二千七百十二(朗詠のうた)昭和天皇崩御が露わにした日本社会の構造
乙巳(西洋発狂人歴2025)年
四月八日(火)
東洋経済のホームページに
「触れてはいけない存在」昭和天皇崩御が露わにした日本社会の構造
が載った。奥泉光 さんと原武史さんの対談である。
奥泉 1989(昭和64)年の昭和天皇の崩御、あのときの異様な雰囲気はたいへん印象に残っています。戦後の天皇制について私たちが十分な理解をしてこなかった事実が露呈したと痛感しました。
このことを考えるにあたって、戦後昭和を3つの時期に分けてみます。(中略)①占領期から復興期(1945~1955年)、②高度成長期(1956~1973年)、③石油ショックからバブル期(1974~1989年)そして改元。
社会の3つの層──支配的エリート層、中間層、一般大衆層──について言えば、支配的エリート層は、吉田茂に代表されるような、日本人の宗家としての天皇家のイメージで象徴天皇制を捉え、大衆は、内実ははっきりしないものの、戦前に引き続く支持を天皇に対してしていて、これをGHQは占領統治に利用することになった。一方で戦前戦中に最も強く天皇崇拝を内在化していた中間層は、アンチ天皇に反転する傾向が生じた。
一億総中流と云はれた時代である。すべてが中間層だが、ここで云ふ中間層とは、収入ではなく知識人のことだ。
私は1956(昭和31)年生まれなので、物心がついたときには高度成長期のただ中だったんですが、3つの層の枠組み(中略)は、高度成長期くらいまでかなと思います。(中略)70年代半ばくらいから、3つの層の区分けはそれほどくっきりしなくなっていった。
天皇について言えば、かろうじて存在していた高度成長期の中間層は、私の印象としては、濃淡はあれ基本的にはアンチ天皇制だったと思います。もちろん逆の主張をする人たちも一部にはいましたが。他方、一般大衆はやはりよく見えなかった。
その後、石油ショックからバブル期に入って、中間層と大衆の境界がはっきりしなくなるにつれて、人々は天皇のことをそもそも考えなくなった気がします。天皇の国事行為はもちろんあって、外交に関わる活動もありましたが、見慣れたいつもの風景というか、誰もとくに気に留めるふうはなくて、70年代半ば以降、天皇の存在感は薄れていったのではないかと思います。
ここまで同感だが、世代間の差がある。中間層は年齢も中間が多かった。高齢層は支配層だから。すると、上の世代みたいに昭和天皇への愛着が無い。上の世代は、例へば「天皇陛下は、本当は頭のいい方なのだねえ」と云ったりした。
ところが、89年の崩御の際、(中略)依然として天皇がある種のタブーとして存在していることに気づかされた。
これは上の世代がまだ支配層だったことが大きい。
奥泉 一君万民のイデオロギーをリードした戦前の中間層に対して、1960年代以降は天皇制否定を基調とする新しい中間層が生まれていた。戦前と戦後はかなり対照的だと言えますが、実際に天皇制はなくなったわけではない。とはいえ、天皇の帯びる聖性は薄れていっていると感じていたんですが。
次に、新聞業界の悪弊がわかる発言が出てくる。
原 当時、社会部のデスクだった人たちは、1968(昭和43)年か69年くらいに新聞社に入った世代でした。当時はまさに大学が一番荒れた時代です。だいたい学生運動を大学でやっていて、一般企業はどこも採用してくれないから新聞社を受験して入ったという人が多かったのをよく覚えています。だから当然、反天皇が根底にある。
しかしその上の、取締役や社長は、世代も上だった。もう一つ、今でも朝日、東京、共同は偏向がひどいが、当時の人たちが似た人たちを採用したからではないか。当時は、保守と革新だったが、革新は大賛成だ。だが社会破壊や利己的な人は困る。上野千鶴子の「私たち団塊の世代は物わかりのよい老人にはなりません。暮らしを管理されたくない、老人ホームに入りたくない、(中略)上の世代のように家族の言いなりにはなりません」が典型だ。
奥泉 昭和から平成になりますね、そこでどう変化したか。同じように天皇の聖性、天皇の身体に対する不可触の感覚は持ち越されたと考えてよいのでしょうか。
原 ちょっとそれは違うような気がします。(中略)たとえば肉声。昭和天皇の肉声には独特な抑揚があった。(中略)それが代替わりして、急に声が軽くなった感じがしたわけじゃないですか。それで平成の天皇は最初、ものすごく評判が悪かった。
ここでも世代間が大きい。上皇様の世代は、若いときに終戦を迎へ世の中が一変したため、その前の世代みたいな実直さが無くなった。悪く云へば、ずるさ、利己的なところがある。これは世代全体の平均を云ったのであって、上皇様とは無関係だが、小生を含む当時の若年層が、中年層と高年層を並べて見たときに、さう感じてしまふ。
負け戦悪き障りは親と子が違ふ考へ世の中壊す(終)
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