三百五十、冷暖房は強くしてはいけない


平成25年
一月十七日(木)「カルノーサイクル」
今から二十年前に今の会社に入社したとき、事務所は横浜にあつた。大きな部屋の向こう側とこちら側の窓の連続した長さ20mほどの壁に沿つて床置き式の冷暖房機が合計十台くらい設置されてゐた。冬には室温が徐々に高くなつてお昼には二十六度くらいになつた。その原因は自分の席の近くの冷暖房機を三十度にする人がゐたからである。大部屋全体に空気が循環するから少しづつ高温になつた。
あるとき一台の冷暖房機が冬なのに冷房になつてゐた。熱いから近くで冷房運転にした人がゐるのだらう。1箇所は暖房運転を続け1箇所は冷房運転を続ける。電気代が実に無駄である。熱力学でカルノーサイクルといふ架空の装置がある。可逆的(熱を無駄にしない)で高温から低温まで熱を移動させるとどれだけエネルギーを使へるかといふ架空の実験である。カルノーサイクルなら冷房と暖房を同時に行つても電気は消費しない。しかし実際の冷暖房機ではおそらく4Kw/時くらい、1時間に90円が無駄になる。

一月十八日(金)「資源消費税の導入を」
今回の電気料金の値上げは33年ぶりださうだ。しかし私の感覚ではその前からほとんど上がつてゐない。動力が12円/Kw時、電灯が20円/Kw時である。第一次石油危機のとき以来僅かな値上げでしかなかつた。
昨日紹介した冷房と暖房を同じ部屋で行なつても1時間に90円、1日で810円しか無駄にならない。家庭なら大きいが会社にとつては僅かな金額である。これが日本人の感覚を狂はせた。
資源の価格低下は相対的に人件費を高騰させる。資源消費税を導入することで人件費/資源消費費用の比率を低下させることで、失業とそれにより発生した非正規雇用を解消できる。それでは国際競争に勝てないといふ人が出よう。そもそも現在の国際経済の仕組みは西洋が自分たちに都合のよいように作つた。欧州内の貿易はそれでよいがその他の地域は地域内貿易、国内流通を基本にすべきだ。

一月十九日(土)「夏より暑い冬、冬より寒い夏」
労働安全衛生法の細則である事務所衛生基準規則には、次のように決められてゐる。
第四条  事業者は、室の気温が十度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない。
2  事業者は、室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない。ただし、電子計算機等を設置する室において、その作業者に保温のための衣類等を着用させた場合は、この限りでない。


室の気温が十度以下の場合は暖房しなくてはいけない。十度といふとずいぶん低いが、私が中学生の時に都立高校の滑り止めとして男子生徒が受験する或る私立高校は暖房施設がなく、その代はりに授業中も外套を着用してもよいと説明を受けた。因みに都立が受かつたのでその高校には行かなかつたが。
事務所則には次の記載もある。
第五条
3  事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が十七度以上二十八度以下及び相対湿度が四十パーセント以上七十パーセント以下になるように努めなければならない。


今はほとんどの事務所に空調設備があるからこれに該当し、十七度以上にしなくてはいけない。しかし十七度だと寒いから普通は二十度が推奨されてゐる。ところがこれ以上の室温のことが多い。私の勤務する会社では先日外出から戻ると室温が二十六度に上がつてゐた。暖房の設定を見ると三十度である。このまま二時間ほど放置したら本当に三十度になつてゐただらう。さうなつたら大変である。事務所衛生基準規則違反である。冬に夏用の二十八度に違反するとは珍事である。

二十八度は超へないまでも、夏に冷房を強くして二十四度くらいに下がり、夏は暖房を強くして二十五度くらいに上がる。中小企業ではどこの事務所でもよくある話である。しかし考へても見よう。夏は半袖だし体が暑さに慣れてゐる。冬は長袖だし体が寒さに慣れてゐる。冬の室温は夏の室温より少なくとも五度は低くすべきだ。

一月二十日(日)「初めての訪米」
私が始めて訪米したのは二十二年前に観光旅行でロサンゼルスに行つたときである。二月なのにバスは冷房が入つてゐた。当時の日本では冷房は七月二十日あたりの梅雨明けから八月末あたりまでといふのが常識だから、エネルギーを無駄にするアメリカの体質に驚いたものだつた。更に驚いたのは帰国したら日本は雪だつたのでこの話は鮮明に覚へてゐる。
それから数年して日本でもエネルギーの無駄遣ひが始まつた。まづ窓の開かない電車や事務所が現れた。電車でも特急は昔から開かなかつたが通勤電車にまで現れた。これらの電車や事務所は一年のうち10箇月くらい冷房か暖房を入れるしかなくなる。次に石油ストーブ。あれは屋外で使ふものだと在日西洋人が騒ぎ立ててあつといふ間に消滅した。自家用車をもつ家が急激に増へ、二台持つ家まで現れた。江戸時代の側室ならぬ側車である。

