二百九十九、京都大学助教小出裕章先生の講演

平成二十四年
八月十二日(日)「小出裕章が語る---原発のない世界へ」
「小出裕章が語る---原発のない世界へ」といふ題字とともに小出先生の写真の載つたパンフレツトが労組の会議で配られた。その集会が本日の午後、江東公会堂で開かれた。われわれの組合からも数名が参加した。
呼びかけ団体は、全港湾、国労、全日建運輸連帯、全国一般(全労協)、東清掃、東水道、東京都労連である。司会はわれわれの組合とも馴染みの深い東京東部労組であつた。
小出先生のことは今日の集会で初めて知つた。二十五年くらい前の宇井純氏とよく似てゐる。宇井氏は東大助手のときに新潟水俣病で被害者側に立つた為に昇進を閉ざされて万年助手になつた。小出先生も京都大学原子炉実験所の助手のときに原子力発電を批判したため万年助手となつた。その後、助手は助教と名称を変へたため京都大学助教として現在に至る。

八月十三日(月)「0歳児は31人に1人がガンになる」
小出氏の講演の要旨は次のとおり。
・一九四五年七月十六日(ポツダム会談の日)に米国ニユーメキシコ州の砂漠での原爆実験。このときは本当に核爆発が起きるかだうか皆判らなかつた。広島原発のキノコ雲、原爆投下前の航空写真。多くの人が住んでゐた。投下後の写真では何も残つてゐない。中心から離れた人達はすぐ死ねなかつた。避難した人達の写真で、これらの人達もほとんどがすぐなくなり、生き残つた人たちは後遺症に苦しんだ。
・広島原発のウランが800g、100万KWの原子力発電所が一年運転するのに消費するウランがその1200倍の1t。従つて生成される核分裂生成物の量も原爆の1200倍、チエルノブイリでは1200倍のうちの2/3くらいが放出された。
・原発は機械で、壊れない機械はない。原発を動かしているのは人間で、誤りを犯さない人間はいない。原子力推進派の取った対策は、原子力発電所や核燃料施設は都会には作らないことにした。
・福島原発事故で、広島原爆168発分が大気に放出された。これは日本国政府のIAEAへの報告書なので、本当はこの2倍か3倍だらう。海水中にもこれと同じ量が放出された。
・私の願い、1.子どもを被爆させない、2.一次産業を守る。
子どもは被爆に敏感。全年齢平均で3731人がガンになる放射線量のときに、0歳児は15132人がガンになる。30歳では3855人、55歳では49人。事故のときの避難指示(子どもを含む)は20ミリシーベルト/年。この被爆量だと0歳児は31人に1人がガンになる。


100%同感である。日本が原爆を非難しなければ世界は非難できない。ところが米国の顔色を伺ふ連中が多くなつたため、原爆を批判しない人が多くなつた。第一次産業を守るといふ意見も賛成である。

八月十四日(火)「東電労組委員長のみにくい発言と関電労組の悪質な行為」
労働組合の集会といふことで、東電労組と関電労組のみにくい言動も紹介してくれた。

東電労組委員長新井行夫(2012年5月29日)「裏切った民主党議員には、報いをこうむってもらう」「(東電に)不法行為はない。国の認可をきちっと受け、現場の組合員はこれを守っていれば安全と思ってやってきた」
中川おさむ衆院議員(大阪18区)が2012年6月12日に開かれた院内集会で公表。関西電力の労組が「大飯原発再稼動問題で政府に慎重な判断を求める署名」に名を連ねた民主党議員に対して「署名を撤回するように」と求め「さもなくば次の選挙は推薦しない」と脅した。」

特に許し難いのは東電労組委員長の新井である。これだけ国民に迷惑を与へておきながら民主党議員を恫喝した。東電を倒産させなかつたのも、消費税増税をごり押ししたのも、かういふみにくい連中の圧力が原因であらう。企業別労組は労組ではない。企業と一体となつた圧力団体である。次の選挙はなぜ東電を倒産させなかつたのかと、東電労組委員長のみにくい言動を前面に出せば、増税賛成派を全員落選させることができる。

