三百二十、(1)年末調整の季節、(2)退職者続出企業

平成24年
十一月十八日(日)「年末調整の季節」
昨年に続き今年も憂鬱な季節がやつてきた。社員の年末調整の書類チエツクと税務署提出用Excelシートの入力を行ふからだ。憂鬱な理由は、私が技術職なのになぜ事務の仕事をさせるのかといふことでは絶対にない。それどころかこの仕事は使命感に燃へてやつてゐる。提出者のなかには勘違ひで書類が間違つてゐることがある。うつかり税金を納めすぎたりすることのないようチエツクするのは大切な務めである。
私が憂鬱になるのは独身者の多いことだ。もちろん守秘義務から誰が独身かといふことは意図的に気に留めず作業が終れば忘れてしまふ。しかし全体を通じて四十代、五十代の独身者の多かつたことだけは心象に残る。日本は少子化である。そのために政府も社会ももつと気を配るべきだ。悪いのはマスコミ、特に朝日新聞である。自由だの西洋猿真似だのを国内に広めるため、ますます独身者が多くなる。
独身者を少なくすることは少子化対策だけではない。古来夫婦で生活することを伝統として来た。それで世の中が成り立つてきた。この伝統を破壊してはいけない。

十一月二十日(火)「事業所長が全滅」
私が二十年前に入社したとき東京北部、横浜、千葉、大阪に事業所があつた。事業所長はAさん、Bさん、Cさん、Dさんだつた。大阪のDさんは新任で、前任者のEさんは昔単身で大阪に乗り込み大阪事業所を築いた立役者だつたがこのとき東京に転勤し新設のパソコン事業部長に任命され私の上司であつた。Eさんが翌年解雇されひどい企業に就職したものだと愕然とした。しかしこれは序の口だつた。
大阪のDさんが数年後に退職した。横浜のBさんは事業所長を解任され二年ほど営業をしてゐたがうつ病で退職した。横浜の後任のFさんは後に個人タクシーの運転手になるため退職した。事業所長がタクシー運転手になるといふのは普通の企業では考へられない。千葉のCさんは十年ほど前に副事業所長に降格されたのを不満に退職した。そして先日Aさんが定年で退職した。定年まで行つた初めての事業所長になつた。Aさんも十年以上前に事業所長は解任されプログラマやSEの仕事を一人でしてゐた。今は再雇用で六十五歳まで勤務するのが普通だから定年とは云へ中途退職と言へる。
これで当時の事業所長が全員退職した。その部下のシステム部長や更にその部下に退職者が多いのも当然である。なぜこうなつたかを次に考察しよう。

十一月二十三日(金)「人貸し業界」
IT会社は本来は技術を提供する。ところが今は人を提供する。なぜそんなところに就職したのかと言はれさうだが、二十年前はこんなにひどくはなかつた。仕事は客先ではなく社内で行つたし、自社製品の販売もやつたし、ハードウエアや海外輸入ソフトウエアの販売も行つた。
ハードウエアの価格の急落とともにソフトウエアも価格が下がつた。本来は次の事業を開拓しなくてはいけないのに人貸しをすれば取り合へず利益が上がるから開拓をしなかつた。しかし本当は利益は上がらない。だから年齢が上がると退職に仕向ける。プログラマー三十五歳定年説は正しい。その後、大手では三十歳定年説さへ唱へられるようになつた。

十一月二十四日(土)「下請けや派遣を禁止しなくてはいけない理由」
或る企業が事業を継続するには、定年まで雇用する仕組みを作らなくてはいけない。今なら定年後も再雇用する仕組みを作らなくてはいけない。さうしなければ従業員に不安が高まりまともに働くことが出来ないからだ。
ところが下請けや派遣を使へば、不安をよその会社に移転させることができる。よその会社では、新規雇用した従業員は客先に放り込むから最初は回りに合はせて懸命に働く。契約期間が終はり自分の所属会社に戻され、すぐ次に放り込まれる。この繰り返しの間に自分の先輩は同僚がどんどん減少することに気が付く。そして自宅待機や退職勧奨をされるか、その前に転職する。
若い人は転職先があるからまだよい。若くない人やリーマンシヨツク以降のように景気の悪いときは若い人も転職先がない。下請けや派遣を禁止しなくてはいけない理由がここにある。