一月二十二日(火)「立春」
人間は数日で寒さに慣れる。だから立春が二月始めなのは意味がある。それまでは気温がだんだん下がるから日一日と寒く感じる。これ以降は上がるから日一日と暖かく感じる。数学的にいへば微分が負から正に転じる時である。
朝、太陽の光を浴びることで人間の体内時計はリセツトされる。それと同じように寒い温度を経験することで冬用の体になる。冬に暖房の効いた部屋にばかりゐると体が冬用にならない。日本列島全体が暖かいならそれでもよい。実際に暖かいのは部屋の中だけだ。外に出れば寒いから風邪の原因になる。

一月二十四日(木)「日本は畳が似合ふ、その一」
気温が二十度を超えるのに寒く感じる原因は机と椅子である。足が寒く感じる。日本の気候には畳が似合ふ。事務所則に、事務所は原則として畳敷きにしなくてはいけないと追加すべきだ。
(例)
第五条
4 事業者は、事務所を畳敷きにするよう務めなくてはならない。


それまでの暫定処置として部屋の天井付近の温かい空気を下に回す工夫をすべきだ。私は数年前に扇風機をロツカーの上に転落しないよう設置したことがある。このときは寒いと苦情をいふ女子社員がゐたので中止した。天井近くの空気を足元に下げれば温かいはずだか風が起きると寒いのかも知れない。人のゐない方向に向けたが僅かな風でも寒いらしい。今は私の背後のホワイトボードの上部に扇風機を付けて下向きに風を流すようにした。これだと寒いのは私の足元だが自分で自分に苦情をいふ訳に行かないし、寒いといつても冬は寒いに決まつてゐるのだからこれで一件落着となつた。と言ひたいが部屋は広いから私の席から離れた場所には効果がない。

一月二十五日(金)「日本は畳が似合ふ、その二」
畳の件は、事務所則に入れるより本来は法律に入れるべきだらう。その場合は
事業者は、事務所を畳敷きにしなくてはならない。作業上の必要がある等特段の理由により都道府県労働局の許可を得た場合はこの限りではない。

がよい。事務所則には
第十九条  事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない。
第二十一条  事業者は、常時五十人以上又は常時女性三十人以上の労働者を使用するときは、労働者が床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。


昔は工場には畳敷きの男女別の休養室があることが普通だつた。立ち仕事が多いと休憩時間には休養室で靴を脱いでくつろいだ。今は畳敷きが少なくなつた。プラザ合意以降の影響であらう。

一月二十七日(日)「貴重な人材が入社」
事務所統合で、私の勤務先が東京に移つてから十年ほど経過した。十年間に暖房をやたらと強くする人が三人ゐた。一人が男、二人は女である。男は既に定年退職したがよほど寒さに弱いのだらう。部屋の空調だけでは駄目で、600Wくらいの電熱器を会社に買つてもらつて自分の席で足を暖めてゐた。
概して女性に寒がりの人が多い。とは言へ放置すると設定温度を24度、26度、30度とどんどん上げるから注意して止めさせる必要がある。
あるとき真冬なのに窓を大々的に開ける女性が入社した。技術や営業の部屋にゐて事務をする女性で、富士通式に云ふと書記である。余談だが富士通の関連会社を定年退職しうちの会社に来た人に私が「この書類は書記さんに提出してください」と説明したら、その後いつまでも「書記さん」「書記さん」と言ひ続けるので「うちの会社では書記とはいわないのですよ」と慌てて追加説明したことがあつた。
その女性が書記として入社した。私も「足が寒いなあ」とは思つたが社員を寒さに慣らす訓練にもなるし貴重な存在である。女性で寒さに強い人はイリオモテヤマネコと同じで希少価値がある。特別天然記念物に指定してもよいくらいである。私の子供の小学校の参観日に担任の先生と雑談をしたときに「クラスに風邪を引いた児童がゐてストーブを点けるとクラス中に風邪が感染する」といふので私が「うちの会社に幼稚園の先生だつた人が事務で入社して真冬でも窓を開けるのは、さういふ理由があるのですね」と納得したことを思ひ出す。
ところがその女性が最近は窓を開けなくなつた。最初は幼稚園のときの習慣で窓を開けるがうちの会社の悪習に染まつたのだらう。工場のある会社は事務室を20度以上に上げない。事務室だけ特権階級にする訳には行かないし工場から来ると暑く感じる。幼稚園や小学校や中学校も20度である。事務所や技術室しかない会社はつい暑くしがちだが、電力が無駄だし風邪を引きやすくなる。その理由は外気温と差が大きくなるためである。
とはいへ私も20度に固執してゐる訳ではない。24度くらいまでは大目に見てゐる。それを超へると暖房を切るし、晴天のときなど暖房を入れなくても部屋の温度が27度に達したときは窓を1cmほど開ける。これは事務所則に違反しないためである。28度を超へると違反になる。(完)


メニューへ戻る 前へ 次へ