千百四十四 避難訓練
平成三十戊戌
五月二十六日(土)
昨日はビル全体の避難訓練があった。互いに「お前はバカだ」「お前の云ふことはでたらめだ」と言ひ合ふ訓練である。あ、これだと非難訓練だ。さうではなく、火災が発生したと想定して階段を使ひ一階に降りる。年に何回か行はれ、前回参加しなかった人が優先なので、私を含めて周囲は誰も参加しなかった。
今回は初めて日本語のあと英語でも放送があった。しかしこれは問題がある。
まづ訓練が始まる前に、本当の災害ではないと予告放送があった。数十分して大地震が発生したと云ふ放送が訓練だと云ふ内容とともにあり、暫くして火災が23階で発生したと放送があり23階と24階は階段で一階に降りるやう放送があった。以上は日本語だけだ。
次に英語で23階と24階は1階に階段で降りるやう放送があったから、日本語が判らない人は本物の災害だと思って1階に降りるだらう。唯一助かったのは今回の英語の発音だと、英語を母国語とする人は辛うじて聞き取れ、それ以外の外国人は聞き取れないから、本物だと間違へる人は少ない。
日本人の英語は母音が多すぎる。母音を少なくすると子音が聞き取れない。だから息を強くださなくてはいけない。訓練は問題点を洗ひ出す目的がある。一回目の問題点を二回目に改善する。このことが重要だ。

五月二十六日(土)その二
改善点は、放送がいつまでも使へるのか。降りる対象者の階数を放送で指定するが、放送が壊れていつまでも待たされたら危険だ。放送は無線なのか有線なら通信線は火災に大丈夫なのか、火事で漏電して電源が切れることはないのか。これらを最初の放送で明らかにしたほうがよい。或いは入居各会社の責任者に予め伝へておいて、館内放送のあと室内に口頭で連絡するやうする方法がある。
火事のとき心配なのは延焼と煙だ。火事の程度と煙の状況は放送で説明すべきだ。避難階段は二つある。混雑が偏るときは空くほうに誘導すべきだ。
英語放送は必要なのか。日本語が判らない人の人数と階。社内で日本語が判る人から伝達できるのかできないのか。できないなら放送ではなく電話で個別に通告すべきではないか。
こんなことを云ふ理由は、災害のときこそ冷静にならなくてはいけない。東北大地震のときに私は、データをセーブしてパソコンの電源を切るやう周りに大声で言ったが、切った人はほとんどゐなかった。もっとひどい揺れなら机の下に避難するやう云ふが、あの程度だとパソコンだ。当時ほとんどがデスクトップPCだから、停電したらデータが消える。あのとき席を離れ廊下に座り込む人までゐて冷静ではない人が多かった。
総務部の誘導で少し離れた公園に行った。私は行く必要は無いと見たが指示に従ひ、暫くして集団で会社に戻った。会社の入口で、この先の公衆電話は使へることを言ったが、誰も向はなかった。私はきちんと公園出発前に調べておいた。本当に緊急なら輻輳を避けるため調べもしないが、あの震度だと東京は輻輳がないとみた。電話会社が公衆電話以外は制限を掛けたと云ふ前提だ。実家は地盤が弱いから電話を掛ける必要もあった。
災害のときはこれくらい冷静にならなくてはいけない。ところが英語の放送は思考を停止させる。美しい英語だと自然に耳から入る。余談だがまれに鉄道の社内放送で英語を母国語とする人の発音でも外国人にとり嫌な感じのときがある。あと駅名が変なアクセントの時がある。20社に1社くらいの割合だ。さては出演料を出し渋って変な外人を使ったな。さういふ発音は思考を停止させる。英語が判る人が理解できるとともに、英語が判らない人にも耳触りでない発音が必要だ。
以上をまとめると、英語で初めて行なったのは試行としてよいことだ。改善点として、今後英語で放送する必要があるか、日本語を理解しない人のゐる会社の把握と事前対策。英語で試行したこと自体は大成功だった。
訓練の参加者は、入居各会社に勤務する人のうち5%くらいだ。もし8割が参加したらどうなるだらうか。その前に或る階が火事になったとして、何階分避難する必要があるか。それらを考へると、全階ではなく2階づつ8割以上の参加者で避難すると、新たな改善点があるだらう。

五月二十六日(土)その三
たくさん階段を降りて足がガクガクだと話す他所の会社の人がゐた。私は毎日25階を往復する。降りるのが3分53秒、上るのが5分3秒。かつて通勤電車に冷房はなかった。この時代は皆が汗をかくから臭ひは気にならなかった。今は通勤時に汗をかかないから、汗の臭ひは禁物だ。
だから私は歩く前に腕、肩、胸、背中などを水道水で湿らせる。これだと25階上っても汗をかかない。途中の階で一回腕などに水分を補給してから再開することもある。前に携帯電話で時間を計測しながら上る人に遭遇した。数少ない同業者である。そのときは今までのペースを落とす訳にも行かず、二倍くらいの速度で追ひ越した。先日再びその人に会った。今度は追ひ抜く直前で私が途中の階でリタイヤし、水を腕などに補給の上でコースに戻り3階くらい上ったところでその人に追ひつく寸前でその人がリタイヤした。さうか、前回もあの人はあの階で降りた。
もう一つ、汗をかかない工夫がある。この時期から半袖を着る。ただし室内が寒いことがある。そのときは前にDellの展示会でもらった肩掛けを使ふ。最初は使用法どほり肩に掛けたが、これだと腕が寒い。最近は腕の上に掛けてパソコンを操作する。私も問題点を改善し、少しづつ進化する。(完)

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