一四六、鉄道会社は少しは世の中の役に立て

平成二十二年
十二月八日(水)「堕落するJR」
二十三年前に国鉄を民営分割したのは正解だった。それまでの国鉄は組織が堕落していた。ただし国労への不当労働行為は日本の鉄道史に重大な汚点を残した。それも今年になってやっと和解した。

JRは発足して二十三年。かなり堕落が目立つようになった。まずは十二月のダイヤ改正でJR東日本は「東京メガループの利便性向上」という変な外来語を用いた。東京メガループなんて誰にもわからない。だからJRも「他の鉄道会社との結節点を多く持つ東京圏の環状線群のことで、武蔵野線、京葉線、南武線、横浜線を指しております」とわざわざ注釈を入れた。注釈を入れないと意味の通じない外来語は使うべきではない。公共機関が堕落するとカタカナ語を多く用いるようになる。これがここ二十年ほどの傾向である。JRは民営化されたとはいえ公共性の強い機関である。

十二月十二日(日)「昭和三十年代の列車名」
昭和三十年代の列車名は世の中の役に立っていた。上野駅を発着する列車だけでも次のようなものがあった。
「津軽」「十和田」「八甲田」「おいらせ」「みちのく」「男鹿」「鳥海」「出羽」「羽黒」「蔵王」「きたかみ」「陸中」「ひめかみ」「青葉」「松島」「みやぎの」「たざわ」「あぶくま」「ばんだい」「いいで」「しのぶ」「あがの」「あいづ」「奥久慈」「吾妻」「ときわ」「そうま」「なすの」「日光」「だいや」「わたらせ」「しもつけ」「つくばね」「佐渡」「弥彦」「越路」「越前」「白山」「黒部」「志賀」「信州」「妙高」「草津」「あかぎ」
列車名を見るだけで地理の勉強になるし、行ってみたくなる。だから地域振興にもなった。

十二月十三日(月)「醜い列車名」
今はどうか。時刻表から拾ってみると、 「リレーつばめ」「マリンライナー」「ソニック」「ドリームにちりん」「オーシャンアロー」「タンゴエクスプローラー」「タンゴディスカバリー」「ニセコスキーエクスプレス」「フレッシュひたち」「スーパービュー踊り子」「(ワイドビュー)しなの」「サンダーバード」「おはようエクスプレス」「ホームエクスプレス阿南」「トワイライトエクスプレス」
JRはこういう変な名前を付けていいと思っているのか。公共事業でなければ存在できない堕落者が命名したことが露骨に表われている。

十二月十四日(火)「国鉄時代に見る醜い列車名」
醜い列車名は国鉄時代にその萌芽が見られる。中央本線に「アルプス」「白馬」という列車があった。或るイギリス人が飛騨、木曽、赤石の三山脈を日本アルプスと呼んだからといって日本人が真似をする必要はない。しかし観光や産業の思惑もありここでは不問に付す。あえて指摘するとすれば、列車名の下には小さくローマ字が書かれている。「アルプス」はAlpsと英語で書かれていて、他の列車とは整合がとれない。Arupusuと書いて何ら問題はない。ローマ字は日本語なのだから。
白馬岳は「しろうまだけ」と読むのが正しい。地元の二つの村が合併し白馬村(はくばむら)と名乗った。これは正式名に遠慮したとも考えられる。例えば山梨県に塩山(えんざん)という地名があるが、これは地元の塩山(しおのやま)に因んで付けた町名(のちに市名)であった。昭和四〇年あたりまでは伊藤博文を「いとうはくぶん」と読む人がいたように訓読みと音読みの敷居が低かったのであろう。
白馬村はあってもよいが「白馬(はくば)」という列車は作ってはいけない。

十二月十五日(水)「国鉄の官僚主義」
急行が名勝、歌枕、山川を用いるのに対して、特急は「こだま」のように速さを表わしたり「つぱめ」のように鳥の名前を用いた。だから地域性は薄かった。しかし「あさま」「あずさ」に見られるように昭和四〇年台から特急も地域性を持つようになった。この時点で国鉄は列車名の基準を変えるべきだった。あるいは停車駅の少ない急行を設定して、本来の特急の乗客を吸収すべきだった。国鉄という組織は赤字を出しても上層部が責任を取らないくせに、カネを取れる客からはカネをたくさん取ろうという傾向があった。私鉄と競合する区間での割引がいい例である。その分を競合しない区間の乗客が負担することになる。官僚主義者というのは正直な人に損をさせるとんでもない連中である。

十二月十九日(日)「真の社会活動」
JR各社は環境プロジェクトや地域振興など社会に役立つ活動を行っている。これらは一つにはカネを使って企業イメージを高めるためであり、二つには駅ビルなどJRの利益向上のためである。
しかしカネを使ったり利益向上の活動は真の社会活動とは言えない。真の社会活動とは列車名の工夫などカネを使わず社会の役に立つことである。同じ行き先の列車に同じ名前をつけなくてもよい。朝、昼、晩で分けるなどの方法で昭和三十年代のような列車名をたくさん使用すべきである。(完)


メニューへ戻る 前へ 次へ