千四百十九(その四) 経済マスコミの偏向報道「働かないおじさん」を批判
庚子(仏歴2563/64年、西暦2020、ヒジュラ歴1441/42年)
三月七日(土)
昨年辺りから「働かないおじさん」など経済系マスコミの偏向報道が目立つやうになった。その中の一部は、会社の人事政策が悪いとするものもあるが、多くは労働側を批判するものだ。
大企業の中高年正社員を労働者と呼べるかは疑問だ。しかしこの問題を放置すると、数値合はせで非正規雇用者や下請け企業が犠牲になる。だから、反論することにした。
まづ欧米では、経営者は簡単に解任される。取締役や管理職も簡単に解雇される。そのやうな状況が労働者にも及ぶのであれば、まだ話は分かる。しかしさうではない。上層部は無傷で、下層に行くほど犠牲が多くなる。こんな人減らしは、絶対に阻止すべきだ。

三月八日(日)
会社は、指揮命令系統がはっきりしてゐる。だから「働かないおじさん」がゐるとすれば、それは会社が悪い。三年待って成果が出せないとターミネーションだのと云ふのは、個人に丸投げだから更に悪い。
個人に丸投げだと、上司は何も云はなくなる。もし指導して結果が悪かったときに、指導が悪かったと云はれかねないからだ。丸投げ組織の上司は、上司ではなくターミネーション執行係でしかない。かう云ふ組織では、上司の上司もターミネーション執行係だ。その上司も同じだ。これでは会社の業績が伸びない。

かう云ふ組織は、もう一つ問題がある。数値だけを合はせるやうになる。本来は来年度の売り上げなのに今年度に計上する。経費を無理に削減するから来年以降につけが回る。更に悪いことに、社内の人間関係がめちゃくちゃになる。

三月十一日(水)
社内のコミュニケーションは大切だ。そしてコミュニケーションは、上からしか取れない。従業員が社長に「社内のコミュニケーションは大切ですから、お互ひコミュニケーションを取りませう」と云ふことはあり得ないからだ。
そして重要なことは、上が下をターミネーションしようと考へた途端、上からのコミュニケーションさへ取れなくなる。ターミネーションを考へてはいけない第二の理由はここにある。
私の場合、専門学校教師時代の悪い噂を流されたことを前回述べたが、もう一つ悪い噂を流された。前の会社では、社長と、ナンバー2ナンバー3の仲が悪かった。ナンバー3が社内のほとんどを手懐けた。ナンバー2はナンバー3と結託し、社長を追ひ出さうとした。ナンバー2は、(社長が退陣しないときは)会社の息の根を止めてやる、と息まいた。株式は社長がほとんどを所有するから、追ひ出すなんてできるはずがなく、事実二年後に反乱者たちは全員退職し、会社はずいぶん小さくなったが存続してゐる。
このとき反乱軍に加はらなかった私が邪魔になり、ナンバー2は社長に私を追ひ出せと迫った。社長も私を追ひ出せばナンバー2が味方になってナンバー3と対抗できると甘い考へを持ち、私を今の会社に転社させた。
ナンバー2と、私が転職した会社の有力者は仲が良かった。そして悪い噂を流された。更にもう一つあった。私は、或る石油会社で派遣の仕事をしたが、突然担当ではない営業Aがひょっこり来て私の顔を見るなり驚いたやうに「まづいな」と帰った。この件は会社に一応報告した。
実は担当営業とAが受注で競合し、譲ってもらふ代はりに別の案件を回したのだった。そんなことは知らないから報告するのが当然だ。それなのに担当営業が怒り「いやあ、残業手当を払わなくて済むから夜11時まで残業してくれると儲かって笑ひが止まらないや」と私に聞こへよがしに言ひ、その翌月には「ここは今までに8人送り込んで2人しか残ってゐないきつい仕事だからなあ」と捨てぜりふを言った。
この直後に、妻の出産があった。石油会社の担当者が「俺の子が生まれた時に、忙しいから休暇は取らなかった。今は忙しいから休暇は取るなよ。不満があるなら会社に訊いてみろ」と言った。私は云はれたとほり会社に電話をして、事務の女性から出産の特別休暇の日数を訊いて取得した。云はれたとほりにしたし、就業規則のとほりにしたのに、石油会社の担当者が文句を言って8か月で終了の連絡があった。今思へばよくあんな劣悪な仕事を8カ月も我慢したものだ。今なら2週間が限度だ。
私は、職業安定所に行って、事業所が派遣の届け出をしてゐないことを確認した(この当時は事業所ごとに職安へ届け出が必要だった。その後、会社ごとに都道府県労働局になった。更にその後、届け出制の特定派遣は廃止された)。そもそも私は派遣労働者として雇用されてゐないし前回の仕事が派遣だと通告されてゐない。
これ以降、派遣は拒否した。しかし会社は派遣の仕事しか持ってこないため間接部門に移り現在に至る。この件は、社内コミュニケーションが取れれば、今まで長時間残業に手当を付けなかった未払ひ分を支払ふとともに、担当営業の暴言迷惑手当として50万円払ふ、くらいで妥結できた。

三月十三日(金)
東芝エネルギーシステムズの技術者が三回の退職勧奨に応じなかったところ、総務部京浜総務部に新設された「業務センター」に配属され、工場や物流倉庫で運搬や仕分けなどを命じられた。そのため最近、横浜地裁川崎支部に訴訟を起こした。
泣き寝入りする人が多いなかで、これは立派だ。欲を云へば、裁判ではなく労働運動で対抗したほうがよいが、日本では労働運動が少数派になってしまったから、仕方がない。
それにしても四十年前の沖電気争議と言ひ、今回の東芝と言ひ、電機業界は悪質だ。NEC玉川事業所は、共産党系の労働者が解雇されたが、後に職場復帰した。これが唯一まともな話か。

三月十四日(土)
不当解雇があったときに、労働側が取る方法に「どんどん労働債務が溜まりますよ」と主張することがある。一年後に解決したとする。私は、当該労働者が退職を強く希望しない限り職場復帰以外では妥結しないが。解決したまでの給料は一括で支払はせる。これが労働債務だ。
社内で、退職勧奨をされたり物流倉庫に回されたときは、これも労働債務だ。後日の交渉で「こんなことをされたのだから、退職勧奨迷惑手当として50万円、物流倉庫勤務手当として100万円は出してもらはないと合ひませんよ。どんどん労働債務が溜まりますよ」くらい云ふべきだ。
物流倉庫に回されたときは、緊急業務のときにストライキを打つ方法もある。退職勧奨の業務はほとんど緊急性が低い。しかし1%くらいは緊急度の高い仕事が来る。さういふときにストライキを行ふ。このとき手順が大切だ。まず労組に加入する。団交を何回か行ふ。緊急性の高い仕事が来たとき、直前に通告しストライキを行ふ。

三月十七日(火)
労働側が裁判を起こすときは、判例がどう使はれるかを考慮する必要がある。特殊な事情で一部敗訴したとする。経営側の書籍は「xxxの場合でさへ、労働側が敗訴する判例もある」と書き立てるだらう。
法律に詳しい人なら特殊な事情が何かを理解するが、経営者の中には「解雇してもいいんだ」と短絡させる人もゐる。今回の特集を組んだ理由は、従業員のほとんどが辞めても会社を改革しましたといふ記事が昨年末辺りに現れた。その後、「働かないおじさん」だの悪質な記事が続く。
戦後の労働運動は、大変な努力とともに解雇4条件などの判例を勝ち取ってきた。この流れを逆転させてはいけない。(終)

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