二百二十八、新卒者はソフトウエア業界に就職してはいけない

平成二十四年
一月十一日(水)「人身売買」
私はソフトウエア業界以外にもゐたことがある。営業と技術者が顧客を訪問したとしよう。営業は頭が悪いから言ふ事が変だ。そこをうまく補正するのが技術の役割である。営業は営業で務めを果たすから頭が悪いと思つてもそれは言はない。
これが普通の会社である。ところがソフトウエア業界は違ふ。営業と技術者がいつしよに客先に行くと、営業がまづ「あのさ、面接ではJavaは出来ると言へよ」などと偉さうに振る舞ふ。技術者は商品だからである。
新卒でソフトウエア業界に入るとこれが当り前だと思つてしまふ。そして三十歳くらいで使ひ捨てになる。使ひ捨てになるのは技術者が悪いのではない。人身売買をするソフトウエア業界が悪い。しかし他の業界を知らないから判らない。

一月十二日(木)「使ひ捨て産業」
私が今の会社に転籍したのは十九年前である。その直後に本社の総務部長が突然、第四営業部長だとかになつた。毎週のやうに、売り上げが幾らか、粗利は幾らかと言はれ続け、数ケ月で退職した。前総務部長の年齢は五十五歳かそれ以上だから、再就職先があるのか心配になつた。
それから十九年。私も総務部長の二の舞にならないやう気をつけなくてはいけない。

一月十三日(金)「派遣と偽装請負が悪い」
社内で仕事をすれば、組織で仕事をするから、人員配置をどうする、六十歳までの仕事の割り振りをどうするなど人事部門の仕事は大変である。ところが入社した人間を客先に放り込むだけだから人事は楽である。
放り込み先のなくなつた技術者は仕事を与へなかつたり退職勧奨を繰り返す。これがソフトウエア業界の実態である。最初からソフトウエア業界に就職すると世の中はかういふものだと思つてしまふ。しかしこれはソフトウエア業界だけである。

一月十四日(土)「大学の就職課はソフトウエア業界と派遣、偽装請負会社を紹介するな」
大学によつては、ソフトウエア業界や派遣、偽装請負会社は紹介しないところもある。例へば学習院大学は、社長と人事採用センター長の両方が学習院大学卒業といふ会社でさへさういふ会社は学生に紹介しない。さすが天皇様や皇族方の卒業された大学である。
これが就職課の正しい姿だ。卒業生が30歳や35歳で退職するやうな業界を紹介してはいけない。
高校生諸君。大学を選ぶときは、就職課がソフトウエア会社を紹介するやうなところを受験してはいけない。卒業生がソフトウエア業界に就職するところも受験してはいけない。

一月十五日(日)「厚生労働省の官僚的な対応」
ソフトウエア会社で、五年くらい前に特定派遣の届出をしたところが多い。あの当時、偽装請負が問題になつた。だから厚労省の行政指導で多くの会社が届け出た。しかし実態はまつたく変はらない。派遣は極めて少ない。多重派遣や事前面接は違法だからだ。ほとんどが工数請負である。業界内では「なんちやつて請負」といふ言葉さへある。
大手のなかには派遣で契約してほしいといふところが増へた。これは厚労省の功績である。しかしまつたく喜べない。偽装出向といふ新作が出てきた。出向させてから派遣に出す。技術者の待遇はまつたく改善されない。
偽装出向ではない正社員の派遣も問題だ。普通の派遣は予め料金表を決めて人間が特定されずに派遣しなくてはいけない。しかし実際は商談ごとに料金を決めて事前面接を経て派遣に出す。事前面接は違法だから面談と称することも多い。
厚労省は労働者保護の立場に立つてゐない。違法だと外から言はれないやう取り繕ふだけだ。

一月二十日(金)「偽装正社員」
一つのなんちやつて請負や派遣業務が終了しても次の仕事が見つからないと待機状態になる。会社に出勤して一日勉強してゐる。あれでは効果が上がらないから皆でソフトを開発し、社内で使つたり販売したらどうかと前に提案したが無視された。
リーマンシヨツク以降待機者が激増した。仕事を与へないと一箇月から数箇月で精神的に不安定になり自分から退職する人が多い。仕事の配分は会社の責任だ。なんちやつて請負だつて契約上は請負なんだから、忙しい人の手伝をさせたらよいではないか。超多忙な人がゐる一方で仕事のない人がゐる。厚労省はもつと取り締まれ。
偽装請負の要員は正社員とは言へない。偽装正社員である。

一月二十八日(土)「大手の子会社にも就職してはいけない」
大手の子会社なら就職してもよいのではないかと考へる学生もゐよう。しかし大手の子会社も事情は同じである。私が大手コンピユータメーカF社の関係会社にゐたときに、Fの従業員と同じやうに「Fニユース」といふ小冊子が毎月配布された。その中に、ソフト子会社を作る理由はソフトハウスが儲けてゐるのでFでもやらうとしたことと、秘密が外部に漏れないやうにするためだと書かれてゐた。ソフトハウスが儲かつてゐるから真似をしただけである。
ここから先はすべての大手の関連会社に言へることだが、ソフトハウスが不景気になれば関連会社も同じである。親会社から仕事を受注できる代償に、使ひ物にならなくなつた人間を押し付けられる。決して有利といふことはない。

一月二十九日(日)「ソフトウエア業界がこのやうになつた原因」
ソフトウエア業界は昔からこれほどひどかつた訳ではない。社内で開発し市販してゐる独自製品がある会社が多かつた。開発の下請けも、社内に金額の高いF社やN社のコンピユータが設置され、従つてよそのソフト会社にはできなかつた。そう言へば私が18年前に今の会社に転職したときも、一年中定温に保たれた部屋に大きなコンピユータがあつた。
その後、仕事はほとんどがパソコンになつた。どこのソフトウエア会社でもできる。偽装請負の仕事ばかりになつた。偽装請負といふ逃げ口があるために、ソフトウエア会社は新規事業に進出せず、下請けだらけの異常な業界になつた。
新卒者はソフトウエア業界に就職してはいけない。社会とはかういふものだと思つてしまふ。(完)


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