八月十五日(水)「セシウムの入つた米」
第一次産業を守るといふことで、年齢の低い人はセシウムの濃度の低い米、年齢の高い人は年齢に応じて高い米を食べるようにすればよいと話された。これは科学者として当然の提案である。あとは年齢を誤魔化して或いは余分にカネを払つて、濃度の低い米を買ふ人をどうするかだとか、米を避けてパンを買ふ人をどうするかといふ政治の問題である。2500人に1人ガンになる人が増へるだけですと説明すれば皆が納得する。その後「セシウムの多い米は東電の社員食堂で使つてもらひたい」と冗談を言ひ、会場はなごやかな雰囲気だつた。ところが「毒を食べさせる気か」と野次を飛ばした人がゐた。どこの組合か判らないし判つても個人で言つたことだから組織は関係がない。
ところが閉会の挨拶で或る公務員現業組合の委員長が、あの小出氏の発言は不適切だ、東電も同じ労働者だと発言した。これであの野次はどこが言つたか判つたし組織問題になつた。小出氏は東電労組委員長が民主党に圧力をかけた件や、福島原発で危険な作業は下請け、孫請け、ひ孫請けがやつてゐることも指摘した。それなのになほ東電労組が仲間だといふのか。

八月十七日(金)「私と小出氏の共通点」
もしウランが永久にあるなら、人類は今の二倍も三倍も安全の為に経費を掛けた上で原子力を使ふ価値があるかも知れない。しかしウランはすぐなくなる。それなのになぜこんな危険なことをやるのか。わずか一世代の贅沢だけのために人類を滅亡させようとする。これほどの犯罪はない。これが原発反対の本質である。
小出氏も講演でウランはすぐ使ひ尽すと言はれた。もう一つ小出氏は、第一次産業を守ると言はれた。これも同感である。私と小出氏は根本の発想が同じだから、この二つで共通するのだと思ふ。

八月二十日(月)「小出氏と同じ学科出身者が大地震のときいつしよだつた」
小出氏は東北大学工学部原子核工学科を卒業し大学院の修士も修了された。偶然去年の大地震のとき、鉄道が止まつたから私は夜、会社の会議室で6人くらいでテレビを見て時間を過ごした。この中に東北大学工学部原子核工学科の修士の人がゐた。私が二十年前に今の会社に転職したとき既に取締役で、その後社内取締役は全員部長に降格になつた。会社の業績が悪く倒産の危険があつたときに私財提供をしなかつたのが原因であらう。社長がワンマンになるのは、業績が良すぎるときと倒産の危険を過ぎたときである。資本主義の欠陥である。この部長は後に外資系に転職した。ところが倒産し数年前に戻つてきた。昨年定年退職したから学部と修士時代は小出氏の一年後輩であらう。
テレビのニユースは同じことの繰り返しだから自分の机に戻りなぜ核分裂を止めたのに発熱するのかを考へた。散発的に核分裂が起きるためだらうか。いろいろ考へたが放射線以外はあり得ない。核分裂した物質は大量のアルフア線、ベータ線、ガンマ線を放出しながら早ければすぐ、遅ければ数億年後に安定する。アルフア線は高速のヘリウム原子核、ベータ線は高速の電子である。どちらも停止するときに熱を出す。この熱で核燃料が溶解するのだつた。
会議室に戻り原子核工学の修士に質問したが、核分裂は急には止まらない、と繰り返すだけだつた。数日後に再び質問した。これだけニユースで騒がれたから今度は大丈夫だと思つたがやはり核分裂は急には止まらないといふだけだつた。これは東北大学が悪いのではない。長いことソフトウエアの会社に勤務すれば原子核のことは忘れる。だから菅直人が原子力の専門家だと言つて福島第一原発に乗り込んだのは本当によくない。菅直人はこの程度の男だから、すぐ財務省にだまされ消費税増税を叫び始めた。

八月二十一日(火)「小出氏の講演の優れてゐる最大の理由」
小出氏の講演の優れた最大の理由は、始めに原爆を紹介し、人の住んでゐるところに落とした、と米軍を非難するところから始めたことだ。瞬時に亡くなつた人たちは幸運だつた。被爆した人たちはほとんどが数日以内に亡くなり、生き残つた人たちは後遺症に苦しんだ。なぜ日本の原子力関係者はそのことを言はないのか。
助教といふのは昔の助手である。しかし或る分野では日本の第一人者といふ優秀な人もゐる。小出氏もその一人である。(完)


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