千百二十二 草津節は西洋音楽を超える
平成三十戊戌
四月十四日(土)
草津節の楽譜を見ると四拍子だ。私は三拍子だと思ってゐた。否、今でも三拍子だと思ふ。つまり草津節は西洋音楽を超える。
まづ楽譜どほりに四拍子で指揮棒を振れば、拍子のつじつまは合ふ。しかし強弱が会はない。インターネットを調べると二拍子の楽譜もある。
更に検索すると栗原詩子さんと云ふ音楽の先生(中学高等学校教諭、東京芸術大学音楽学部音楽研究センター業務補佐員、西南学院大学教授などを歴任)が草津節といふ題のブログで
週末からは、喘息再発に肺炎まで加わり、しぬかとおもった。(中略)今回の大病のきっかけになったのは、たぶん例の公開講座の重圧。
「音楽都市・福岡」というお題でしゃべるには、私の基礎知識があまりに足りず、神楽から、福岡に伝わる民謡、福岡出身アーティストのJポップ、そして芦屋歌舞伎まで、めくらめっぽう調べながら、「でもこの話題もいまいちね〜」と自信を持てずにいた日々。

ここまでが前置きで、これからが本題だ。
ただし民謡を調べるプロセスで、長年の誤解の解消、というおみやげもあった。
それは「草津節」に関する誤解。
母校のS教授の「KUSATZ」の小咄により、草津節は3拍子だと思い込んでいた。しかし、民謡研究者がこの曲を2拍子で記譜していることを知った。

栗原さんを調べると、東京芸術大学音楽学部楽理科卒業、東京芸術大学大学院博士前期音楽研究科音楽学修了だから、S教授は東京藝術大学の教授だ。私とS教授は三拍子説、世間一般は二拍子または四拍子説。さてどちらが正しいか。

四月十四日(土)その二
草津節を三拍子とする場合、途中に二拍子が混在する。各小節の前に(3)は三拍子、(2)は二拍子を付けてみた。
(3){休}くさつ|(3)よいとこ|(3)一度は|(2)おいで|(2){どっこいしょ}|
(2)お湯の|(3)中にも|(2)こりゃ|(3)花が咲く|(2)よちょいな|(3)ちょいなー|

これを三拍子とするか二拍子とするか。まづ世間一般に流通する楽譜は、曲全体を二拍子または四拍子とするから論外だ。主旋律でお囃子(と一箇所だけはその前後も)を除いた部分は三拍子だから、三拍子説を採るべきだ。
楽譜にするとずいぶん複雑だが、その理由は草津節が西洋音楽と異なるためだ。西洋音楽が入る前の邦楽は、音程も五線譜には表せなかった。しかし音程は西洋音楽に合はせた。リズムもほとんどの曲は合はせたが、草津節は大正初めに埼玉県北足立郡の機織り唄が伝へられたとき、日本にはまだ西洋音楽とは別の下地が残ってゐた。

四月十五日(日)
私が小学生の時に、林間学校だったか柏学園(千葉県柏市は今では住宅地だが、当時は田園地帯で区内の各小学校が順番に野田醤油の工場を見学ののち二泊三日で宿泊した)だったか、夕食のあと皆で歌を歌ひ、校長先生が前で指揮を執った。三拍子なのに四拍子で振ったが、それで無事最後まで行った(音符が一つか二つ余ったかも知れないが)。
昔の人は三拍子や四拍子を気にしなかったのだらう。あと音程も半音の更に半分くらいまでは許容範囲だった。例へばレの音は、レのフラットとの中間以上、レのシャープとの中間以下であればよかった。和音を構成しないならこれで問題はない。
草津節は西洋音楽と比べて劣ってゐるのではない。超えてゐる。これが今回の結論である。(完)

追記、次のやうにも採譜できることに今朝気付いた。
(3){休}くさつ|(3)よいとこ|(3)一度は|(2)おいで|(2){どっこいしょ}|
(2)お湯の|(3)中にも|(2)こりゃ|(2)花が|(3)咲くよちょいな|(3)ちょいなー|

どちらがよいかは歌ふ人による。「花が咲く、よ」と歌ふか「花が、咲くよ」と歌ふか。後者はお囃子の影響が次の小節にも及んだと理論付けできるし、歌詞の区切りもよい。しかし歌ふ人の多くは前者だと思ふ。それは二拍子が連続すると慌ただしい。4小節目から6小節目までの場合、{どっこいしょ}を歌ひ手は休むため、二拍子が三つ続いても余裕がある。

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