千三百三十九 印象に残った記事三題(「出世して取締役」の勘違い、観光客急増の飛騨高山、攻撃的なリーダー)
己亥、西暦2019、ヒジュラ歴1440/41年、紀元2679年、仏歴2562/63年
七月二十六日(金)
印象に残った三つの記事を紹介したい。まづは日経電子版のNikkei Styleに載ったカルビー元会長松本晃さんへの取材記事
「出世して取締役」の勘違い おかしな日本の企業統治
だ。前文で
プロ経営者の松本晃氏がカルビーに招かれてトップに就くと決めたとき、最も重視したのは経営の執行役と監視役の分離でした。経営陣と取締役会が互いに独立し、それぞれの役割をきちんと果たすというコーポレートガバナンス(企業統治)の概念は、資本主義経済ではごく当たり前の発想です。ところが、松本氏は「日本では、全然当たり前ではない」と指摘します。
そしてインタビューが始まる。
当時の「役員」には、仕事に専念するために執行役員になってもらい、取締役は辞めてもらいました。代わりに社外取締役を大幅に増やしたんです。
ここまではよくある話だ。この先
取締役と執行役では、どちらが偉いと思いますか。会社のかじを取る、ビジネスを進めるという意味では、執行役の方がはるかに偉いんです。取締役は、名前の通り取り締まる役、お目付け役です。場合によっては、会社のやり方に異議を唱え、改めさせる力を発揮するし、株主に対する重い責任も負っていますが、実際に会社を動かすのは執行役なんです。日本では長く、取締役のことを重役と呼んできました。だからサラリーマンは出世して取締役になるのが偉いと勘違いしてしまった。
なるほどと感心した。二年ほど前だらうか別の会社で、取締役は違ったタイプをそろへると云ふ記事を読んだとき、私はそれでは使ひ捨てになると勘違ひしてしまった。出世して取締役と云ふ世間常識に惑はされたのだった。同じタイプの人は、取締役にならなければいいだけだった。今回の取締役と執行役の分離は、それを更に進めるものだ。
七月二十七日(土)
JBPressに、ジャーナリストの姫田小夏さんが
観光客急増の飛騨高山から嘆きの声が聞こえる理由
と云ふ記事を書いた。観光客が来て、忙しくなっただとか、落ち着いて生活できなくなったと云ふ話ではない。その先だ。
飛騨高山では最近の外国人観光客の増加に伴い、宿泊施設が急激に増えている。(中略)「こんなに増やしてどうするんでしょうか」と困惑する声も聞かれた。(中略)こうした状況は、宿泊費にストレートに反映される。旅行予約サイトで飛騨高山の宿泊施設を検索すると、真っ先に出てくるのは、1泊素泊まり5000円や3000円といった特別サービス価格を打ち出す大手ホテルだ。(中略)価格競争に加えて「働き手が集まらない」という問題も抱えている。
この問題は、長い年月を掛けて築いた平衡状態を壊したことにより発生した。
「高山祭」は世界的に有名だが、名物となる「山車」の運営母体となる町内会会員が減少傾向にあり、山車の維持管理が困難になりつつあるという。(中略)宿泊施設サービスをはじめ飲食業や小売業などにかなりの新規事業者が参入していながら、文化継承の担い手は先細りするという問題が起きているのだ。
これも平衡を破壊したことが原因だ。
七月二十八日(日)
ハーバードビジネスレビューにデューク大学経営大学院助教ヘマント・カッカーさんの
攻撃的なリーダーが失敗すると厳しく追及される/支配型と信望型、2つのタイプを比較する
が載った。これによると
研究チームが立てた仮説は、ルール違反やミスにおいて本人の落ち度が不明確な場合(たとえば、税金の申告漏れが、本人に脱税の意図があったために生じたのか、税法が複雑なために生じたのか判然としない場合)、支配型リーダーは大きな責任を問われ、より厳しい処分を受けるが、信望型リーダーは「疑わしきは罰せず」の適用を受け、責任追及を逃れる、というものだ。
かうなる原因として記事は
支配型リーダーは自己中心的で非倫理的と見なされているから、ルール違反を犯したとき、悪意のない純粋なミスとして見てもらうのは難しい。これに対して信望型リーダーは、さほど利己的だと思われていないので、同じルール違反を犯しても、それは純粋なミスだったと説明したときに信じてもらいやすい。
第2に、信望型リーダーは利他的で、道徳的指針を持つことでも知られるため、不祥事を起こしても、さほど不正だとか、非倫理的とか、不道徳だと思われることがない。いわば、道徳の貯金が十分にあれば、漠然としたルール違反のショックを緩和できるわけだ。支配型リーダーには、こうした道徳的な経歴が十分にないため、その行動はより不正で不道徳と判断されやすい。
私は別の理由を考へた。支配型リーダーは部下の不満が溜まるため、不正があって監査が入ると、皆がリーダーの不正を告げるためではないか。支配型リーダーはあってはならない存在だ。信望なくして、組織は永続できない。(終)
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