十一月二十九日(木)「経営者団体は民間天下りを禁止しろ」
日本経団連のようなニセ経営者の団体は別として、まともな経営者の団体(商工会議所など)は民間天下りを禁止すべきだ。二十年前に今の会社に転職したときは温かみのある会社だつた。例へば経理部長は鹿児島出身で何を言つてゐるか1/3くらいしか判らなかつたが人のよい性格なので馬があつた。社長だつて多摩の出身で限りなく都会とは感覚が違つたがそれなりに馬があつた。
ところが社長の大学の同級生で銀行員とかいふ怪しげな人が来てから会社の雰囲気が一転した。社長が個人で銀行に借金を抱へ断るなら返済しろと言はれたらしい。その次に大手の造船会社や鉄鋼会社から出向で来るようになつた。出向で来ても今までの給料は払へないから差額は所属会社が負担する。造船会社の労組(造船重機労連加盟)からその人宛に郵便物が来たのを見て、給料の差額を受け取る労働者よりその分がない中小労働者のことを考へるべきではないのかと連合加盟労組の偽善に驚いた。

十一月三十日(金)「その次に来たもの」
出向者はそのまま転籍で受け入れてもよいし期間満了で帰してもよかつた。造船会社の人は二年程で帰り、鉄鋼会社の人は受け入れた。この時代はまだよかつた。その次に悪夢の時代がやつて来た。取引先のコンピユータ会社から転籍で来るようになつた。
或る人は入社後システム部長になつた。しかし数年後に事務部門に移り人事の責任者として団体交渉を拒否するから都労委に申し立てる事件に発展した。前任者はきちんと団交を二回行つた。
別の天下り者は昨年事業所長になつたが突然私の仕事を取り上げた。だから中労委ではその件を再三取り上げ一ヶ月前の団体交渉でも取り上げた。この人は今年になつて事業所長を降りて新卒面接や大学就職課での説明をしてゐるがそれは私が十年前に始めた仕事である。鹿児島出身の経理部長が後に事務本部長になり、技術が判る人を面接に加へたいといふ発案で私が担当するようになつた。私が十年前に始めたことをなぜ後から入社し給料を私よりはらか余分にもらふ人が今ごろ始めるのか。
新聞で玉突きリストラの記事を見たのは今から十五年前だらうか。大手から押し付けられた人の代はりに今居る人がリストラされるといふ記事である。その後十五年経つが改善はされずますます悪化した。日本の大手新聞社はすべて分割し中小の視点に立たせる必要がある。今回のシロアリ民主党の増税騒ぎも根は同じである。大手のシロアリにせ労組とマスコミの圧力に屈した。

十二月一日(土)「無責任なマスコミ」
会社が従業員の使ひ捨てをするようになつたのは、マスコミにもその責任がある。今や終身雇用は終つたなどの記事を載せるから、そのつもりになる経営者が出てくる。大手マスコミは終身雇用は全然終つてはゐない。大手の他の業界だつて希望退職を募つたといふ話が一部にあるだけで終つてはゐない。そんな連中がなぜそんな記事を書くのか。
中小は雇用がますます不安定になつた。こんな馬鹿な話はない。高速道路を低速で走る車両は更に速度を落とさせ高速で走る車はそのままだ。社会にとりこれほど危険なことはない。

十二月二日(日)「諸悪の根源は政治屋、ニセ労組、マスコミだ」
マスコミが大手企業の視点で記事を書き続けるから、大手企業に就職しないと敗北者であるような印象を国民に与へた。それが中小労働者の独身者を増大させた第一の原因である。
今から二十年前までは中小企業も個人商店も違ふといふ意識はなかつた。悪いのは連合と称するニセ労組である。労組が必要なところに労組はなく、労組の不要なところに労組がある。企業別労組だから人員の入れ替はりが行はれなかつた。これが第二の原因である。
二十年前から失業者が増大し再就職が難しくなつた。二十五年くらい前に富士通の関係会社に勤務してゐたときは、優秀な人ほど早く転職する傾向にあつた。国民の転職権を認める政策、つまり失業者を出さず求人先を一定量確保することは政治家の責任である。欧州では失業者が大飯といふが、そのための対策が社会にある。日本は政治屋、官僚、マスコミが都合のよいところだけを真似するから駄目になつた。これが第三の原因である。

今回退職したAさんの文書を整理するうちVAXのアセンブラの英文マニユアルがあつた。VAXはミニコンと呼ばれ、多くの企業が研究所に導入した。当社が多くの大企業を顧客に持てたのはVAXのおかげだつた。その後PCの発展でVAXは消滅した。PCはどのIT会社でも扱へるから技術者の単価が暴落した。そもそも技術者の単価といふ概念自体が間違つてはゐるが。
アセンブラもC言語に置き換はつた。私はずつとPC系だからアセンブラはインテルの8086とモトローラの6809が得意だつた。VAXのマニユアルを見るとモトローラの6809とそつくりである。C言語が出てきたときに富士通の電算機事業本部でも多くの課長、技師補クラスが「こんなものは使ひ物にならない」と批評した。私もさう思つた。しかし十年でアセンブラを放逐した。C言語は機種を問はず共通だから、技術者なら誰でも使へる。IT業界の一つの時代が十五年前に終つたことを痛感した。(完)


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