千三百四十六 すべての組織はカルトになってはいけない
己亥、西暦2019、ヒジュラ歴1440/41年、紀元2679年、仏歴2562/63年
八月八日(木)
ハーバードビジネスレビューに
あなたの会社の文化はカルト的になっていないか
集団思考はイノベーションを阻害する

と題する精神分析学者で経営学者のマンフレッド F. R. ケッツ・ド・ブリースさんの執筆が載ったので、紹介したい。記事は最初に
アップル、テスラ、ザッポス、サウスウエスト航空……称賛を浴びる企業は強烈な文化を持っている。独自の企業文化は、従業員の仕事への意欲を引き出し、組織のパフォーマンス向上にもつながる。だが、会社の色に染まることを半ば強制され、多様性が尊重されなくなったら、それはカルトである。

アメリカは日本と異なり、転職が多いからカルトは発生しないと思ってゐた。しかし発生することもあるらしい。アメリカの場合は、転職が容易だから、万一就職した会社がカルトだった場合も、簡単に転職できる。
日本は終身雇用だからカルトが発生しやすい。企業別労組だから更に発生しやすい。それでゐて就職した会社がカルトだった場合に、転職がし難い。労働者保護の観点から、日本では絶対にカルトを許してはならない。
企業カルトの特徴は、従業員の「思考と行動」に対する経営陣の管理の強さにある。まず、採用のときに「適応性」があるかどうかでふるい分ける。入社後は、新人研修やインセンティブの制度を通して、右へならう必要性が刷り込まれる。それがコミュニケーション、意思決定、互いへの評価、雇用、昇進、離職の決断を導いていく。そうした企業風土では、個人主義は抑え込まれ、集団思考が優勢になる。

ここから恐ろしい話が出て来る。
一部のカルト的な企業では、職場が家庭や地域社会に取って代わり、こうした支援ネットワークから従業員を(時に意図せず、時に故意に)切り離してしまう。仕事中心の人生が奨励され、レジャーや娯楽や休暇の時間はほとんど残らない。

日本では、社会全体がかうなってゐないか。

八月九日(金)
企業がカルト化しかけているかどうかを、どこで見分けられるのだろう?
一番目は
言葉は大きな手がかりになる。一般に、企業カルトは帰属意識を強めるために、独自の用語を作り出す。たとえばディズニーでは、従業員を「キャスト」、顧客を「ゲスト」と呼ぶ。園内にいるときは「オンステージ」だ。アトラクションが故障などで停止したときのコードは「101」。

二番目は
さまざまな儀式も危険信号だ。(中略)何年も前、私がIBMに勤めていた頃、伝説的な初代CEOトーマス・ワトソン・シニア本人の依頼によるという、彼をほとんど神格化し、彼に捧げられた仰天すべき歌集を渡されたことがある。米国の最大手スーパーのウォルマートでは、ウォルマート・チアという全員参加のかけ声が、いまでも日課の一部だ。

日本企業についても記述がある。
ヤマハ発動機では1980年作詞の社歌がいまも歌い継がれ、精密機器メーカーの堀場製作所では社歌「Joy & Fun(おもしろおかしく)」が楽しげに歌われ、JR九州では昼休みに社歌「浪漫鉄道」を流している。

アメリカ企業でも
最近、米国のある一流テクノロジー企業の週1回の「集会」に出席した。ホールは参加者で埋め尽くされ、セッションの冒頭に全員が大声で企業の名を3回叫んだ。(中略)続いて、私を招待してくれたCEOが週間功労賞を発表し、受賞者は割れんばかりの拍手で迎えられた。まるでXX教福音派のリバイバル集会に来たようだった。表彰後のバーベキューにはほとんど全員が参加したが、皆、服装は(CEOと同じく)黒とグレーで揃えていた。

これについて
参加者の熱狂ぶりはたしかに感動的ですらあったが、翌週、何人かの管理職や従業員にインタビューしているうちに、ある疑念がわいてきた。(中略)彼らには会社以外の生活があまりないことが明らかになった。別居中の人や離婚した人も少なくなかった。ある幹部は、帰宅は着替えのためだけで、会社のウェルネスセンターの設備を利用して、ずっと職場にいるほうがいいとさえ言った。


八月十日(土)
だが、それは最終的にビジネスに悪影響を及ぼす。硬直したカルト的行動はイノベーションを阻害し、企業の将来を危険にさらすだろう。(中略)従業員が会社のビジョンを信じているのは、それを理解し賛同しているからなのか。それとも、信じることになっているからなのか。会社は、従業員が充実した私生活を送ることを奨励しているか。
同感である。雇用の移動が多いアメリカでもカルトが発生することが判ったことは大きい。そして日本ではカルトが発生しやすいことに注意が必要だ。
著者はオランダ人だ。例に挙げた企業はアメリカと日本のみで、欧州がない。欧州は労働運動に長い歴史があり、政権も、経営側政党と労働側政党が交互に与党になる。この二つがアメリカや日本と異なる。(終)

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