普通の人の二十年分くらいは経験したと思つてゐる。例へば当時は担当部長といふ役職の人は富士通と関係会社を含めて全国で二人くらいしかゐなかつた。副技師長が一人だつた。なぜそんなことが判るかといへば社内電話帳をきちんと読んだ為である。全部を読むのに三十分もあれば足りる。
だから大企業の内情は詳しいはずだが今回のドラマを見て一つ知らなかつたことがある。それは終身雇用者の心理である。七人のチームのうち中途採用の人が意見を言つた。それに対して「お前は中途入社だからそんなことが言へるのだ」と言ひ返す場面があつた。或いは愛社精神を強調する場面が何回も出てきた。同期といふ言葉も出てきた。
終身雇用はやはりよくない。まづ視野が狭い。それを避けるために出向があるが、例へ出向しても本籍意識があるから本気で仕事をしたことにならない。また雇用ではなく身分になつてしまふから絶対反対である。日本経済の停滞は意識の硬直化に原因がある。これを治すには定年までに数回は転職するのが普通といふ社会にすべきだ。終身雇用は高度経済成長期の遺物である。とはいへ経団連の目論んでゐる解雇をしやすくするための制度であつてはならない。

二月十二日(火)「出世競争」
ドラマでは企業意識が随所に感じられた。新卒で採用され定年まで勤めればかういふ視野の狭さになつてしまふだらう。まづは同期の出世競争である。同期の誰は一番で課長になつた、部長代理になつた、部長になつた、事業部長代理になつた、事業部長になつた、取締役になつた。さういふ競争が五十五歳辺りまで続く。サービス残業やモーレツサラリーマンの原因である。経済学から見ればサービス残業で残業代はもらはなくてもその分出世すればはるかに得である。名誉欲も満たされる。
しかし人生が狭いものになるし過労死の原因にもなる。日本の経常黒字の原因でもありそれが逆に日本企業の首を絞める。そして視野の狭さから事業が守旧になり再度日本企業の首を絞めてゐる。

二月十三日(水)「このドラマの問題点」
このドラマでは、ライシェに転職した迫田(高橋克己)とタクミ電機工場長(國村隼)が一番まともだ。しかしNHKは迫田をネガテイブに演じさせ、これはよくない。工場長は家が下町の元商店兼民家風でもつとも典型的な昭和四十年代のサラリーマンの雰囲気を保つてゐた。
再建チームの責任者の矢作(唐沢寿明)とリストラ屋(平田満)は一番嫌な役だが俳優は良心的な役が似合ふ人を配置した。どうもNHKは原作、製作、演出の連携が悪いのか横から口を出すといふか上から口を出す人がゐるのかどちらかみたいだ。

二月十五日(金)「メイドインジャパンを守るには」
ドラマでは「メイドインジャパンを守るのだ」「既に部品も組み立ても海外ではないか」といつた激論が交されたが、メイドインジャパンを守るにはバブルの前まで戻ることだ。プラザ合意の前まで戻らなくてもバブルの前に戻ればメイドインジャパンは回復できる。バブルで役職者がやたらと増へた。手当や企業年金やその他も増へた。これらをバブル崩壊前に戻せばよい。中小企業はさうしなければ生き残れないから既に実施した。あとは大企業である。
経団連の言ひ分を聞いてゐると解雇の自由だとか非正規雇用だとか自分たちに都合のよいものばかりである。そんなことはしなくてもまづ副社長、取締役など自分たちの周りを削るとよい。(完)


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